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きみたちはどう生きたか

【文字数:約1,200文字】

 先日のNHKで「今夜はとことん異世界スペシャル」なるものが放送されていた。

 番組では『盾の勇者の成り上がり』、『無職転生』、『転生したらスライムだった件』のアニメ各1話を放送して、その後に収録ブースと思われる場所でゲストが考察を述べていたほか、海外での受け取られ方を紹介する映像もあった。

 また、各作品の著者であるアネコユサギ、理不尽な孫の手、伏瀬の御三方がアバターの姿で座談会をしており、とても興味深い話を聞くことができた。


 伏瀬さんが投稿サイト「小説家になろう」を利用し始めた頃は、けっこう実生活がハードモードだったらしく、夜勤とかそんな話が出たと思う。

 現実世界で不遇な死を遂げて目覚めたら、というのが「異世界転生モノ」と呼ばれるジャンルの定型であり、やはりそれはツラい現実の反映なのかもしれない。

 最近だと転生する理由すらストレスだし、大事なのは物語における現在だから省く流れもあるらしく、ファストフードとかの呼び方は言い得て妙というか。


 理不尽な孫の手さんが自分で書いてみようとした経緯は、消費者として感じていた「エンタメな物語が欲しい」が始まりだそうで、世界を変えようとかではなかった。

 ただ、現実における失敗や後悔などを物語で書き換えていた話は、創作をする動機として広く共有できるものだし、異世界転生モノだから、という括りでは収まらない。

 コメントに関する向き合い方も面白く、書かれたことを次々に取り込んでいくのはweb小説における最大の特徴だろう。

 毒になる読者、略して毒者についても触れており、作品が完結しない、俗に「エタる」理由としていたのは、彼らとの付き合い方の難しさを感じる。


 アニメ放送の後に考察するゲストの1人として、作家の石田衣良さんがいた。

 これがまた面白く、『無職転生』の主人公が恨みや嫉妬を表すルサンチマンでないと話したり、物語の始まりで強いストレスをかける『盾の勇者の成り上がり』が文学的だと評したり、長年にわたる作家生活を感じさせる。

 変わった切り口だとVRの世界で活動する「清 楼銘」さんが紹介され、これまた現実のツラさを理由にしているそうで、おそらく体と心の性が一致しない性別違和なのかもしれない。

 VRならそれも関係ないし、海外で異世界転生が受けるのも人種やジェンダーとかを気にしなくていいからだと、現地の人が話しているのが印象に残った。


 実現しない、叶わないから「理想」なのだといわれる。

 この国の珍しく優れた点は何でもありの物語を作り、それを受け入れる土壌および風土かと思うけれど、決して楽園でないことが様々な炎上話で証明されている。

 それでもより良い世界を想像して、それに近づこうとする、あるいは現実を生き延びることができるなら、異世界転生に現を抜かすのにも意味はあるのだろう。

 なにより宗教の多くには死後の世界が出てきて、いつか復活すると信じられていたりするのは、まんま異世界転生みたいなものだし。




なかまに なりたそうに こちらをみている! なかまにしますか?