見出し画像

声を出さずにニャーと鳴く #4 飛騨牛使用ねぇ・・・

このところ、キャットタワーのテッペンから見る窓の外が薄暗い。青空を見ていない。これを梅雨というらしい。ずっと室内にいる我が輩には関係ないが、人間にとってはなんとも鬱陶しい季節であろう。さっきまで曇り空だったのに、いつの間にか雨が降り出している。みるみる土砂降りになった。大きな雨粒がバチで、窓が太鼓の面。普段耳にしない音が部屋に響く。これがゲリラ豪雨というやつか、と思ったところでドアの鍵が開く音がした。いつも通り、玄関マットの上にちょこんと座り、主を出迎える。クリーム色のドアから主が出てくると、声を出さずにニャーと鳴く。いや、今回はギャーだったかもしれない。

「やぁ、梵太郎。ただいま。いやぁ、参ったよ。いきなり降ってくるんだもん」

そこにはずぶ濡れの主がいた。真っ白なTシャツはペタッと貼り付いて肌が透けており、ハーフパンツの裾からは水が滴っている。左手に持っているマクドの紙袋は、初めからこんなにも濃い茶色だったのだろうか。

「いやぁ、この季節に傘を持たずに出かけた僕が悪いんだろうけどさ、」

唐突に今日の愚痴?が始まった。

『にゃぁ』

普段より、少し優しい”にゃぁ”だったと思う。

「せめてあと5分、いや3分雨が降るのが遅かったら、びしょびしょビックマックにならずに済んだのにな。ポテト見る?ディップどころじゃないよ。完全に水没してるよ。なんか、お金を落とした気分だなぁ」

『にゃぁぁ・・・(かわいそうに)』

フェイスタオルで髪を拭いている主の足元に座り、見上げる。イラついているのか、乱暴に乾かす髪からはいくつもの水滴が落ち、我が輩の頭を濡らす。が、気にしない。冷たい身体を暖めようと、主の左スネのあたりに我が輩の身体を擦りつけた時、主が声がを上げた。

「あーー、コロッケパンあんじゃーん。ラッキー。もっと早くに思い出してたら、買い物行かなくてよかったなぁ。今日のランチはこれだね♪」

『・・・にゃぁ』

ダイニングテーブル脇のカゴから、コロッケパンを見つけたらしい。コロッケパンひとつでこんなにも機嫌が直るものなのか・・・覚えておこう。いつか主に怒られることがあったら、コロッケパンの陰に隠れることにしよう。

「あーー、しかもこのコロッケパン、飛騨牛使用だってーー、楽しみだなぁー普通のコロッケパンより美味しいのかなぁー」

『・・・・・にゃぁ』

主よ、この前目を瞑って食べたイカのことを”このタコうまい”と言っていた主よ。おそらく、主にはその飛騨牛の良さがわからないだろう。というか、多くの人がわからないだろう。わかる人なんてほぼいないだろう。勝手に盛り上がるのもいいが、そろそろ身体を拭いて着替えてくれ。もし主が寝込んだら、我が輩にできることは寄り添って寝ることだけなのだから。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?