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TOMOS company 山中知博

栃木県宇都宮にある「TOMOS company」は、2015年に創立。新しい福祉のあり方を模索する道程に明かりを“灯す”意味で「TOMOS」と名付けられた。今では県内に就労継続支援B型事業所が2つ、A型事業所(※)「TERAS company」(就労支援の未来を“照す”意)合わせて3つの福祉事業所を運営、障害者の自立、就労支援を行っている。

RINNEとの関わりは、寄付として集まる着物を何かに活かせないかと話を持ちかけたことが始まり。利用者の個性を大切にした商品開発、事業所内通貨の発行、関係者全員が集まる年次イベントは音楽フェスのよう。このような話を聞いていると福祉施設の閉塞的イメージが全くなく、むしろオープンで楽しそうだ。

福祉 × クリエイティブ × エンターテイメントを大切にしている

宇都宮駅を出ると車から降りてニコニコと手を振って迎えてくださる人がいた、TOMOSの山中さん。
取材のお話をした時に私たちの活動を通じてTOMOSの活動が広まることをとても喜んでいた。仕事仲間というより、同じ志を持つ友人として迎えられたような温さを感じる。

創業者はライブハウス会場などで、キャンドルアレンジメントを担当するアーティスト。そして、その同級生が福祉関係で働いていた。ある日、居酒屋で障害がある方も混じって福祉の話が盛り上がり、自分たちでより良く変えていこうという想いがかたちになりTOMOSカンパニーがうまれた。

そして山中さんも一年後に入ることになるが、その経緯もおもしろい。
パーカッショニストだった山中さんは音楽を通じて代表と交友があり、ある時「利用者の人たちを音楽で楽しませてあげて」と声をかけられ、自分が使ってる打楽器などいろいろ持ち込んで施設の人たちと親しく付き合う様になったことがきっかけ。次第に手伝うようになり、商品企画、流通を主に担当するに至る。

居酒屋で福祉とアートが繋がったり、音楽を楽しむ仲間が理想の環境を作っていく。商品の縫製担当の職員も自身でレザーブランドを持っていたり、異業種なスタッフが集まった話を聞いて筆者が思わず「(作業所の)利用者は実は自分たちだった?」と言うと、山中さんは
「ワハハ、そうですね。どちらかというと社会に適合できなくて集まってきたような、活かされてます」と楽しそうに笑う。

利用者の個性を活かす「刺し子」商品づくり

当初は「キャンドル」「編み物」「コーヒー」と利用者がやりたい作業に合わせて商品が作られていた。山中さんが入ってから、売りになる(TOMOS利用者の個性が出る)商品かつ、まとまった量を生み出せる商品は何かと考え、前から関心があった刺し子に目をつける。山中さん自身が刺し子でヘヤゴムを試作し、マーケットで売ってみると手応えがあった。

最初は職員がディレクションをして商品デザインを決めていたが、今では利用者の人たちが自発的に商品を作るようになった。タッセルがついたアクセサリーは今一番の売れ筋。

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RINNEとコラボレーションして開発した、古い着物生地に刺し子を入れたヘアゴム。米国オレゴン州ポートランドで発売をスタートした。

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襤褸(ボロ・古布/古着)をアップサイクルし、刺し子を入れた試作品。

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商品として使われなくなった部分的な刺し子素材も、コラージュしてコースターとなる。

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ペイントを入れた布、そしてそれにインスピレーションを受けて刺し子をいれた2人の合作。人によって仕上がりが全く違うので、突き抜けているものは芸術作品の領域だ。

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福祉サービスと事業運営のジレンマ

障がい者の就労支援している福祉サービスではあるけれど、事業としては売り上げ目標がある。経費の大部分である人件費をどう賄うか。

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B型の事業所は雇用契約ではなくて事業売り上げに応じて、利用者に工賃を分配して支払う。一人当たり平均1万円/月(4時間/日、月20日通所)。
毎日通って昼休みにジュースを買ったら残りがない。この報酬だと彼らの生活の豊かさに貢献できていないと考えた山中さん達は、工賃をあげることは難しいが「トモス通貨」という事業所内で運用できる通貨を考えた。20日通所して6,000〜7,000トモスとなる。

