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おかしのはなし きんとん

餡の玉の周りにそぼろ状にした餡をつけた「きんとん」というお菓子。お茶席には欠かせない独特な形のお菓子です。
7〜9世紀、中国(唐)から多くのものを取り入れ 、その中には唐菓子と呼ばれる菓子がありました。 その中の1つ「餛飩」(こんとん)がきんとんの由来と言われます。
唐菓子の餛飩は刻んだ肉を練った小麦粉で包み、丸めて蒸したもので、今で言うお菓子とはかけ離れたものでした。

きんとんについては、戦国時代の『国継卿記』(1552)にその表記が見られるようになります。その後も様々な文献で見られ、「栗の餅の粉で作る」「中に砂糖が入った丸い餅」「味噌仕立ての団子」など様々な形が記されています。
版本として初めての菓子製法書とされる『古今名物御前菓子秘伝抄』(1718)では「餅生地で砂糖を包み茹で、きな粉や胡麻をまぶしたもの」
『古今名物御前菓子図式』(1760)では黄色の餅に白い餡を入れ、丸くして小豆を濾したそぼろ餡をかけ」たもの
『菓子話船橋』(1841)には求肥を中の芯にして餡でくるみ、その上に裏漉ししたそぼろをまぶしたもの
と、徐々に現在の形に近づいていきます。


きんとんは餡に餡をつけた餡のかたまり。
その見た目はそぼろの餡をつけるだけと大変シンプルです。
ですがその色と形、そぼろの付け方や使う餡の種類や組み合わせによる変化、食べた時の味や柔らかな食感、シンプルさ故に銘によって大きくイメージを膨らませることのできる、まるで小さな宇宙のよう。

京都の老舗 末富によると、京菓子の表現について こう触れています。
1季節を大切にしていること
2菓銘の役割が重要 
3色と意匠
4 遊び心を持たせる

季節を大切にすることは、自然への敬いの念や大切にしようとする心の表れのようであり、また自然とそうしたくなる気がします。
この特徴を一つ一つ思いながら見ると食べる楽しみが一層大きくなります。


さくら

春 と聞いて真っ先に思い浮かぶのは桜。
縄文時代の遺跡である鳥浜貝塚からは桜の木の皮を加工したが出土品が出ており、はるか昔から私たち日本人が桜を見ていたのだと知りました。

桜が咲くと現在では空を埋め尽くすような満開の桜の下で食事を広げてお花見をする習慣があります。
『桜が作った「日本」』(佐藤俊樹 著)によると、桜の花見の定義を「群桜+飲食 + 群衆」とし、この習慣は日本にしかないとのことです。
このような花見はソメイヨシノという品種が生まれてからと言われています。ソメイヨシノは葉が出る前に花が木を覆い 、一斉に咲く、密集すると特に見栄えがする特徴があります。ソメイヨシノが流行る以前にも花見があったかというと、現在の花見とは全く違う光景だったようです。

もともと日本のほとんどの山にヤマザクラが自生していました。4〜7世紀の終わり頃まで、相次ぐ都市建設のため伐採が進み、その後に山桜と赤松の二次林が形成されたのだそうです。
様々な種類の桜があり、一つ一つの花期は1週間ほどでも咲き始めが違うので、あちらは散ったけれど、こちらはこれから満開、と全体としてみれば ゆっくりと桜の彩る季節を楽しんだのでしょう。

桜が初めて文書に現れるのは『古事記』履中天皇の水上遊園で、既に桜は美しく愛でる対象でした。源氏物語では紫の上が唯一、桜と称えられます。万葉集の頃、桜に乙女を見、生命の輝きと考えられたそう。また稲作儀礼との結びつきも指摘されています。
江戸時代、歌舞伎の演出により、散り際の美しさから武士の花、死を想像させる花となり、戦時中には軍により命を散らす散華のイメージに使われました。

ですが本来、その美しさに女性を見、生命の輝きを象徴した美しい花だったのです。


左近の桜を知っていますか。雛人形に飾る桜も左近の桜が由来です。平安時代に紫宸殿に植えられた桜のことです。
桓武天皇の頃、紫宸殿に梅が植えられました。梅を植えたのは当時の中国の影響ですが、村上天皇の治世には桜に植え替えられています。桜になったのは仁明天皇の治世とも言われています。
これは日本の美意識がそうさせているのではと感じずにはいられません。大陸文化を吸収するけれど、日本らしく自分たちの価値観で文化を作りあげていく。だから左近の桜は今日でも桜であり続けている。
それができるのは、そもそも自分たちのこと、価値観や文化をよく知らなければできないことだと思います。

左近の桜は現在までに何度も植え替えられていますが、多くは山桜だそう。ソメイヨシノより前は1本の桜を愛でる花見だったと言われています。
葉と花がともに顔を出し、懐かしいような自然な優しい姿を見せてくれる山桜。

今日は 山桜 をきんとんに見立ていただきましょう。


参考文献
『淡交別冊No.25 京菓子 京の雅びを楽しむ』1998
『京菓子と琳派 食べるアートの世界』2015,濱崎加奈子監修 勝治真美編
『末富の京菓子』2022,山口祥ニ
『京菓子のしおり 塩芳軒季節のいろどり』2021,高家啓太
『和菓子の系譜』1990,中村孝也
『図説 和菓子の歴史』2017,青木直己
『たべもの起源事典』2013,岡田哲
『たべもの語源辞典』1980,清水桂一
『桜』2015,勝木俊雄
『桜の日本史年表』2023,井筒清次編著
『桜が創った「日本」』2005,佐藤俊樹
『桜と日本文化』2007,小川和佑
『桜と日本人』1993,小川和佑
『花をたずねて吉野山』2003,鳥越皓之
『花見と桜』2000,白幡洋三郎
『ねじ曲げられた桜』2003,大貫恵美子
『日本の古代遺跡を掘る 鳥浜貝塚』1994,森川昌和 橋本澄夫
俵屋末富HP
虎屋HP「嘉祥(かじょう)のきんとん」
あじわいHP「和菓子探訪6 きんとん秘話 黄色い団子からそぼろ状の菓子へ」

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