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【映画】報われない努力ーー『宮本から君へ』に見る美しい勘違い。

つい昨夜のことだが、広島のバルト11で映画『宮本から君へ』を観賞した。
僕はこのドラマ版が好きで、同じくテレビ東京系の連続ドラマ『バイプレイヤーズ』とこの『宮本から君へ』は、ここ数年では最も印象に残るテレビドラマとなった。

この『宮本から君へ』のテレビドラマ版(アマゾンプライムビデオにもあるから、興味のある人は是非観て欲しい)の概要をざっくりと説明すると「文具メーカーマルキタ商事に勤める営業マンの宮本は、仕事にも恋愛にも全力でぶつかる不器用な男。その全力発揮は言ってしまえば相手のことを考えない自分本位でしかないのだが、圧倒的な熱量で周囲を巻き込んでいってしまう」という感じだろうか。

ドラマ版では、結果宮本は恋に敗れて仕事でも報われないが、よき上司や先輩同期など同僚や周囲の人々によって救われる。如何にも「続きがある」という風な終わり方で期待をしてはいたのだが、映画の公開日の発表からは本当に心待ちにしていたと言って良い。

さて、映画の話をしよう。
正直に言って、僕はこの映画の大半をかなり不機嫌な気持ちで観ていた。
心待ちにしていたにも関わらず、何度も「もう帰ろうか?」と思った程だった。

展開はぶつ切りで、宮本を演じる池松壮亮、中野靖子を演じる蒼井優の両俳優は熱演を見せるものの彼らの演技とセリフは展開と奇妙に上滑りしており飲み込めない。真利子監督は池松蒼の両名の「泣き」「喚き」「叫ぶ」姿を、そして池松と、見事に悪役の怪物ラガーマン真渕拓真を演じ切った一ノ瀬ワタルのバトルシーンを観せたかっただけなんじゃないだろうか?
ドラマ版でも監督を務めた真利子哲也監督は、柳楽優弥主演で話題となった『ディストラクションベイビーズ』の監督として知られている。この作品では柳楽が演じる主人公の暴力が周囲に伝播していくという何か圧倒されるような魅力があったが、同じノリで映画版『宮本から君へ』を描いているんじゃないか??
僕は心の中で「『宮本から君へ』は『ディストラクションベイビーズ』じゃねえんだよ!」 と叫んだものだった。
この映画も「モテキ」などにみられるテレビドラマ版と映画版で微妙にズレてちぐはぐになる駄目な例ではないか、そう思える程だった。

主人公宮本は、自分本位に突き進む、一歩離れてみれば意味不明な大馬鹿野郎だ。
しかし、自分本位の選択をするからと言って、他人の気持ちを考えない人間というわけではない。むしろ、それを過剰な程に気にし、深い内省を伴って葛藤する人間だ。
それはドラマ版では池松壮亮自身のナレーションで明らかにされるのだが、この映画版ではそれが無い為に宮本がただただ闇雲に走り回るある種の怪物と化してしまっている。
余りに一方的な展開に意図を感じ、途中で「もしかしたら謎の感動ラストあるかも?」と考えたが、中盤を越えても少しも新たな展開がないのを確認して「こりゃダメだ!」と思い直した。

と、不満タラタラで観ていたわけだが、この映画に対する僕の評価はクライマックスの宮本の中野靖子への告白シーンで一転した。僕はこのシーンで、ちょっと記憶にないくらい顔をグシャグシャにして号泣してしまったのだ。

そして、僕はこのクライマックスを観てようやく理解出来た。
『宮本から君へ』はドラマ版含めて、一貫して、多くの努力は報われないこと、自分本位の勘違いでさえあることを描いていたのだということを。

(予告動画をみただけで泣きそうになってしまう…)

多くの努力は報われない。
見る夢が大きい程報われない。
「夢は叶う」「努力は報われる」というどこにでもあるメッセージのアンチテーゼとしてこの作品はある。
努力は報われず、そもそもその努力それ自体が勘違いから発生しているのかも知れない。
無駄だったのかも知れない。

宮本はおそらくそれを分かっている。
それでも宮本は走り続ける。
失敗ごときで挫けることはない。
宮本は木っ端微塵にやられて負けることがわかり切っている怪物真渕に挑み続ける。

『宮本から君へ』は、一貫して「大抵の努力は報われない。夢は叶わない。意味もない。でも、その努力や、努力する人の一途な姿を見ている人、それを評価してくれる人はいますよ」というメッセージを発信し続けていたのだ。

思えば、ドラマ版でも営業マンとして闇雲に走り回る宮本は多くの人に救われている。
若く、愚かでものを知らず、ただ闇雲に走ることしか出来ない宮本に、宮本を助けた人々は、宮本の中にかつての自分を認めて目を細め、懐かしく優しい気持ちで手を差し伸べたのだろう。

宮本の放つ熱量は、池松壮亮という演者の力量があってはじめて成立し、それを真っ向から受け止めることの出来る蒼井優=中野靖子の存在があってはじめてこの映画版は成立する。
ドラマ版からのファンとしては、ドラマ版で好演を見せた星田英利(元ほっしゃん)などがおざなり程度にしか扱われていないところは少し物足りない気がしてしまう。
しかし真利子哲也監督がこの映画版において明確にしたかったのは、宮本の在り方と宮本と中野靖子の2人の関係そのものだったのだろう。
その点では全く文句の付けようがない最高の出来栄えだった。

映画のポスターには「世の中vs俺、連戦連敗。負けっぱなしの男が愛する女の為に立ち上がる」と書いてある。

多くの夢は叶わない。
殆どの努力は報われない。
でも、それでも挑み続けろ。
そうすれば・・・・・・・。

繰り返しになるが、これがドラマ版映画版を通してのこの映画のメッセージだ。

その痛いほどの情熱を噛み締めて欲しい。
エレカシ宮本浩次の主題歌「Do you remember?」も最高です。

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