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人が話してくれているのに私は妄想をしている。

大変お待たせ致しました。
鉄板が非常にお熱くなっているのでお気をつけください。
熱い状態でソースをかけるとハネますので少し冷めてから、かけてお召し上がりください。

スタイリッシュな男性の店員さんが淀みなく説明してくれている。
この日の来店時間は20時半。平日だったこともあり21時の閉店に向けて人はすでにまばらだった。彼はきっと1日中この説明を何度も何度もしているのだろう。今日の勤務もあと少しで終わり。きっと最後の客であろう私達にも、疲れ切った表情の上にちゃんとにこやかをのせて、鉄板の上のハンバーグを解説してくれる。

とにかく感じの良い人に見られたい病の私ですから、話を聞きながら目を見て、うんうんと頷いたり微塵も思っちゃいないのに「へぇ〜!!」とハンバーグに合うという岩塩の紹介に驚いたりしてみせる。
日常生活リアクション芸においては満点です、私は。

こういう何となく体裁だけでもちゃんと話を聞かなければならない瞬間、私は頭の中によからぬ妄想が駆け巡る。

運んできたハンバーグの説明を店員さんが一生懸命してくれているまさにその最中。
遮るように突然「いただきまあ〜〜す!」
と意気揚々と食べ始めたら、びっくりするかな。
いけないことしてるわけじゃないけど、きっとびっくりするよな。動揺するだろうな、ひくかな。
困惑して、説明を続けるか否かしどろもどろしている店員さん。(妄想です)
何だこいつ!どんな顔してるか覚えておいたろ!とでも言うかのように私を凝視してくる店員さん。(妄想です)
ギョッとされてしまった...恥ずかしい....と、してもいないことを恥じる現実の私。

ごゆっくりどうぞ

そんなことを考えながら適当な相槌を打っていたら店員さんはいつのまにか立ち去っていた。

他にも何か色々説明をしてくれた気がする。
なんだっけ。

私にはよくこういうことがある。
人の話を聞いている時に自分が相手にイタズラをして怒られるという妄想をし、何故か勝手に落ち込んでいるのだ。

例えば、上司と面談の最中、とても大事な話をしているのに「今ここでペンでつっついたらびっくりして怒るんだろうな」とかここで「”わっ!!”」って驚かせたら私のことをへんな目で見るようになるだろうな」とか。
そしてやってしまった時の相手のリアクションや情景を思い浮かべて深く反省しているのである。

私、なんであんなことしちゃったんだろう...
どうかしてる...

ほんとうにどうかしている。不毛な落ち込みである。
しかし、私の中にはきっとそういういたずらの欲望があるんだと思う。それを妄想により、不毛な落ち込みを呼び起こし、結果としていたずらしないで済んでいる。

私は真面目でちゃんとしている人に見られたいのでこういう妄想が出てきた時、かき消すことでいっぱいいっぱいになる。そしてかき消しながら人の話も聞こうとするのでとても、とても疲れる。
頭の中では2つの処理が同時に行われている感じ。

だから気を張らなくて良い場面では、今日もしょうもないよからぬ妄想が頭の中を駆け巡り放題なのである。

ごめんね、店員さん。

いただきまあ〜す!


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