見出し画像

いつもの廊下 第6話

逃げ墜ちる


その現実は、なにひとつ改変されなかった。

やはり息苦しい・・

この苦しみは、いつまで続くのだろう・・

期待させられて突き落とされた。

やっぱり、妻は、死ぬんだ。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



現実の改変


体外離脱した僕は、

いや。
当時の僕は、幽体離脱って思っていたのかな?

とにかく、7・8才くらいまで僕は、毎晩のように眠ったあと、身体を抜け出して楽しんでいた。

そんな記憶がある。

もちろん、ずっと、こんなバカげた記憶は、夢か妄想だと思っていた。いつからか、そう思って過去の記憶を常識にあてはめて改変していた。

でも、一つだけ・・

当時、二段ベットの下で寝ていた2才年下の弟が、毎晩のように縄跳びで僕をベットに縛り付けてくれていたという事実がある。

これは、父母にも確認済み。

いつも、弟は、寝る時に、訳のわからない事を言っては、僕とベットの柱とを繋ぐ。

「おにいちゃん、どっかいくやろ・・」

まあ、いい
更に、話そう。

おぼつかない記憶を辿っていく・・
この記憶は、当時も今も安定していない。
それは、布団に入って、
眠りに落ちるところからはじまる。

十分眠ってからはじまるのか?
それは、分からない。

離脱の際、自分で自分の姿を見たのかも、今じゃもう覚えていない・・
ただ、鮮明なのは、気がついたら我が家の庭の上空に浮かんでいるんだ。

わーい。やったー。

現実と同じ風景をありありと見下ろす。

そして・・

何時ものように、アノ宇宙を目指す。

大気圏を突破して・・

何時もと同じ
ぎらぎらした星々が気持ちいい。

まるで煙のように渦巻く星々・・

秒速数万光年で銀河を超える。

光の速さ以上を測れない人類。

浦島現象・・

人類の幼さが可愛く思えた。

ちいさな僕は、なんでも知っている。

想像(創造)の速度で彼に会いに行く・・

想像の源へ・・

着いた。
そこは、広大な宇宙空間の中の申し訳ないほど小さな区間に在る・・
宇宙ステーション?
母船?
そんな、印象。

甲板?
まで彼が、いっつも迎えに来てくれている。

もちろんここも宇宙空間だ。

顔を合わす。
嘘みたいに、めっちゃ知ってる人・・

アイコンタクトすると

お互い、怖いくらい、めっちゃ笑顔になる。

この人は、僕を無条件に愛している。

二人は、絶対的な対等。

対等でありながら、僕が上の存在。

理解する。以上にしっている。

僕は、ここの神様とも対等な関係。

でも、神様が上の存在。

なんか、そんな感じで地球より居心地が良かったんだと思う。

まぎれもなく、僕は、ここの人なんだと・・今でも、割と本気でそう思っている。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



逃げ堕ちる

その日
看護婦さんが、僕に
今夜は、病室に泊まって欲しいと言ってきた。

ベットのそばには、見慣れない、
いつもと違う機材が取り付けらていた。


普通なら、分かるよね。

彼女は、今夜持たないと・・


でも、その時の、疲弊しきった僕には、
そんなことを想像する余裕はなかった。
わかるかな?
この気持ち・・

疲れ果てて・・何でもいい・・


もう、どうでもいい・・


でも嬉しかった。

妻のそばにいられるだけで


でも、ちがう・・

違う。
違う。
違う。

そんな、美しい想いは、残念ながら大嘘だ。

その時、嬉しかったのは、
痛みと苦しみで何も言ってはくれないけれど
妻と一緒にいると、
何故か、僕は、
僕を死にたくさせる息苦しさから解放される。


ああ、こんな時でも彼女に依存している。

だから不安から少しだけ解放される。

それが、いちばんの理由だ。


ひとり車で、
ひとり誰もいない部屋に帰る。

孤独がうるさくて気が狂いそうになる。

闇。
闇。
闇。

闇のなかで
弱った僕は、低級な悪魔と波長を一つにする。

~いまに、彼女と会えなくなるぞ~
~ひとりになるぞ寂しいぞ~
孤独・孤独・孤独・孤独

もう、耐えられない

最愛の家族を失った者が、もれなく味わうだろう最悪の喪失感。

情け無い
もう数週間以上、毎晩のように、これを味わっている。

妻は、今も生きて戦っているというのに・・

あんなに、可憐に死と向かい合う妻がいて
自分のことを心配して苦しんでいる僕がいた。

たのしくて、笑いあって、やさしく過ごした日々の記憶が・・
良く研がれていない刃物となって今僕の心臓に刺さっている

苦しい。
苦しい。
苦しい。
苦しい。

もう、

もう、ずっと苦しい。

そんな僕に、
世界は、何ら気を使うことも無く、
淡々と決められたプログラムを実行していく。

ESC・・

また逃げ堕ちる。


僕は、眠った。

死後の世界に落ちていくように、この世の苦から切り離されていく

死の瞬間を医師に知らせる機材の横で・・


つづく・・


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?