百合姫読切感想・考察集20 『かたわれの女神』
何ヶ月ぶりかの投稿。
最近お仕事が忙しくて...あと読切も掲載されなかったし...とはいえ継続して投稿することに意味がある…と思うので、なんとかペースを維持していきたい。
というわけで、今回は百合姫4月号に掲載された、紬めめ先生の『かたわれの女神』についての感想を書いていこうと思う。
あらすじ:半年前に別れた彼女と片耳ずつお揃いで着けていたピアス。彼女のことを忘れられずに着け続けていた主人公に訪れた出逢いとは...
※本作の登場人物は名前が明かされていないため、便宜的に片割れのピアスを着けた方を「主人公」、ピアスを落として探していた方を「彼女」と呼ぶこととする。
・スピード感を重視した展開とコマ割り
紬めめ先生は昨年の百合姫8月号で『おふろのこ』を掲載して以来数号ぶりの登場であるが、ボリューム感のあった前作に対して、本作はテンポ良く話が進み、非常に読みやすい作品になっていると感じた。
最初の3ページで主人公の置かれている状況と、本作のキーアイテムであるピアスの説明をしつつ、出会いまでの道筋を鮮やかに描いている。そして出会いのシーンは大ゴマを使用せず、見開き1ページの中で場面転換までスムーズに進行させている。
その一方で、中盤までは小さいコマを連続して活用することで、キャラクターの登場シーンを強調させており、テンポの良さとインパクトを両立させることに成功している。そのテンポの良さに合うハイテンションなキャラクターが物語を動かす事で、終始自然な流れを保っていると感じた。
・なぜ主人公は彼女に惹かれたか
さて、主人公と彼女という二人の関係性であるが、本作は初対面からおよそ数時間程度という出会いのタイミングを描いているため、比較的ライトな百合になっている。
逆にいえばこの短い時間の中で、二人の関係性はなぜ発展していったのか。
中盤で主人公がピアスを中々捨てることができない、という話をする時、ピアスのことを自分で「いわくつき」と言っている。また序盤でも、「こういう重いとこがウザいって言われる」と復縁を期待する自分を客観的に見つつも、落とし物を探している人がいると聞いた瞬間、目を見開いて反射的に行動するなど、「分かっているけどやめられない」という、人から見れば「悪癖」とも言える部分がある。
一方、彼女は半年前に終わった恋愛を諦めきれない主人公のことを「未練がましい」「ストーカー一歩手前」と評した。それは本当のことであったが、別にそれ自体が悪い事ではない、とでも言うように「その人のこと吹っ切ってたら私はこのピアスを拾ってもらえなかったかも」「無理に手放すことない」と続ける。
このシーンはただピアスを捨てることのできない主人公への慰めではない。別れたカノジョから「ウザい」と思われたり、周りの友達から「いい加減捨てろ」と言われたりする中で、自己の行動をマイナスに捉えるようになった主人公は、立場的にも精神的にも不安定な存在になっており、片割れのピアスはそんな自分の状態を象徴する存在だったと思う。彼女はそのような意味を持つピアスを捨てることが出来ない、という行動に代表される、主人公の「悪癖」そのものを許容し、受け入れている。彼女のセリフは主人公にとって新鮮な言葉であり、かつ待ち望んでいた言葉であったはずだ。「重さ」や「ウザさ」という主人公の持つ「悪癖」を肯定的に捉えてくれるし、少し話しただけで裏表のない性格が伝わってきたからこそ、主人公もその言葉をすんなりと受け入れることが出来、そして惹かれていったのだろう。
・真実の愛を求めて
ラストの「片割れピアスをネックレス」にするというのは、まさしく主人公の抱えていた「不安定性」の解消であり、片割れという非対称性からネックレスという対称性を持つ存在に生まれ変わることは、独り身になっていた主人公と彼女の間に芽生えた新たなカップリングを暗示していることに他ならない。そして勿論、主人公自身の過去との決別という意味でもある。
そういえば、このピアスに嵌められた「天然石」とは一体なんであろうか。作中で言及もされないし、モノクロなので断定は出来ないが、何と無く色合いからアメジストではないかと思える。片割れ同士、お揃いで着けるならば「真実の愛」の意味を持つアメジストはピッタリだし、本号が発売された2月の誕生石でもあるから...とは強引すぎるだろうか。しかしアクセサリーのお店で働く彼女にとっては、この石の持つ意味を知っていてもおかしくない。アメジストには「素敵な恋人を招き寄せる」という意味もあるらしい。彼女もまた主人公と同じピアスを着けていたということは、同じく「真実の愛」を求めていたのかもしれない。また、ギリシャ神話においてアメジストは月の女神アルテミスに助けられる人物の名前らしいが、本作のタイトルともなんとなく繋がってくる気もする...牽強付会もいいところかもしれないが。
・終わりに
久しぶりに感想を書かせていただいた。ここ数号は新連載が多かったからか読切作品が無く、読切好きの私としてはやや寂しい日々が続いていたが、久しぶりの読切が本作で大変満足であった。デフォルメの使い方も上手だし、ストーリーの組み立て方も自然で読みやすく、読切の限られたキャパシティの中でキャラクターを好きになれる魅力を十二分に描けていると感じた。ピアスの描写も、紐の部分が半分に割ったハートのようで、こう言う細かい部分もしっかり描写しているなぁと感服させられた。
本作のようにキャラクターの名前を出さない進行は難しい気がするが、シチュエーション的にも不自然では無かったし、むしろ名前を出さないことで、彼女の方が主人公の持つしがらみの外にいる存在、という感じがして上手く作用していたように思う。
そういえば今期の人気アニメ『お兄ちゃんはおしまい!」に百合姫作品が多く出ていた。制作に一迅社が入っているからだろうが、これを機にもっと百合姫の人気が高まってくれればいいね…と言うことで、今回はこの辺で締めさせていただく。
今回も特に読み返して無いので、誤字脱字等は勘弁してください。
駄文失礼しました。
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