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〆ゆっくりしていられない

「俺、今付き合えそうな人がいて
だから、もうこうやって2人で会ったりできないんだ。」

私はそう言われ、失恋しました。

私は学生の頃にスーパーでアルバイトをしていた。
彼は、同じアルバイト先の1歳年下の大学生。
身長は180センチくらい、髪は茶髪のくせっけ。
黒いPコートにエンジ色のネクタイ、黒いスキニーで

「忘れ物しました」

と休憩室に入ってきた。
走って戻ってきたのか、くせ毛の髪は乱れていて
息も荒かった。
そんなに急がなくても、忘れた書類は逃げないよって思いながら

「おつかれさま」

可愛いなあと思った。

アルバイト先のラインのグループで、
彼の連絡先を追加して、

「急に追加してごめんね!よろしくお願いします
「いえいえ!こちらこそよろしくお願いします!」

これで会話終わりかなって思っていたら、

「昨日誕生日だったんですね!おめでとうございます!」

私の誕生日から会話が始まり、
毎日やり取りをするようになった。
会話の内容は毎日他愛もないことで、
テストが大変とか、スノボが好きだとか
桜が綺麗だとかで写真を送りあったりした。

「敬語、使わなくて大丈夫だよ」
「分かりました!って、なんかタメ語って難しいね」
「使いやすいほうでいいよ」

何回か飲みに行ったりもして、
彼はお酒が弱いことも分かった。
1杯目で顔が赤くなる彼に、

「大丈夫?ゆっくりでいいんだよ」

余裕です、っていつも説得力がなかった。
帰りはいつも歩いて帰った。

「送ります」

いつも家の近くまで送ってくれた。
彼と並んで歩くとき、どきどきして
彼のなびく癖毛に触りたいと思った。
あぁ、もっと私の家が遠かったら良かったのに。

特に手を繋ぐとか、
恋人みたいなことにはならなかった。
ただ、いつものラインのやり取りみたいに
他愛もない会話をして帰った。

夏になって、彼のラインの返信が遅くなった。
毎日来ていた返信は5日来ないこともあった。
彼は、他県から来ている大学生だったので、
夏休みの帰省で楽しんでいるんだなと思った。
1日1通でも嬉しかった彼からの通知が来なくなった。
通知音が鳴るたびにすぐにスマホを見てしまう自分が嫌になって、
通知をOFFにした。

10月になった。
彼が帰ってきたことを知り、
9月は彼の誕生日だったので、プレゼントを渡した。
彼女でもないし、
なにを渡したらいいか分からなかった。
でも、何か目的や理由がないともう会えないと思った。

「遅くなったけど、おめでとう!」
「え、本当にいいんですか?ありがとうございます!」

なに入ってるんだろ~って何回ものぞいてて
内緒~ってまたいつもの帰り道を歩こうとした。

「あ、俺、今お腹すごく減ってて…今日は送れないです。」
「バイト終わりだもんね、大丈夫だよ」
「すみません。」
「また飲もうね」
「……気を付けて帰ってくださいね」

また飲もうね、に対する返事がなかったことが少し気になった。

1人で歩いて帰った。

脈ナシ、ということは薄々気づいていた
でも、暇さえあれば
彼のことを考えてしまっていることも
返信の来ないスマホが気になっていることは事実で

私は、彼が好きだった。

「今度の土曜日空いてる?」
「あいてますよ!」
「飲みに行かない?」
「是非!!」

帰りに、思いを伝えようと思った。
彼は優しいから、私が思いを伝えて振られても
気まずくはならないと思ったし、
また、友達として会ってくれると思った。

相変わらずお酒の弱い彼は、
真っ赤な顔をしながら、眠たいって言った。
もう帰ろうか、まだ22時だったけどお店を出た。
お店を出て5分くらい歩いて、
大きい橋の渡り初めに彼が、

「あの…、酔ってるところで本当に申し訳ないんだけど…言わなきゃいけないことがあって…」

最初は、自分が告白されるかと思った。
ほんの少しだけ、期待してしまった。

「うん、どうしたの?」

彼は、本当に言いづらそうにしていた。

「俺、今付き合えそうな人がいて…地元で。
だから、もうこうやって2人で会ったりできないんだ…」

頭が一瞬真っ白になって、
分かってても、泣きそうになった。

「ええーー!今日、私告白しようと思ってたのにーー!」

頑張って笑いながら言ってみた。

「俺、大学卒業したら地元に帰りたくて。もし、付き合ったら遠距離になっちゃうし、バスですぐ行けるような距離でもないし、本当にごめんね」

付いていくのに、と思ったけど何も言わなかった。
その会話の時だけ彼は何故か、タメ語だった。

「高校の同級生とかなの?」
「うん、夏休みに彼氏と別れてその相談に乗ってたらいい感じになって…今日も、飲みに行くって話したら、何もないようにねって言われて…」

そこまでは聞きたくなかったのが本心。

「話してくれてありがとう、本当に偉いよ、嬉しい」

何にも嬉しくない。
その後、橋を渡りきるまで何を話したかは覚えてなくて、

「じゃあ、俺コンビニに行くので、ここで」
「うん、今日はありがとうね」
「バイトの人達で飲みあれば、飲みましょうね」
「うん、ばいばい」

当然、送ってはくれなかった。
それが逆に優しさなんだと思うことにしたけど
帰り道は涙が止まらなかった。
風が冷たくて、涙も冷たくなって、鼻が痛かった。

帰りの途中、公園のベンチに1人で座って
もう連絡取りあうのもやめようか、と返信した。

「ごめんね」

とだけ返事が来て、
半年以上続いたやり取りも終わった。
私の恋はこれで終わった。

ちょっとだけベンチで泣いていく事にした。

タイミングって本当に大事だなと思った。
急いでる時に限って信号に引っかかるし
気合い入れたいときに限って化粧は上手くいかない、
適当な格好で出掛けたときに限って
知り合いに会うし、
なんとなく、うまくいかないように出来ていて。

ゆっくり時間をかける恋なんて、
相手の気持ちが自分から離れないって
保証されているときだけ。

夏前に私が思いを伝えてたら、
何か変わってたかもしれない。
自分の胸がどきどきしたら、
考える前にすぐ行動しないと
欲しいものってすぐになくなっちゃう。

ゆっくりなんかしていられない。

恋愛に不器用な私は
このことをちゃんと学んだから、
失恋の後ぐらいたくさん落ち込んでもいいよね。
   
                     つづく





















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