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YUKUIDO 丸野 信次郎

YUKUIOは住宅や店舗を手掛ける工務店ながら、スタートアップなどが入居する複合ビルの運営、ブックカフェ、観葉植物の販売、工房を開放しての音楽ライブなど幅広く活動を展開している。

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東京都台東区東上野、大通りから一歩中に入り住宅街を歩いていると、突然おしゃれな植物に囲まれた一角が現れる。
YUKUIDOが手掛けるROUTE89 BLDG.だ。
もともと工場の入っていたビルを、自社の工房や事務所、レンタルスペース、ブックカフェなどが入る複合施設としてリノベーションし、運営している。

長屋のお父さんのように見守る

ブックカフェROUTE BOOKSでコーヒーを飲みながら、ゆるゆるとインタビューはスタートした。

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「今日は何を話したらいいんだっけ?質問に答えればいいのかな。」
どことなくシャイな信さんこと丸野信次郎さん。
まずは2人の出会いの経緯について、RINNE小島が話し始める。
「うん。」
「そうそう。」
相槌を打つ丸野さんに乗せられて、小島の喋りが続く。
「私ばっかり喋っちゃう。」
という小島に、
「それでもいいと思う。俺のこと知っているから全部喋ってもらっても。」
と、どこまでも控えめな丸野さん。

入居するテナントのみなさんにも、丸野さんは長屋のお父さんのように見守って世話をしてくれるという。

週末に工房を開放して始めた、ライブもすっかり定着し、アーチストからの問い合わせも多い。

今度はカフェの厨房を開放して、場所を探している料理人に使ってもらうことも考えている。

この丸野さんの懐の広さはどこから生まれてくるのだろう。

実は選んでいる

「でも、誰でも良いってわけではないんだよね。」
物件への入居者や、ライブの登壇者について、丸野さんは言う。

ここの世界観と共通するものがあるかどうかで判断しているが、それが何なのかはわからない。
完全に丸野さんの個人的な価値観で判断している。

人だけではない。
本業の工務店の倉庫に誰かがそこにそぐわないものを置いておくと、丸野さんがそっと隠しておく。
廃材を扱うからこそ、その空間に配慮して使ってほしいからだ。

それで伝わらない場合は、「こうしておいてね」と何度も何度も伝える。
それでも片付かない場合は全部捨てる。
強行突破だ。

何かの判断基準が丸野さんの中にはある。

ガラクタの店がおしゃれな店に

この場所もいいセンスだと言ってもらえるようになったのは最近のことだ。
ブルックリンやポートランドが日本でも注目されるようになる以前から、廃材や廃家具などを活用していたが、以前はガラクタの店みたいに思われていた。

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そうかと言って、廃材を活用することを理念にしている訳ではない。
もったいないから使えるものを工夫して使った結果だ。
それでも、木材の切れ端など工務店を営む上で、月にトラック2台は廃棄が出てしまう。

「それも、木材としてリサイクルできる形で処分しているんだけどね。」
廃棄が出ないように現場でも出来る限り工夫して木材を使っているが、どうしても数センチの木っ端と呼ばれる木片が大量に出る。
建築でも、家具でも小さすぎて使い道が無い。

Rinne.bar の定番商品 “KOPPAくん” は、この木っ端を丁寧に加工した手作りキットだ。

木っ端をパーツに使い、世界に一つの人形を作るというものだが、その加工にもYUKUIDOさんの工房を使わせて頂いた。

変わっていくことが前提

Rinne.bar のオープン時、内装や家具を手掛けたのもYUKUIDOだ。
「お店は変わっていくものだからね」

当時丸野さんは、これまで手掛けた店舗や自身で運営したカフェの経験から、小島にそう告げた。
お店を始めてからも、お客さんの反応が当初の予想と違っていたり、次第にやりたいことが見えてきたりして変わっていくものだと。

Rinne.bar の中央にはそれを象徴するような大きなテーブルがある。
廃材を透明なFRP樹脂で固めたもので、天板の中に様々な木片や、大工道具が埋め込まれているのが見える。

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これも、作り始めのタイミングでは完成形が見えていなかった。
FRP樹脂で天板を作ること自体が初めての試みだった。
実験のノリで作業しているうちに、これも入れたら良いじゃないかと白羽の矢がったのが、古い大工道具だ。

現役を引退した大工から引き取った金槌やカンナ。
錆だらけでもはや道具として使うことはできないが、YUKUIDOにストックしてあったものだ。
テーブルの象徴的なアクセントとして使うことで、 Rinne.bar のハンドクラフトの精神と、使い古して味わいのある大工道具がつながった。

“現場合わせ”
丸野さんがよく使う言葉だ。
大まかな方針を決めたら、細かなことは現場の様子を観ながら決めていく。
それをいちいちお伺いを立てていたら、時間もかかってしまうし、そもそも予め計画したとおりに行かないことも多い。

イチオシ商品はここに集まる人

YUKUIDOのイチオシ商品を尋ねると、あえて言うならと丸野さんが口にしたのは、手掛けた店舗でもなく、廃材を使った家具でもなく、ここに集まる人だと言う。
ここに集まる人々が楽しんでやっている様子を見てほしいと。
カフェに来るお客さんはもちろん、DIY教室や、週末のライブ、陶芸教室などここから生まれた様々なことに関わる人のことを語る時、丸野さんは少しだけ饒舌になっていた。

工房を開放してDIY教室をやるときも、どうなるかはわからなかったが、無料にしたほうが面白そうだとやってみた。
とりあえずやってみようと始めたら、だんだん人数も増えてきて、面白いコミュニティになった。
予想外だった。
そこから仕事の受注につながることも有った。

ブックカフェも始めるときはみんなに儲からないと言われた。
自分でもそう思ったが、面白そうだったのでやってみた。
やってみると、メディアのひとが取材に来た。
やがて色んな人が集まってきた。

軽やかさと懐の広さ

この丸野さんの、“どうなるかわからないけど面白そう” と感じる方へ舵を切る軽やかさ、そして取材の冒頭で感じた懐の広さはどこから来るのだろう。

取材後に、工房内を見学させてもらって一つの仮説が浮かんだ。
リノベーションされ見違えるように生まれ変わった古いビル。
これを自分の手で作り上げたという事実に裏付けされた自信ではないだろうか。

ここに見えるものは全て、何がどう加工され、どう設計されているのか、材料は何なのか、全てがわかる自信。
やってみて予想外のことが起こることは織り込み済みだが、現場合わせでなんとかできる。
そんな自信。

手のひらに乗るような小さなものでもよい、全て自分で作ったものは、どこかの誰かの手で生産されたものと違ってブラックボックスが無い。
どんなふうに扱えば壊れにくいかもわかる。

工務店として取り組む全ての仕事の積み重ねが、その自信に繋がり、丸野さんの未知の可能性を楽しむその姿勢を支えているのではないだろうか。

そんな丸野さんの懐の広さが、この場所を作り上げている。
ここに集まる人々が自由で楽しげに過ごす様子を、今日も長屋のお父さんは優しく眺めているだろう。

取材:小島 幸代、新野 文健
文:新野 文健

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