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どうせ歌うなら楽しくないと

大学3年生の頃、友人とインドに行った。

ありきたりな学生旅行ではあったが、
道路を歩く水牛、歴史と宗教を感じる建築物、
そこで生活する人々など、
目に入るものすべてが新鮮で
ドキドキしながら旅をした。

旅行はトラブルこそが醍醐味というのが
わたしの個人的な信条だが、
インド旅行は典型的なそれだった。

友人がスマホをスられ、速攻つかまった犯人が
野次馬に囲まれど突かれるのを見て怯えたり、
「日本語の練習したいからおしゃべりしよう!」と話しかけてきた少年に見える子が実は同世代で
何万もする布を売りつけられそうになったり、
土産話として語りたくなるエピソードが
てんこ盛りだった。

電車の遅れもその中のひとつである。
タージマハルのあるアグラから
ガンジス川で有名なバラナシへ向かう電車に
乗ったものの、道中なにかのトラブルで
6時間もの足止めを食らってしまった。

おやつも暇つぶしも底を尽き退屈していると、
同じく暇を持て余している
現地の方であろう若者グループが
ご当地ポップミュージックを流しながら、
我々に絡んできた。

ネパール・インドカレー屋さんでよく流れている
軽快で派手でノリノリなBGMに乗せて、
若者グループのリーダー格的な男が我々に近寄り
目を見つめ、こちらを指をさし、歌ってくる。


「プルコッタンスタンコッテンケ~ラ~マアァァァレェェェェェェェエエ~~~」


全く内容は分からなかったが、
なにやら楽しそうである。
我々は
「グッドソング!グッドソング!」
と、片言の英語で彼のパフォーマンスを称えた。

気をよくしたのか、彼はもう一曲お披露目してくれた。


「パルカパ~ラプルケッタンメッタンマアァァァレェェェェェェェエエ~~~」


(・・・同じ曲では?)

彼は変わらず楽しそうな様子で
我々を見つめ、近寄り、ノリノリに歌い上げている。

インド音楽に造詣が深くない我々は思った。
(違いは分からないが、空気読もう)
暗黙の了解のもと、友人と
「グッドソング!グッドソング!」
と繰り返した。

空虚な賞賛を受けた彼は
首を横に振り、我々に告げた。


「No, No, No. This is sad song.
(ちゃうちゃう、これ悲しい曲やで)」



それなら悲しそうに歌えよ!!!


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