米粒の行く先

 お世話になっている先輩と焼肉に行ったときのこと。
 その先輩は大変優しく、几帳面で、視野が広くて色々なことに気づいて部署内を支えてくれている超貴重な存在である。ちなみにメンズノンノくらい足が長い。
 ご多忙な先輩であるため、サシでご飯を食べる機会は今までなかったのだが、その日は早く仕事が終わったのか、私服の短パン姿で美脚をさらけ出しながらふら~っとデスクに歩いてきて「今日めし行かん?」と声をかけてくれた。先輩は前日がお魚だったとのことで、その日は焼肉に行くことになった。

 店に着くとカウンター席に案内された。たらふく注文したお肉がどんどん届く。先輩の優しさと几帳面さが前面に出た結果、先輩がせっせと焼いてくださるお肉を私はご飯と一緒にひたすら食らう形になった。後輩力のかけらもない人間だとつくづく思うが、先輩は気にしていなさそうなので、私も甘えることにした。

 うまいうまいと肉を食べつつ、他愛もない話でゲラゲラ笑っていたときである。「あはははは!!!」と笑った瞬間に口の中に違和感を感じた。
口の中の米粒が、笑った瞬間飛んで行ったのだ。
 ただ飛んで行っただけならまだ良い。問題はその行く先である。先輩に悟られぬよう視線を動かしたとき、先輩が妙な空気をまとっているのを感じた。
 あちゃ~、米飛ぶ瞬間みられちったか~と思いつつ、視線を下げたとき、血の気が引くのを感じた。短パンからむき出しになった先輩の太ももに、米粒が鎮座していたのである。
 ゆっくりと顔を上げて先輩の表情をみると、非常に気まずそうな顔をしていた。米粒の着地点まで完全にばれていることを悟った。とにかく一刻も早く米粒を退散させなければと焦った私は、「失礼します。」と声をかけ、デコピンをするように米粒を素早く弾き飛ばした。一瞬の静寂の後、どちらともなく別の話題が始まり、お互い何事もなかったかのように再び肉を食べ始めた。

 しかし、どうしても一連の出来事への罪悪感が沸いてきたので、デザートが来る前くらいに改めて謝罪をした。
「米粒とばして生足に着地させて、挙句に失礼しますで弾き飛ばすって、アレな所業ですよね、すみません。」
優しい先輩は満面の笑顔でこう言った。
「ははは、全然いいよ。はやさんらしいなと思ったよ。」


私の私らしさ、大丈夫?


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