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蝉 semi 石川大輔

リンネノート

蝉 semi は、“デザインの寿命を長くする” を哲学として掲げるブランド。
屋外広告で使われたフラッグや懸垂幕などの生地をアップサイクルしたバッグを中心に、活動を展開している。

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東京都大田区、のどかな住宅街。
蝉 semiの石川さんの自宅兼アトリエへ向かう道中、メッセージが届く。

「飲み物を買いに少しだけ家を空けるので、もし着いていたら先に上がっていてください。」

約束の時間にアトリエに着くと、入り口の扉が開いていて、私達を迎えてくれるように2足のルームシューズが揃えてある。

程なくして、石川さんがお茶を抱えて帰ってきた。
足が少し不自由そうなのは、先日久々にバスケットボールをしたときの怪我だそう。

「社会人になるまでは、野球にテニスにバスケとスポーツばっかりしていましたね。」

考える人が、作って、売る

スポーツに明け暮れた学生時代、なんとなく出来そうだなと始めた高田馬場にある地元の鞄店でのアルバイト。
そのお店は、石川さんが好きなブランドの鞄を取り扱っていた。
街の鞄店で扱うには少し単価の高めのその鞄を、石川さんは売りまくった。

やがて、その鞄ブランドに就職する。
仕事をするということについてあまり深く考えたことはなかったが、クリエイティブなことがやれたらいいなと思っていた。

入社した鞄ブランドは、その後もどんどん大きく有名になっていったが、役割が分担されオフィスの中で実際に鞄を作る職人の姿を見かけることはなかった。

次第に自分の手で何かを作ることに興味が向かい、家具やインテリアを扱うグローバル企業に転職する。

そこは、日本での展開を始めたばかり。
自分たちで売り場のコンセプトを考え、デザインし、ディスプレイも自分たちで作っていた。
DIYでペンキを塗ったり工具を使ったり、仕事として自分の手で作ることに取り組むことが面白かった。

ディスプレイだけでなく、プロダクトを作ることにももっと関わりたいと、本国での勤務や転職の可能性を探っていた一方で、学びの場に戻ることも考え大学院の試験も受けることにした。

リーマンショックが転機に

2008年秋、リーマンショックが起こる。
あおりを受け、選考が進んでいたラグジュアリーブランドの採用がストップ。
石川さんはその年に設立されたばかりの慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)に入学する。

「いま振り返ると、あの時もし転職していても、仕事の内容はあまり変わらなかったでしょう。」
「そこで続けていてもまた同じ悩みに突き当たったはずなので、あのタイミングで大学院に行けたのは良かったですね。」

大学院では、街の商店街を活性化するプロジェクトに取り組んだ。
研究とは別のサブプロジェクトだった。

商店街の皆さんとの打ち合わせで、あるものが目に留まる。
街灯に吊るす屋外広告フラッグだ。

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掲出期間を終え不要になったものだという。
時間と手間をかけてデザインされたフラッグが僅かな期間で役割を終え廃棄されてしまう。

そのフラッグを使って、バッグを作るアイデアが浮かんだ。
バッグとして人々が持ち歩くことで、再びフラッグのデザインを街で目にすることができる。

ラッキーなことに、大学院ではミシンやレーザーカッターが自由に使えた。

鞄を作ったことはなかったが、鞄メーカーに務めた経験と知識がある。
作ってみようと思った。

デザインの寿命を長くする

商店街での取り組みがきっかけとなり、大学院の仲間と活動を展開することになる。
ブランド名の「蝉 semi」は、長い時間をかけて制作されたデザインが一瞬しか人の目に触れず蝉のように寿命を終えてしまうところからつけられた。

「もともと長く使えるような製品を選んで使うことに、強いこだわりがあったんです。」

グローバル企業で家具を売っていた時、その商品サイクルの速さに疑問を感じた。
これだけの規模でどんどん商品を入れ替えていたら環境負荷も相当だろうと考えたが、当時自分に出来ることはなかった。

