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姉の入籍

姉が入籍した。
暦は秋になってもそんな様子を微塵もみせない夏の盛り。
姉は姉じゃなくなった。

小さいときから何をするにも一緒。
お揃いの服、お揃いの鞄、お揃いの髪型。
習い事はふたりで。部屋も一緒。
ふたりでひとつ。

ある時からふたり一緒に行動することが嫌になった。
友達の取り合い、人の目の前で喧嘩。
親や周りはほとほと困っただろう。
親は私たちを比べるようなことは滅多にしなかった。
ただ、周りから無意識に比べられること、優劣をつけられることは避けられなかった。
比較対象が常に真横にいる状況。
ちゃんと自分だけを見てほしかった。
ひとりっ子が本当に羨ましかった。
ほかの家庭のきょうだいが仲良くしている様子が不思議でたまらなかった。

高校の時、姉は不登校になった。
理由はいまも知らない。
毎日姉の代わりに複数の先生から面談を受けていた。
私は姉じゃないから毎日面談しても答えはでない。
毎日、おまえは学校に来ていてよかったよと謎の言葉を掛けられる。
どうして私が毎日面談してるんだろう。
同じ家にいるだけでどうしてここまでしなきゃいけないんだろう。

不登校にはなったけど、姉は要領がいいタイプで、生徒会も、部活も、大学受験すらなんなくパスした(ように見えた)。
私は要領がよくない。
友人関係も、恋愛も、受験も全て劣っているように思えて仕方がなかった。
恋愛なんか、姉が付き合っている人は私が好きだった人だとか、姉にフラれて私に告白したとか、勝手に尾ひれをつけて噂を流される。面倒だった。
今思えば劣等感の塊だったのだと思う。
唯一、勉強は姉よりも少しできたのだと、通知表を盗み見て知った。

どうにか受験を切り抜けて、姉と離れて生活することになった。
離れて暮らすようになったことで、姉と接する時間が短くなった。
単純に私しか知らない人が多い環境にいることで、客観的に「私」を見てくれる。
比較されない。姉を知らない。
その事が心の余裕をもたせてくれた。
私は私でいいのだと感じるようになった。

留年の危機はあったらしいが、姉は無事卒業し手堅い職に就いた。とんとん拍子で入籍も決まった。
私はというと院進し、都会に出て、上司との圧倒的な不和であっという間に転職した。ちゃらんぽらんだ。
相変わらず親は何も聞かないし放っておいてくれるけど、親戚一同からの圧力はすごい。
まだ劣等感はぬぐいきれていないけど、周りからも驚くほど仲良くなった。
きょうだいで仲があまりよくないことを、周りは不思議がっていたけど、私たちは今の距離感が最適だと思っている。
結局のところ、仕草も、声も、笑うツボも怒る感覚も似ている姉は、何も言わずとも理解してくれる大事な存在だ。
お母さん、双子で産んでくれてありがとう。
他の人にはない貴重な経験をさせてもらってありがとう。

片割れ、入籍おめでとう。

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