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子猫のノーラ、街へ行く

『美味しい猫缶・「ぷち」! さらに美味しくなって新発売!』
 TVという箱で、猫缶のことがやっています。
 黒い子猫のノーラは『ぷち』が大好きです。ご主人の那奈と同じくらい。
「うなぅー(おいしそうですねー)」
 ノーラが言うと、那奈がん?、と首を傾げました。
「ノーラ、『ぷち』が欲しいの?」
「にゃあ(まぁ、ほしいですよ)」
 那奈がノーラの頭を撫でます。
「そっかそっか。でも、ないから、違う猫缶をあげよう」
 那奈がリビングへ向かいます。
 カシュ。
 音がして、ノーラは猫缶が開いたのが判りました。急いで那奈の後を追います。
「はい、お食べ」
 はぐはぐと、ノーラは食べ始めました。
 うん、おいしいですね。
 舌でペロッと口の周りを舐めます。
 『ぷち』は贅沢品です。美味しいですが、めったに食べれません。
 たまには、たべたいんですよ。ななさん。
 那奈はカーペットに座り、チラシを見始めています。
 彼女は貧乏学生です。チラシのチェックは欠かせません。
「ん? あれっ、『ぷち』が安いっ!」
「にゃにゃっ?(にゃんですって?)」
 ノーラはチラシの上に乗りました。
 ノーラには字は読めませんが、那奈の顔を見るに、本当のようです。
「ど、どうしよう、買いに行かなきゃ!」
 ノーラの心が躍ります。
 『ぷち』をたべれる? たべれるのですかね?
「ああっ、でも十時から二時間だけのタイムセールっ? 授業が……!」
 那奈がしょぼん、と床に手を着きました。
「うにゃにゅっ(ななさん、ぼくにまかせてくださいっ)」
 項垂れる那奈の肩に、ノーラが手を置きます。
「ノーラ? 行ってくれるの?」
「なわ(もちろん)」
 ノーラの特技。それは、手押し車を押すことです。
 お買い物くらい、きっとできます。
 いかせてください、『ぷち』のため!
 ノーラ、初めてのお外です。

「すぐそこのお店屋さんだからね」
 那奈はそう行って、学校へ出かけていきました。
 那奈が帰るのはお昼の十二時半。それまでに帰って来れればいいのですから、楽勝です。
 カラコロカラコロ。
 ノーラが手押し車を押して、お店に向かいます。
 ノーラの首には風呂敷。そして、その風呂敷にはメモが張ってあり、こう書いてありました。
『学校があって行けないと思っていたら、この子が行ってくれると言ったので、この子に託します。この風呂敷に代金が入っています。この子の手押し車に「ぷち」を載せてあげてください』
 お店に着いたと思った途端、ノーラはびっくりしました。
 ヒト、ヒト、ヒト。
 これは……
「うなーな?(みなさん、『ぷち』をかうかた?)」
 そのとき、店員の声が聞こえました。
「『ぷち』を買う方はこちらが最後尾でーす! 並んでくださーい!」
 ああ、やっぱり。
 カラコロカラコロ。
 ノーラは仕方なく並びます。
「ウチの猫ちゃん、『ぷち』が大好きで……」
「あら、ウチもですよ」
 そんな会話が聞こえてきます。
 ぼくだって『ぷち』だいすきですよ。ああ、もう。たべたい。
 ノーラが、ぷふぅ、と息を吐きます。
「あらっ?」
 目の前で話している人たちが、ノーラに気付きました。
「わぁ、可愛い黒猫ちゃん! あら、なにか書いてあるわ」
「『この風呂敷に代金が入っています。この子の手押し車に「ぷち」を載せてあげてください』だって! いやーん! この子偉すぎー! じゃあ、私と一緒に並ぼっか!」
「うな(おねがいします、おねえさん)」
 目の前の人がノーラを抱き上げて、いい子いい子、と頭を撫でました。
 さすが他の猫のご主人。抱っこするのも撫でるのもとても上手です。
 彼女たちとの会話はとても楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
 待つこと二時間。
 やっとノーラたちの番が来ます。
 しかし。
「あれっ、あと一つしかないんですか」
 お姉さんが店員さんに訊きます。
「スミマセンね。たくさんご用意してたんですが」
 店員さんが言うと、お姉さんがそれを取り、違うコーナーに行って、何かを取ってきました。
 それは、ご飯を入れるお皿でした。
「黒猫ちゃん、私の家でも猫ちゃん待ってるから、全部はあげれないの。でも、二人で分けよう」
「にー?(いいんですか?)」
「いいのいいの!」
 一人と一匹が会計を済まし、お店の外に出ます。
 お姉さんは手押し車にお皿を載せ、その場で缶を開けて半分載せました。そして、メモ帳とボールペンを取り出すと、何かを書き、ノーラの風呂敷の中に入れます。
「黒猫ちゃん、ご主人さんにお手紙書いたから、渡しといてね。じゃあ、また会おうね!」
 お姉さんは半分しかない猫缶を手に、颯爽と去っていきます。
「みー!(おねえさん、ありがとうございました!)」
 ノーラは彼女の後姿にお礼を言い、手押し車を押して、反対方向へ歩き始めます。
 カラコロカラコロ。
 アパートの前には、那奈。
「ノーラ!」
「みゃお!(ななさん!)」
 ノーラの足が速くなります。
 彼は那奈の前まで来ると、那奈の足にガバッ、と抱きつきました。
「買えた? ……ん、なにこれ?」
「みゃーお(ななさん、おてがみがあります)」
 那奈はそれを聞いて、ノーラの風呂敷からメモを取り出し、目を通します。
『飼い主さんへ
 残り一つしかなかったので、私と黒猫ちゃんと、半分こしました。お皿は黒猫ちゃんへのプレゼントです。どうぞ、とっておいてください。
 最後に。黒猫ちゃんはとてもいい子でした。褒めてあげてくださいね。では』
 そっか。
 那奈はそれを読んで、にっこり笑い、ノーラを手押し車に入れて手押し車を持ち上げ、アパートの階段を登っていきました。
「ノーラ、偉かったね」
「うなんな(ありがとうございます、ななさん)」
「それだけじゃ足りないだろうから、ヨーグルトあげるね」
「みゅ(ありがたくいただきます)」

 さあ、家に着いたら、楽しいお昼ご飯の始まりです。

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