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【実録】愛してくれると、信じたかった。

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何千人もの女性を救ってきた女風セラピストは、私を幸せにはしてくれなかった。 彼が私に見せた、歪んだ性癖。 スワッピングに乱交パーティ、欲望渦巻くディープな世界で、私たちは…
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#超短編恋愛小説

3. 躊躇なく伸ばされる両腕。

《蒼ちゃん、今会議が終わりました!今日は本当にありがとうございました。お話も興味深くて、楽しかったです。例の展覧館、休みの日に行ってみます!》 初めて会った日の昼頃、早速海からLINEが来た。 蒼(あお)。私の名前。偽名。 本名は教えなかった。 私はあの頃、大学院で西洋近代美術を研究していた。 ちょうど学会で研究発表をする、2か月前。 海は私に出会うまで、美術に一切関心がなかった。 展覧会にもほとんど行ったことがなかったし、画家のことも良く知らない。 でも、私

2. 海に吞み込まれた夜

海は中肉中背で40歳くらいに見える。 店のプロフィールには30代後半と書いているが、実際には40代後半だった。 『これ、迷惑でなければどうぞ。綺麗だったので。』 そう言って花束を渡される。 海は、キザなことも仕事中はサラリとこなす男だった。 身のこなしにも気をつかっている様子が分かる。 コートの脱ぎ方や靴のそろえ方、金銭のやり取りや扉の開け方。 女性へのプレゼントの渡し方も。 父のこと、男性が怖いこと、でもただ誰かに抱きしめてほしいこと、包み隠さず話した。話し

1. 風俗に愛の真似事を求めた。

風俗は違う。 お金を払った対価として、それなりに良い想いを提供してもらう。あちらも演技だと分かっているのだから、至極健全な気がした。 最初に利用したのは個人経営の店で、 待ち合わせ場所には、中肉中背の男が現れた。 見た目は普通の会社員。おそらく40代の、普通のおじさん。事前の顔合わせでは、お茶をしながら男性経験について聞かれたけれど、私はほとんどうわの空だった。 特段好みではなかったけれど、嫌いでもない。 だから私はほとんど考えることを放棄して、ラブホテルに向かった。

Introduction. 愛してくれると、信じたかった。

寂しかった。 女性用風俗を利用するのはこれで3回目。 3回目で、私は出会ってしまった。 初めて女性用風俗に足を踏み入れたのは、20歳くらいだったと思う。 まだ学芸員になる前で、近代西洋美術史を研究していた。 ろくに愛など知らないくせに、 愛を主題にした絵画を目の前にして途方に暮れていた。 好きな人が居たこともあるけれど、自分から告白する勇気はなかった。 告白されたこともあるけれど、その人を好きになれる自信もなかった。 そのくせ、人並に、男でも女でも、誰かに触れ