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【実録】愛してくれると、信じたかった。

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何千人もの女性を救ってきた女風セラピストは、私を幸せにはしてくれなかった。 彼が私に見せた、歪んだ性癖。 スワッピングに乱交パーティ、欲望渦巻くディープな世界で、私たちは…
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#実体験

26. 最後の確認

尊から離れると決めた日から、私は努めてたくさんの人に会った。 中学生以来会っていなかった友人、旅行先や留学先で知り合った友人、高校でお世話になった先生、趣味を通じて知り合った友人、学会で声をかけてくれた研究仲間。 そうやって、自分は社会とたくさんの接点があると実感すると、私の中の尊の存在は徐々にちっぽけになっていく。 そんなある日、高校の同級生に勧められて始めたマッチングアプリは、確実に私のターニングポイントになった。 尊の世界から離れるために、夢中になれる新しい出会

25. 意味なんか、なかった。

尊と2人で外を歩いていると、「海」のお客さんとすれ違うことがある。 常連さんは大抵旦那さんと一緒に歩いていた。尊は「向こうは気づいてなかったよ」と言うが、そうだろうか。この人は大切なことに気づかない。旦那さんは、奥さんが女風を利用するのをどう思うだろう。風俗が必要な時もあるんだ。必ず上手く機能する訳じゃないけど、女風がいくつもの婚姻関係を救っているのも事実だと思う。 婚姻関係といえば、パーティーにも時々、新婚の女が来ることがあった。 『ハルくん、久しぶり~!』 高い声

24. 愛しさの記憶

愛しいところより、 嫌いなところの方が多かった。 嫌いなところより、 分からないことの方が多かった。 それでも離れられなかったのは、 どこかで信じたかったからだろう。 いつか。 愛してくれると、信じたかったからだ。 クリスマスイヴに2人で過ごした日のことは、よく覚えている。 あの日は、尊の同僚とその奥さんも一緒に4人でコンサートに行った。私は奥さんになんとなく紹介されて、たわいもない話をした。まるで普通のダブルデートみたいな顔をして。 2人と解散してから、恋人繋

23. あぁ、嫌だ。痛い。嫌だ嫌だ

偶然シンジと会った数日後、 私たちはまた、彼のマンションにいた。 今度は「みんな」で。 隣のベッドでハルとかほちゃんがセックスしている。私が目をやっても、ハルはこちらを見てくれない。 あぁ、すごい苦しみだ。 私は一生懸命、目の前の相手に集中する。 だめだ。 余計に辛い。 こういうとき、私は公共の交通機関を利用している自分を想像した。おかしな話に聞こえるかもしれないが、具体的な駅の名前や構内図を詳細に想像できるから、簡単に気を紛らわせて気に入っていた。 男のサイズ

22. 苦しみを与えるために

≪ 21. 早朝のナイトクラビング 私とシンジがセックスすること自体は、尊も皆も当然知っている、というか見ているわけで、お互いのパートナーも特段咎めることではないけれど、これはあまり良い状況ではない。 本当に2人きりになるのはこれが初めてだった。 シンジの家には油彩から立体まで様々なアートが置かれていたが、私は一度もそれに触れなかった。音楽だけじゃなく芸術全般が好きなんだろう、でも私は、これ以上何か共通点を持つのが怖かったんだと思う。 『ハルくんのキス、いいよね。咥え

21. 早朝のナイトクラビング

≪ 20. 新たな始まり 「ハルくん、いないとダメ?」 広い玄関で、シンジの声が響く。 「え?いや、」 私は振り返る。 「コーヒー、飲む?」 彼は私を遮り、靴を脱いでリビングに向かう。 私は望んで、シンジに流されていた。 私がソファに座ると、キッチンから声がする。 「ハルくんはいないよ」 パートナー以外と外で会うのはルール違反。 そう、尊から聞かされていた。 2人で会っていいんですか、なんてバカ真面目な質問はできず、私は聞くタイミングを完全に失ってしま

20. 新たな始まり

≪ 19. 泣く故郷 シンジパーティーの主催者。作曲家。 ハル(海/尊)|女風で出会った私のパートナー。 よく手入れされた街路樹の葉が落ちてきて、 乾いたコンクリートの上をカラカラと転がる。 雑踏の中で、かき消される音を探すのが好きだ。 私には聞こえているよ、と言いたくなる。 夜勤を終え、朝方の六本木で信号待ちしていた時だった。 人はまだ少ない。 数メートル先でゆっくり停車したタクシーが、 なんとなく気になった。 こういう時、不思議な勘が働くのは何故だろう。

18. 芸術性を失った愛

≪ 17.蛇男 尊(ハル/海)|女風で出会った私のパートナー。 シンジ|乱交パーティーの主催者。作曲家。 ツユリ|全身タトゥー、スプリットタンの蛇男。尊の知り合い。 昔から緊縛ショーや見せ物小屋に関わってもいたから、こういう雰囲気は好きだった。緊縛は美しいし、ツユリも美しい。 二人とも、かなり酒を飲んでいたと思う。 尊にもっと私を見て欲しくて、私とツユリはどんどんエスカレートしていった。長く伸ばした髪が、汗ばんだ肌にぴったりと纏わりつく。 縄がいくら肉体に食い込んで

17. 蛇男

≪ 16. 人は人を捨てられないのに。 初めてハプニングバーに行ったのは、遅い夏の終わりだった。 その頃私は、もうほとんどの時間を新宿で過ごしていたと思う。もう何度も尊の部屋に泊まって、一緒にテレビを見て、私が夕飯を作ったりした。 尊は、若い頃からハプバー通いが激しかったらしい。パートナーがいたつい最近まで、よく足を運んでいたと言う。クローズドパーティの仲間にも、そういう場所で出会ったようだった。 行きつけだった場所でハロウィンパーティのイベントがあって、それが私のハ

14. 私を見つけて

≪ 13. 欲求を満たす喉の痣。 リビングルームで、初めて2人きりになった。 『ハルがしてるとこ見た?興奮しなかった?』 シンジは電子タバコを口に咥えながら、私に訊ねる。 「…いえ」 私が力なく言うと、 シンジは私をまっすぐ見つめて 『かわいそうに』 と小声で呟いた。 『ハマったら、もうたまんなくなるよ』 少し間をおいて溜息混じりに発せられた言葉。 シンジは、世間ではかなり名の知れた作曲家だった。 繊細で、人の心を搔き乱し、心を溶かす。 私は彼に出会う

12. かほちゃん

パーティーに参加していた人物について、少し書いておこうと思う。 かほちゃんは、シンジのパートナーとしてパーティに来ていた。 普段は女王様をしているらしい。 線が細くて、やわらかくて冷たい肌をしていた。 黒髪のロングヘアに小さな口が印象的で、初めて見た時から、好みの女の子だと感じていた。服飾系の専門学校に通っていて、ハンス・ベルメールとかが好きそうなタイプだった。 職業女王様をしているけれど、プライベートではマゾヒストだった。私は、かほちゃんに対しては専らサディストにな

10. いらっしゃい。

9月26日、19時40分。 前の予定とうまく時間が合わず、待ち合わせの20分前に歌舞伎町に着いてしまう。店に入るには時間がない。ウィンドウショッピングするような気分でもない。 路地裏で時間を潰すとき、新宿区役所脇の駐輪場は私のお気に入りの場所だった。ガードレールに寄りかかる。歌舞伎町でも比較的静かな場所で客引きもいないから、徒然に過ごすにはちょうど良かった。 待つ時間が長ければ、区役所横のルノアールと決まっている。 夜の仕事をしている人たちも多く、ほかの店舗とは全く違