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STUDIO PEPE 関亦 マヤ

東京「池袋」に隣接する「椎名町」。
漫画ファンなら知っている手塚治虫や藤子不二雄が住んでいた「トキワ荘」があった街で、今なお昭和の匂いが残った商店街もある。ここに地域活動支援センターフレンドの工房「STUDIO PEPE」がある。

このペペという変わった名前の由来は小笠原諸島や八丈島で群生する光るキノコ「グリーンペペ」からきていて、個性が光るようにという意味を込めたそうだ。

このペペさんを知ったのはRINNEの創業メンバーであるデザインユニットHUMORABOと仲が良いことから。この工房の米袋から作られたトートバッグが個性的でRinne.bar/リンネバーでもよく売れているので、ぜひ制作現場に伺いたいと考えていた。

社会からかけ離れているのを変える

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私がこの人好きだなぁと思うタイプは「社会に違和感を感じ、愛を持って変えていこうと戦っているひと」だ。関亦(セキマタ)さんにも最初お会いした時そんな印象を感じた。

専門学校でデザインを学んだあと、写真家のもとで修行していた矢先、妊娠〜出産を機にキャリアチェンジ。精神科の病院で相談員として働き始めた。6年を経て、回復した患者さんのその後、社会復帰が気になり社会福祉作業所に転職する。それが今のペペさんだ。

今、彼女は勤続10年になるが当時をこうふりかえる。
「びっくりしました、あまりにも施設(精神障害を持つ人たちの社会復帰の現場)が浮世離れしていて。紙を折って箱をつくる、粘土を丸めて箸置きをつくる。この製品は誰が喜ぶんだろう? 世間のニーズから外れ、黙々とおしゃべりもなく作業している。」

社会と接合するはずの場所が、社会から隔絶された場所であったことに驚いた。
「自分のキャリアのことを考えると、この時間が止まった場所にいてはいけない、早く辞めようと思っていた」と言う。

ただ、施設内で配属が商品企画や作業計画担当になった時に本領が発揮される。利用者の人たちがつくるものが実際に街中に出た時に、他の製品と同じように扱われる喜び、自尊心を持ってもらいたいという想いが開花する。

「私が見える手の内では福祉の印象を変え、一緒にその世界をみたいと思って必死にやっていたら10年経ってたんですよ。」

地域にとけ込む、開かれた場所をつくる

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最初は目白の住宅街にあった施設、ご縁があって空き店舗の活性化のひとつとして、椎名町の商店街からお誘いで移転。

施設に籠もる仕事ではなく、商店街や地域の人たちと交わって貢献できるような仕事をやろう!と商店街の組合に提案して、朝のお掃除を請け負うようになった。

工房の「STUDIO PEPE」は作業所だけれど、他にできたリユースショップ「Green pepe」、コーヒーの提供や工房で作った雑貨を販売している「LASC*」は開かれた場所としてこの商店街に馴染むようになる。

*LASCとは、Local Activity Support Center(地域活動支援センター)の略。
地域活動支援センターフレンド内の福祉施設studio PEPEが、「福祉が地域に出来ることはなんだろう?」と考え、CPP(RINNEメンバーの前川夫婦、成田くんが関わる)の協力を得て、地域と施設をつなぐ「公園」のような場所を目指して開設。

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街の人たちと毎日顔を合わせるうち、商店街の忘年会、新年会、近所の寺のお祭りに招かれるようになった。

こんな交流から、ある日、近所の米屋さんから「なんかに使えないか?」と持ち込まれた米袋。丈夫なので、工事現場のガレを収納する袋として使われていたが、規制が厳しくなり廃棄するしかなくなったものがペペさんに回ってきた。

「米袋の前は、革製品や陶芸などの製品作りが主流で、そちらの作業に追われていたけれど、米屋さんと顔合わせるたびに『あれどうなった?』と聞かれるから仕方なく開発に取り組んだんです(笑)」

米袋や小麦袋から生まれるプロダクツ

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調べてみると米袋をバッグにリメイクしている商品は多い。自分たちらしいモノ作りを模索する中で、いろんな専門家のアドバイスをもらった。

撥水や紙の強化に「柿渋」や「コンニャク糊」。紙の貼り付け方法は看板やポスターの貼り付け作業をされていた関亦さんの旦那さんから指導をもらう。洗濯機に入れてみて強度をはかり、余すところなく使えるか実験する。本体部分は4枚重ね、底部分は6枚重ね持ち手にしてみるところまで、工夫を重ねてきた。

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「柿渋」は渋柿を発酵させた自然塗料で、紙に塗って乾燥させると硬化し撥水作用もあるので、古くは傘などにも使用されていた。日に当たると茶色に深みが出て経年劣化も楽しめるのが魅力。

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トートバックだけではなく、ブックカバー、カードやペンケースなど時間をかけてさまざまな商品ができるようになった。

商品に自信があるから、普通に売りたい

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福祉関係に限られたイベントがある。そこにいらっしゃるお客さんの目的はチャリティ目的に買おうという雰囲気。出展者側も、○○作業所の○○さんに買ってもらったからこちらも買わないといけないという、内輪の善意の交換が発生してしまう。

時間をかけて良いものができたのに、半ば善意の押しつけのような販売に至ってしまう狭い市場に違和感を感じた関亦さん。

普通の社会の中で、欲しい人と売りたい人がちゃんとマッチングするイベントで売りたい。

ギフト・ショーなども考えたけれど、バイヤーさんが来てくれても大量生産はできないのでマッチングしない。
面白いと思って買ってくれる場所として、プロ・アマチュア問わずアートな作品を売る市場、デザインフェスタが良いと思った。

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結果は大成功。ひとつひとつ風合いが違う手間暇かけた商品は福祉作業所で作られたことと関係なく、手に取ってくださる方が大勢いた。作業者の人たちも売り場で接客をし、自信がついたという。

大量に生産はできない、ファストファッションと同じ土俵に乗らない

米や小麦の袋を一枚の紙にし、柿渋を塗り、こんにゃく糊で貼り合わせ、乾かしてオリジナル商品をつくる。全て手作業で行っている。
一般企業であれば、生産を第一に、テスト販売して、手応えを感じたら量産、広告マーケティングなどを考えたりするかもしれない。工場であれば設備を整え、効率の良い生産ライン考えるだろう。

ここでは生産が第一ではない。利用者の人たちが「健康で自立した生活を送るため」周囲の人たちと関わり、働いていることが大切だと考えている。

この作業所は、商品企画からパッケージや販売する際のPOP周りのデザインまでできる関亦さんがいてラッキーだけれど、企業とタイアップ製品をつくる際はHUMORABOも関わるなど、間に入るひとたちがその点を理解してコーディネートしている。

関亦さんいわく、一般の企業さんなら受注して、半年ぐらいで量を増やし、流行に乗っけて利益をえられるかもしれない。でも、私たちの製品はファストファッションではない。そのような短納期で量を欲しがるリクエストは答えられない。じんわりゆっくり3年ぐらい経って理解してもらう人たちが増えてきた。

(まだモノが少なかった)昭和な感じが好きなんです。
流行じゃなくて、人もモノも自然に等しく大切にされていく関係が良いんです。

そんな関亦さんの想いの元に、商店街の人が関わり、米屋さんが素材を届け、作業者の皆さんが丁寧に作業を続ける毎日がある。

簡単に飽きられては困る、表面的な付き合いで関わらない。(時間軸はもっと長い)
工房での商品づくり話が、どんどん盛り上がって時間オーバー。
大切なことを再度振り返るひとときだった。

取材:新野文健 小島幸代
文:小島幸代


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