施設内に飲食コーナーをもうけて通貨を使えるようにしたほか、付き合いのあるカフェで飲食やケーキを買えるようにお願いして、月末には施設に請求される仕組みも作った。利用者が友人と食事をした、家族の誕生祝いにケーキを買って帰った、という嬉しいニュースも聞くようになった。

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A型は雇用契約があり、就労者の最低賃金を保証している。この最低賃金を保証した雇用契約で黒字運営ができている施設は全国で2〜3割程度。構造上の問題が大きい。でも山中さんはシステムのせいにはしたくないと言う。自分たちがやってることは売り上げが伴うことで説得力がでる。魅力ある商品開発、売り方をもっと工夫していきたいと言う。

しかし、利用者はデリケートだ。仕事に対してのイメージが良くないことも多く、プレッシャーがネガティブになり生産に大きく影響する。納期に関しては細かく伝えず、職員が責任を持って進行をみる。楽しく作業してもらうために音楽や室内の明るさまで気を配る。なによりも「成長している」と感じてもらうことを大切にしている。ものづくりのいいところは、少しづつ成長が感じられること、1週間前にできなかったことができるようになる。基本否定はしない、観察して褒めて、伸びてもらう。

やってきたことは遊びの延長

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フランスからビンテージ素材を仕入れてみる、素材で使っていたドライフラワーを天井に飾ってみる。手が不自由でも、片手で刺し子ができるような器具を作ってあげる。楽しく、心地よい施設を運営する職員の共通認識はどうやって培われたのだろうと、話を深く聞いているとそのヒントは「遊び」にあるようだ。

共に過ごす人たちとの関わりや楽しさが大切だと職員みんなが感じている雰囲気が伝わってくる。自ずとコミュニケーション、インプットしてきたことを共有する。なかでも年次の周年イベントは、取引先のカフェを1日貸し切って、ゲストトーク(昨年は乙武 洋匡さん)、アーティストのライブ、施設発表、知り合いの美容師がやってきて青空カット、利用者の作品販売、飲食と朝から晩までのお祭り。1日に施設利用者・関係者の家族、友人、知人がやってきて300人規模のイベントになるそうだ。

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山中さん曰く、自分たちでできることは限られているからどんどん周りを巻き込んでいく、でも誰とでもコラボするわけではなく、共感ができる仲間との相性、特に地元とのつながりを大切にしたい考えだ。利用者のなかには、どのように外に出ていけばいいかわからない人もいる。きっかけを創出し、社会との接点を作っていければいいという。

最後に、自分たちが望むノーマライゼーションの世界を作れるように、RINNEとも一緒にフェスをやろうと盛り上がった。
あの人も呼びたい!ダンスもしよう!マーケットはたくさん出店があるねと、まるで遊びの約束のように多様な人と楽しくありたいという気持ちが互いにあることを確かめあった。TOMOSの灯りに照らされる、これからの明るい世界が楽しみだ。

▼山中さんがRINNEについても書いてくれました。ありがとうございます!


取材:新野 文健、小島 幸代
文:小島 幸代

※就労継続支援A型、B型事業所:就労訓練と福祉サービスを兼ねた支援事業所。雇用契約があり最低賃金が保証されるのがA型。B型は通所して事業収益に応じて工賃をもらう(雇用契約なし)。
詳しくは
厚生労働省(障害者の就労支援対策の状況)
就労継続支援A型事業とは
就労継続支援B型(非雇用型) とは
Research Report 平成 29 年度 就労系障害福祉サービスの経営状況について
就労継続支援A型事業所の経営改善計画書の提出状況等の概要

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