トミさんの思い出

新築大工時代に、トミさんという左官職人さんがいまして。
どしんと恰幅の良い、一見すると強面(座頭市の某俳優によく似てる)なんだけど、常にひょうきんで周りを和ませてくれる方でした。

ある日現場に来て
「おはよー。おまえ、こうゆうの好きだろ?」
と買ってきてくれたのは「いちごミルク」
「オレも買っちゃった♪一緒に飲もうぜ。みんなにはあげないよ〜笑」
「おおこれ美味いな!もうちょっと飲みたくなるな、この中の空気でも良いやチュッチュしよー(紙パック)」
なんて事を強面でニコニコ話すから、来てくれる時はみんな笑顔に。

左官屋さんの社長さんは仕事に厳しく、大工の不手際や手抜きがあれば指導してくれる方で、お二人にはとてもお世話にになったと感謝している。

ある年の秋頃、初めて社長さん一人で現場に仕事に来て。
「あれ、トミさんは?」
「いやぁトミ、ちょっと調子悪いらしくてなぁ」

次の現場にはよく手伝いに来ていた別の左官屋さんと一緒に。

「トミさん大丈夫ですか?」
うちの親方が心配して聞いても「いやぁ腰がねぇ」「まだ調子悪くて」なんて話で半年程経ってしまった。

「トミさんガンらしい」

そんな話を聞くと余計に声をかけづらくなりつつ、病院にお見舞いに…と声をかけるも

「トミよ、あんまりみんなに会いたくないって言うんだ。」

進行して痩せてしまった自分を見せるのは忍びない、と。
そうして誰にも会わないまま、静かにその日を迎えてしまった。
「家族葬だから」との社長からの声にも関わらず、何人か職人さんたちは葬儀場に向かった。
自分も行きたかったけど、親方に御霊前を渡した。
トミさんはそれを望んだのだろうから。


現場でクマバチが飛んで来た時に
「これってトミさんに似てますよね」
「おっまえひどいなぁははは、でも似てるわ!ははは」


クマバチを見る度に、そんな会話を思いだす。

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