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子猫のノーラ、お料理を作る

 黒い子猫のノーラが、ご主人・那奈(なな)の背中をじーっと見ています。
 那奈は今、学校の課題であるレポートを制作中です。
 朝一番に提出なのですが……
「っあー! もうダメェ!」
 那奈が机に突っ伏しました。
「なう?(だいじょうぶですか?)」
 ノーラが思わず駆け寄りますと、那奈は突っ伏したままで顔だけ横に向け、子猫を見ました。
「大丈夫なわけないよぅ。なんでこんなに出来上がってないの~」
「みゅ~にゅ(それは、ななさんがぼくとあそびすぎたからですね)」
 この賢い子猫は、これまでの数日間を思い返していました。猫好きな那奈は、ことあるごとにノーラと遊び、ノーラの為に色々してくれていました。それはそれで嬉しいのですが最近は遊びの回数が多く、ノーラは内心、那奈のお邪魔になってないか心配だったのです。
 那奈は壁にかかっている時計を見ました。
「ご飯食べる暇もないなぁ……」
 那奈は呟きながら、またパソコンに向かいます。
「ノーラのご飯は用意してるし、今日は私のご飯は抜きでいいや……」
 それはいけません。ご飯は元気の源。食べないと力が出ません。
 ノーラは決意しました。
「みゅ!(ごはんをつくりますよ!)」
 ご主人さまのためならなんのその!
 やってみせます、お料理を!

ノーラの目の前にありますのは、お茶碗に入れてある冷や飯。ラップがかかっています。
「みゃう……(まずはこの『らっぷ』とやらをとりはずしてですね……)」
 まだ柔らかい爪をにゅっと出しますと、ラップの端に引っ掛けて、慎重に……。
 ペリペリペリ……
 小気味いい音が、台所に響きます。
 ノーラは賢い子です。ラップを巧く剥がせるように、先にラップの端を全部めくっていくのです。
「み(はしっこさえめくれば、こっちのものですよね)」
 ラップは早々に、ご飯のてっぺんにふわりとかかった部分だけになりました。
 残りの部分に爪をかけて、えいや!と取り除きます。
 ……巧くできました。ノーラ、ご満悦。
「にゃわ(まぁ、これくらいなら、おてのものですね)」
 次は、箱に入ったお茶漬けの小袋を、あむっと咥えて持ってきます。勿論、のちのち破りやすいように、咥える部分はてっぺんの、封をしている辺りです。
 冷や飯の近くに来ました。ノーラは袋をそっと横たわらせます。
 お茶漬けの袋は破りやすい素材です。それを知っているのか、ノーラは前足で袋を押さえつつ袋の端を咥えて首を捻り、お茶漬けの小袋を開けました。
 袋を歯で噛んで持ち上げ、中身を巧いこと冷や飯にかけます。
「みゅ(われながらうまくいきましたね)」
 それから、同じ台に乗っている電気ポットまで、茶碗を頭で押して歩きます。
 そして上半身を起こしますと、彼は丸いボタンを見据えました。
 これを押せば、お湯が出るはずです。
「にょ……(これをおせばいいんですよね)」
 ぎゅむー!
 ノーラが体重をかけてボタンを押しました。
 しかし、お湯は出てきません。
 ノーラは知りませんでした。このポットには事故防止の安全装置がついていて、『開放』と書いてあるボタンを先に押さなければお湯が出ないことを。
 そして、知る術もありません。
 いくらノーラが賢いとはいえ、流石に人間の文字は読めませんから。
「にゅ? にゅ?(なんで? なんでなんですかね?)」
 ノーラはポットを上から見るべく、ポットに前足を乗せて体重をかけました。
 うむ、いじょうはないですね。おかしいですね。
 ところがそのとき、バランスを崩してよろけてしまいました。
 ガシャン!
 ノーラの体が棚に当たり、棚から荷物が落ちました。
 からん、からんからん。
 それはノーラの鼻先を掠め、ポットに当たって床に落ち、動きを止めます。
 ノーラはビックリして尻尾を膨らませ、落ちたものに対して威嚇をしましたが、はっと我に返り、ふるふると首を振りました。
「むみゅ(こんなことしてるばあいではないんですよ)」
 それから、もう一度、お湯を注ぐボタンを踏みます。
 じゅあー!
 今度は程よい温度のお湯が、冷や飯にかかりました。
 ノーラは子猫ですから、体重が軽いです。そのおかげで、冷や飯にかかったお湯の量もちょうどいい塩梅。これは嬉しい。
「にゅ?(しかし、おゆでたの、なんでですかね?)」
 実は先ほど、ポットに当たった荷物が、『開放』ボタンに当たっていたのでした。
 ただの偶然ではありますが、そんなのはどうでもいいのです。
 お茶漬けができた。一人でできた!
「みゃ~お~ん!(ななさ~ん、できましたよ~!)」
 ノーラは嬉しくなって、大声で那奈を呼びます。
「なーにー、ノーラ?」
 那奈が台所に入って、ノーラの姿を確認しました。隣には、できたてほかほかのお茶漬けも。
「わぁっ! ノーラ、作ってくれたの?」
「にゃわーん!(そうですよ!)」
「嬉しーい! ありがと!」
 那奈はノーラを抱きかかえて、いい子いい子、と撫でました。
「でも、ポットは危ないからね。もう触っちゃだめだよ」
「にゃっ(はい、りょうかいですっ)」
 彼女はその返事を聞いて安心すると、抱いていたノーラを床に降ろしました。
「じゃあ、せっかくだからご飯にしよっか」
「にゃっ(はいっ)」
 これだけがんばったんだから、れぽーとがんばってくださいね、ななさん。

 ノーラはそう思いながら、お茶漬けを持った那奈と一緒に、テーブルのほうに歩いていきました。

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