よみがえれ希望の子ら
【文字数:約1,200文字】
※ この物語はフィクションだと思います。
世間が休みだろうと関係ないどころか、むしろ忙しいかもしれないBONにあって、その男は今日も職場にやってきた。
「警備システムONなんだし、事務室くらい冷房つけっぱでいいだろうに」
などとボヤきながら窓を開け、夜に溜まった熱気を逃しつつエアコンを起動する。
「ポチッとなって……あれ?」
いつもは従順なAIR子が返事をしない。二度そして三度と呼びかけても同じで、相棒のリモ子は顔が白くて意識がない。体内時計が常に「12時」を指していたのさえ消えており、ある可能性が頭に浮かぶ。
電源消失だ。
「こちらRINDON、コントロールとの連絡がつかない。緊急により独自での行動を開始する。OVER」
まずは電源を外して戻す心臓マッサージを行った。
「くそっ、心拍数が回復しない! それなら……」
予備の電源を用いる移植手術をしようとするも、こんなときに限って見当たらない。
「すでに補給線は限界だというのか!」
ついさっき通り抜けた灼熱の前線に戻り、予備電源を入手することは可能だ。しかし指揮所を空けるわけにもいかないと逡巡したそのとき、とあるライフハックが脳内に閃いた。
それはゴミ屋敷と化した家の住人が、エアコンを使おうにもリモコンを失くしてしまい、ならばとエアコン本体の電源を使ったというものだ。
「前のパネルを開けて……これだな」
強制冷房運転という文字の下にあったボタンを押すと、
「動いた! 我らの神が復活した!」
サウナのような事務室にいたせいで、灼熱の前線よりも汗をかいた体に冷気が吹きつける。
「ああ~涼しい。いや……でもちょっと……むしろ寒いぞ?」
その予感は正しく、いつもより強烈なフルパワー運転だと分かった頃には、わずかながら体が震え始めていた。
「おはようございまーって、さっむ! 節電しろって言われてるじゃん!」
「じつはAIRAIRのリモリモで……」
「あー、なるほど。連絡もらったら途中で買ってきたのに」
話している間にも室温は下がり、新たな獲物は「マジでヤバいな」と虚ろな眼差しで訴えてくる。
「電源つっても充電するヤツばっかだし、オレの使ってるライトだってそうだし……」
「それだっ!」
同僚の言葉によって男は思い出した。後方に向けて使うリアライトが旧式で、それの電源を移植できる!
かくして強冷房の危機は去り、その後は経費で買った電源をシーズン前に確認するのが通例となるのであった。
めでたし、めでたし。
◇
エアコン本体の電源を使った場合、消す前の設定そのままになるかと思いきや、まさかのフルパワー運転でした。
家庭においても電池を使うのはテレビとかのリモコンくらいですし、なまじ長く使えてしまうので予備があるか忘れがちです。
どうやら南海トラフの注意報も下火になりつつあるとはいえ、定期的にチェックする習慣は持ちたいものですね。