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雑記:永遠には続かない。

 関東在住なので、本格的な夏が近付き、雷の季節になりました。つい今しがたも、激しい雷雨が一時間ほど打ち付けて去っていきました。

 その間、私はイヤホンで大音量に音楽をかけて、目をつむり、ソファにじっと身を縮こまらせて、うずくまります。
 私は、雷が怖いのです。

 もともと怖かったのではなく、たぶん七〜八年前のことだけれど、屋外にいたときに激しい雷雨にあったことがあって、(代々木競技場にいた)自分のまわりに雷が落ちまくったという経験をしてからです。いわゆる突然のゲリラ豪雨で、代々木競技場はまだ開いてなくて、屋外で逃げ場もなく、ただ身を低くして行き過ぎるのを耐えていたのでした。一番近くで落雷があったと思われるとき、それはドーンという音ではなく、バチーン!という破裂音で、おおよそ雷の音とは思えないほどの轟音で、そのとき振動とともに自分の体のまわりにふわふわと静電気のようなものがまとったのです。帯電した、と思いました。

 あれから、雷が怖くなりました。雷注意報が出ている日は一日憂鬱です。来る。またあれが来る。空が暗くなりはじめて、風がヒヤっとしてくると、もうどきどきします。来る。またあれが来る。遠くで微かにゴロゴロ……と聞こえたら、もうイヤホンをセットします。激しいドーン!やバチーン!はもう聞きたくないのです。

 家に猫がいたときは、猫の様子が心配ですから、完全に目も耳も閉じてしまうわけにはいきませんでした。でも、今は私が守らなければならない相手は誰もいません。夫は雷を怖がるようなタイプの人ではないし、どこをとっても私より怖いものの少ない人です。私は私の恐怖心のみを抱えながら、自然の脅威が去っていくのをおとなしく待っていれば良いのです。頭はゆらゆらしますし、心臓はどきどきします。

 でも、大丈夫。永遠には続かないから。

 そういつも言い聞かせ、私は恐怖に耐えます。

 何事も、永遠には続かない。これは私にとっては魔法の言葉です。恐ろしいことがあっても、大丈夫。これは永遠には続かないのだから。どんなことでも、いつかは必ず終わるのです。ひどく長く思えた小学校の日々も、行きたくなかった中学校も、先が見えない看護の実習も、この世の終わりかと思った失恋も、今まで必ず終わってきた。例えば人生だって、何があったとしてもなかったとしても、永遠には続かないでしょう? そのことが私をいつも安心させます。

 今日の雷は、ほんの一時間で去っていきました。

 目を開けて、イヤホンをずらし、夫に「去った?」と聞くと「去ったよ」と。ほら、大丈夫でしょう。永遠には続かないから。自分にそう言い聞かせ、そっとイヤホンをはずします。

 やっぱり永遠には続かない。永遠とも思える時間も、永遠には続かない。だから私はきっと、今年の夏も恐怖心をおそるおそる抱きながら、雷に耐える。


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