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ショートショート:数学ギョウザ【410文字】

近所に新しい中華料理店ができたと聞いて来てみた。不思議な店らしい、との評判だったが、来てみると何の変哲もない普通の中華料理店である。
カウンターに座り、餃子を注文する。
「はい。餃子いっちょう〜」
元気に響く大将の声。今のところ普通の店だ。
「はい、おまち!」
大将が僕の前に置いたのは、皿に乗った野球ボールだった。不思議なお店というのは、冗談がきつい、ということか?確かに、変わった接客で話題になる店はある。でも、餃子を頼んだら野球ボールが出てくるとは何事か。
「大将、餃子頼んだんですけど」
「ん?あ、君初めてか」
「はい。初めてですけど」
「じゃ、仕方ないな」
「どういうことですか?」
「ここはね、非ユークリッド店なんだよ」
「非ユーク……なんですか?」
「知らないで来たの?そりゃ困った」
「困ったと言われても」
「だって、君、鏡見てごらんよ」
何を言われているかわからず、店の奥にある鏡を見ると、そこにはドーナツが一つ落ちているだけだった。

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