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ショートショート:モノたちの物語【990文字】
静かな喫茶店のボックス席で、若い男女が向かい合って座っていた。二人ともやや緊張している様子。
「私から一つずつ見せるね」
「うん。順番に見せあおう」
二人ははにかむように、秘密を共有するように、顔を寄せ合って囁き合った。
「まず、私のモノはこれ」
女がテーブルに取り出したのは、純白の正確な立方体であった。
「これは【しっかりモノ】。子供の頃からずっと、しっかりモノなの、私」
「きれいなしっかりモノだね」
「うふ、ありがとう」
女は頬を染めながら【しっかりモノ】を鞄にしまう。
「じゃ、次は僕ね」
男は、キラキラ光るラメを纏った星形のモノをテーブルに置く。
「これは【人気モノ】だよ」
「まあ、素敵。やっぱりあなた、ずっと人気モノなのね」
「ありがとう」
男は照れながら【人気モノ】をしまう。
「私は、次はこれ」
鮮やかな青い人型をしたモノだった。
「これは【働きモノ】」
「こんなに美しい働きモノを持っているなんて、君は真面目なんだね」
「ありがとう」
「次は僕だ」
男は、カラフルなスライムのようなモノをテーブルに置いた。
「これは【お調子モノ】だよ」
そう言って男は笑った。
「ふふふ。あなたらしいわ。楽しそうなお調子モノ」
「そう言ってもらえると嬉しい」
男はお調子モノをしまう。
「じゃ、これが最後ね」
女は眩いほどに発光するふわふわしたモノをテーブルに置いた。
「これは【幸せモノ】。私、あなたと一緒になれて、世界一の幸せモノだわ」
「なんて輝いた幸せモノなんだ。嬉しいよ。そんな幸せモノを見せてもらったあとで恥ずかしいけれど、僕の最後のモノはこれなんだ」
そう言って男が取り出したのは、漆黒の小さなビー玉のようなモノだった。
「これは【小心モノ】。実は、僕はとても小心モノなんだ。君には隠したくなくて。嫌わないでくれるかい?」
「もちろんよ」
女の幸せモノはさらに輝きを増し、二人を包んでいた。
数ヶ月後。
「これどういうことよ!」
それは男のスマートフォンであった。
「あ! 違うんだ!」
「言い訳しても聞かないわよ。あなた持っているんでしょ」
女は男の鞄の中を隅まで探した。すると奥のほうから、ピンクの羽のようなモノが出てきた。
「やっぱりあった! 【浮気モノ】!」
「あー見つかってしまった。ごめんよ」
「隠していたのね。ひどい。この馬鹿モノ!」
女が叫んだ瞬間、鉛色のタライのような【馬鹿モノ】が男の頭に落下し、男は「うーん」と伸びてしまうのだった。
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