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電子カルテ開発(昨日の話の続き)

社会人1年目の時、運のよいことに当時の電子カルテの日本の権威と呼ばれる医師の元で、電子カルテ開発のITベンダー側のフロントに立った。100人の規模プロジェクトでフロントに立ったのは1年目の新人であった(これには深い事情があるが、ここでは話せない)。バックオフィスに100人のエンジニアがいて、1日要件定義が遅れただけで、大きな影響をプロジェクトに与えるプレッシャーがあった。

その権威の方と初めて会った時に簡単な面接があった。その時のことはよく覚えている。我々一人ひとり好みの女優が聞かれた。私は小西真奈美が好きと答えて問題なかったが、隣の同期は歌手の名前を答えてしまい、「それは女優ではない」と30分程激怒され、詰められていた。小西真奈美にいまでも私は感謝している。彼は最終的に出入禁止になった。

電子カルテでの開発で最も難しいのは、コアエンジンと呼ばれる注射、処方、看護、物流、会計等の部門システムをつなぐ中継システムのグランドデザインだ。オーダリング、物流、会計をリアルタイムに矛盾なく繋ぐというのは結構難しい。例えば、温度管理をしなければならない医薬品が冷蔵庫を出たら、もう冷蔵庫(=在庫)には戻せなという意味で、物流という観点では「消費」である。しかし、患者に投与していないため、「会計」的には請求できない。費用となってしまっている。温度管理が不要であっても、錠剤を粉砕して粉にしても、在庫に戻せるが、混ぜたり、溶かせたりすると戻せない。このような細かいコントロールをロット単位で行う。しかも、1度出された指示は、患者さんにサービス提供するまでの間に、50%程度の確率で変更される。変更されたタイミングによって、在庫に戻せるか否かを判断し、会計処理までする。オーダー間でも調整は必要で、手術の日程は変わると、食事の内容や検査の予定が変更になったり、キャンセルとしたりする。よくデザインされた電子カルテは、例えば患者さんに対する処方の指示を医師が変更した時に、どの検査結果を見て、何を契機に医師は指示を変更し、その指示変更がその後患者にどのような影響を与えたか分析できるようなデータモデルを持っている。
開発する側はその後の分析することを考えてデーモデルを考えているが、なかなか活用することは難しいのが現状だと思う。

その権威の方は朝8時から深夜まで働いて、夜中の2時であっても、病院の会議室にベンダーを招集した。私も帰る時が遅く電車で帰った記憶がない。精神年齢は中学生程度ではないかと思われるほど、立腹すると何時間でも怒り狂った。しかし、研究には厳しい方で、天才肌で誰もを納得させるエネルギーに溢れていた。この時の経験が私のキャリアの最も大きな出来事だ。

科学者と仕事をしている。バイオロジストも、ケミストもアクは強いが、精神年齢中学生の科学者にはあったことがない。

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