『青辛く笑えよ』読書感想文
献鹿 狸太朗先生の『赤泥棒』に収録されている『青辛く笑えよ』(文藝賞最終候補作)があまりにも心に刺さってしまったので、ここに感想を書きます。
⚠以下、微ネタバレを含みます。
「死にたい」という単語を含む主人公(香本一鉄)の台詞で、物語は幕を開けます。
この時点で私は、死にたがりの主人公か!と少し嬉しくなりました。明るい話が嫌いなので。いろいろ書きすぎると著作権を侵してしまいそうなので省きますが、途中で単なる死にたがりではないことが判明します。(やくざな父親、生育環境などが原因)
一鉄には好きな女の子(梅ちゃん)がいるのですが、その子とセックスしたいとかいう邪な気持ちは全くなく、ただ「幸せでいてほしい」気持ちから彼女の日常を保つべく裏で色々手回ししています。挙句、身体を売って梅ちゃんが何かやらかした時用の1000万(厳密には違う)を稼いでいます。その1000万は梅ちゃんへの愛情そのものなのだと主人公は何度も繰り返します。彼にとってはハグもキスもセックスも愛している証拠になり得ないから、愛情を可視化するため(これも辛い過去が関係している)に金を貯めていたのだと最後の方で気が付きます。
藤本亮は、一鉄と見た目も性格も正反対の親友です。彼は成績優秀で先生にも一目置かれるような存在ですが、人間関係に少し臆病な所があるため、何でもあけすけに話す一鉄のことがかなり好きです。かなり。その様子は、週に三回も自宅で料理を振舞ってあげていることからも窺えます。
以下、感想
ラストシーンがほんとうに泣けた。一鉄に幸せになってほしいっていう藤本くんのまっすぐな気持ちが文字越しに指に伝わってきて、心がギュウってなって一鉄と同じくらい泣いた。一鉄に藤本くんという友だちが居てくれて本当に良かった。もしいなかったら、彼はそのままどん底に落ちて彼の父親のようになってしまっていたと思う。
「百三十円分愛してる?僕のこと」でこんなに泣くと思わなかった。
「全然愛してるよ、愛してるから一緒に上を向いて歩いていこうよ!」って叫びたくなるような作品でした。献鹿狸太朗先生ありがとうございますに尽きる。梅ちゃんとの関わりもえげつない暴力シーンもめちゃくちゃ良かったのでまだ読んでない方は是非、ぜひ読んでください。本当に面白いし確実に太字の台詞で号泣できるので。