さかえろ! M王国! 《短編小説》
【文字数:約1,250文字 = 本編 1,100 + あとがき 150】
※ 本作は下記の記事を読んで発想しました。
この世界のどこかには2本足で歩く猫がいるらしい。
その猫が履いている長靴みたいに細長い国のことを、だれかが「M王国」と言った。
王国とされるからには王様がいて、顔や頭はとびぬけて良く、大男と呼ばれるほど背は高い。森を走れば木々が道を譲り、邪魔にならないよう石が自分で転がった。
しかし国民のだれもその姿を見た者はおらず、王様に仕える従者だけが居場所を知っていた。
ある日、貧しい農民が従者に言った。
「あたくしめは貧乏で、しかも今年は不作です。どうか税を免除してくだせぇと、王様にお伝えください」
こくりと赤毛の従者はうなずいて、
「わかつた。おうさまのどれいであるわたしが、しかとつたえよう」
言い終わってすぐに走り出し、森を抜けて山を越え、横に浜の広がる中くらいの家を訪ねた。
「おうさま! わたしです!」
家を壊すのではないかと思えるほどの大声は、今さっき通り抜けた山と森を跳び越えて、貧しい農民の家にまで辿り着いた。
「ふむふむ……なるほど!」
だれかの返事に感謝を述べて、従者は来た道を今度は飛んで帰った。I can fly!
農民の家の前に降り立った従者は、家の一部を破壊する大声で言った。
「たのもう! わたしだ!」
「へへぇ! もうしわけありません!」
「なにをあやまつているんだ?」
すっかり怯えてしまった農民は、自分の訴えをきれいに投げ捨て、従者の靴にキスしようとして失敗した。
「やめないか! わたしのいちばんはきまっているんだ!」
「もちろんでございます! 王様には取り決め通りの税を納めます!」
「いいのか?」
「へい! へい! あたくしがわるうございました!」
「ならばよし! これにて、いっけんらくちゃく!」
従者の宣言で似たような状況にあった他の農民は落胆したけれど、従者の駆け抜けた道は開墾され、またたくまに小麦が芽吹いて豊作になった。
「王様ばんざい! M王様に栄光あれ!」
国中に轟く賞賛は、横に浜の広がる中くらいの家にも届いていた。
「偉大な王様に贈り物をしよう!」
あれがよい、これがよいと、様々な品物が提案されていく中で、それとなく従者が誘導した結果、贈り物はチョコレートに決まった。
「おめでとう王様! これからも王国を守ってください!」
従者は人間フェラーリとなって数多くのチョコレートを運び、横に浜の広がる中くらいの家をうめつくした。
するとチョコレートの山をかきわけて、オペラ俳優ばりの男が現れた。
「僕が欲しいのは1つだけだ! それはお前にしか用意できない!」
存在がオペラ俳優の王様が叫ぶと、従者がその足元に膝をついた。
「やつと、かおをみせてくださいましたね!」
こうして王様は従者に連れられて城に戻り、末永くM王国は繁栄したのだった。
めでたしめでたし……なのか?
◇
バレンタイデー大嫌いと書いておられたので、私なりに何か用意できないかと考えました。
うっすらと『長靴を履いた猫』や『天野岩戸伝説』が混じっていますけれど、即興クオリティなのでスイマセン。
人それぞれの過ごし方があるでしょうし、あまり落ち込まなくてもと、家に常備されているチョコレートを食べた人間は思うのでした。
なかまに なりたそうに こちらをみている! なかまにしますか?