「蝉 semi を始めたことで、自分の中でモヤモヤしていた課題にやっと取り組めて嬉しかったですね!」

現在は、きっかけとなった商店街のフラッグに加え、百貨店の屋外広告や産廃素材なども扱う。

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回収した生地は、きれいに洗浄されストックされている。
屋外で使われるだけあって、防水性もあり丈夫だ。
石川さんが見せてくれた様々なバッグは、どれも廃材とは思えない質感だ。

手に取ると、思いの外軽い。
実は、軽いバッグが好きな筆者も長年愛用している。

トルティーヤのためのバッグ

ポータブル・トルティーヤ・バッグ(PTB)と名付けたバッグがある。
石川さんの友人で、メキシコ人のシェフがあるときこのバッグを見て、

「トルティーヤをいれるのに丁度いいね。」
「日本人がおにぎりを持ち運ぶみたいな感じで、トルティーヤをいれたら面白そう。」

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そんな冗談みたいな会話から名付けられたバッグは、スマホとお財布だけいれて、ちょっとしたお出かけに丁度いい。
ベルト部分に帽子を挟んだりもできる。
コロナ禍で大きめバッグの出番が減った最近のおすすめだ。

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「カメラケースにもよさそう!かわいい!」
とはしゃぐRinneの小島。

そんな遊び心をもったPTBをはじめ、すべてのプロダクトは企画、製造、販売を自分たちでやっている。

「はじめは、外部に発注するために製品を理解しようと言う意図で、試しに自分で作っていたんです。」

けれど、実際に持ち込んでみると、蝉 semi のバッグは工場生産には合わなかった。
自分たちのやろうとしてることが特殊すぎたのだ。

自分が考える解像度に追いつく

「言うだけなら簡単だけど、それを実行して、しかも続けるって大変なんですよ。」

石川さんの言葉は、活動を継続してきた重みが有る。

こういうものが作りたいという自分の思い描く解像度に、自分のやっていることが追いつかなくてイライラするという石川さん。

けれど、これまでの歩みを伺っていると、スポーツで培った達成感覚を大切にしながら、自分のペースで着実に前進していることがわかる。

世の中のスピードから比べたら決して早くはないけれど、その代わりに時代の匂いを的確に嗅ぎ取って丁寧に仕事に反映している。

会社員を経て、大学院に戻り、そこから始まった蝉 semi の活動も来年2021年には10周年を迎える。
その歩みを振り返ると、まさにリンダ・グラットンの著書 『ライフシフト』 のようだと言う石川さんの言葉に、我々も激しく頷いた。

パラレルワークや、小商いなど、働き方の多様化が見直される今、手触りのある仕事を自分で考え、作り、売るという石川さんの経験に学びたい人は多いのではないだろうか。

アップサイクル製品を修理して再びアップサイクル

「最近は修理に力をいれてるんですよ。」

何年も使ってくれた蝉 semi のバッグに思い入れを持ち、修理を希望する人が増えている。
実は筆者が8年前に購入したトートバッグも最近修理してもらい、痛みやすい角や持ち手などが元通り以上に蘇って返ってきたところだった。

「修理の費用をちゃんともらおうとすると、意外と難しくて。」

そこで考えたのが、修理品と同等の新品を新たに購入してくれた人には、修理代を無料サービスするというアイデアだ。
これなら、修理でバッグが手元にない期間が発生しないので、依頼者も困らない。

そんなわけで、筆者の手元にも現在新旧2つのバッグが揃い、見比べてはほくそ笑むという幸せな状況だ。

修理に持ち込まれたバッグを解体していると、以前はこんなふうに作ってたなとか、ここがこんなふうに痛むんだとか、色々と発見がある。

「ほら、これ見てくださいよ、またこれでプロダクトを作ろうと思ってて。」

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修理で取り外した、使い古されたバッグの内張り布が何枚も見える。
汚れたり、ほつれた部分がカッコいいと言いながら、さらなるアップサイクルに思いを巡らせる石川さん。

短命だった蝉の寿命はまだまだ伸び続けるようだ。

取材:小島 幸代、新野 文健
文:新野 文健

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