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地球

早起きは苦手。それでも、旅行へ行く日や友達の家に泊まった日なんかは、太陽よりも早起きして、大急ぎで身支度をする。大好きな、夜と朝の間の空間に浸りたいから。鞄に荷物をつめながら見る窓の外が暗くて、まだ早いんだなあ、眠たいなあなんて思う。でも、いざ玄関を飛び出すと、世界はとっくに起きていて、眠たげな目をしているわたしはその明るさに似合わないほど、きちんと朝を迎えている。ゆるやかに、でも規則正しく、今日という日を始めている。


わたしがあんまり見つめるものだから、夜はきっと恥ずかしがって、頬を赤く染めていく。ピンクと紫色の空は、まるで夢の続きのよう。空はやがてじんわり水平線に広がって、橙、黄色へ変わっていき、太陽がそうっと顔を出す。するとあっという間に世界は朝の色をする。


見上げれば、空のグラデーションがゆるくカーブをしている。地球は丸いんだと思わされる、青、あお、青。


青くて丸いこの地球には、今朝を迎えた人、お昼寝をしている人、おやつを食べている人も、すっかり夢の中の人もいる。そうやって世界は順繰りと眠りにつくけれど、地球は一日一回、自転することを忘れない。絶えず周り、動き続ける。まるで心臓だ。わたしは時々、自分の左胸に手を当てて、生まれてこのかた休んだことのない、小さな臓器を思って不安になる。そんなことはつゆ知らず、変わらず働くんだから、えらい。大事にしないといけないなと思う。この星に住む人は、自分の胸にある心臓だけじゃなくて、地球という共通のハートを持っている。休まない星が疲れ切ってしまわないよう、守っていこうと空に誓う。


いつもと同じ街の風景に、朝色のフィルターがかけられて、空気までが冷たい。新しい日だと感じさせる。みんなが今日の準備をしている。どこかしんとしている一日の始まりに、わたしは休まない二つの心臓を思って、どきどきする。今日も頑張っておくれよと、そっと呟く。

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