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声を出さずにニャーと鳴く #7 必殺技は菜々緒ポーズ?

この世には、必殺技と呼ばれる技があるようだ。必ず殺す技なのか、必ず殺さない技なのかわからないが、我が輩はいつの間にやらその技を習得していたようである。天才というのは、そうゆうものなのであろう。

主がロッキンチェアに座って本を読んでいる。ミントグリーンの表紙にドクロなどが描かれているその本のタイトルは「禍いの科学」、サブタイトルは「正義が愚行に変わるとき」と言うらしい。愛読書が週刊誌の主には似つかわしくない本だと思ったが、時折“へー“とか“ほー“とか声をあげているところを見ると、どうやら楽しんでいるようだ。そういえば、「梵太郎にはわからないかも知れないけれども、こう見えて僕は理系出身なんだよ。全然見えないって言われるんだけどね」と聞かされたことがあった。“言われるんだけどね“と、少しはにかみながら話す主を、ネコながらも「ちょっとかわいいな」と思ったことを覚えている。「もしかしたらまたそんな一面が見られるかも」と、主の足元にちょこんと座り、声を出さずにニャーと鳴く。

「おぉ、梵太郎。どうした、そんなところに座って。膝の上にくるかい?」

読書を邪魔するわけにはいかない。“にゃっ”と短く小さな声でお断りの返事をした。そして、グルーミングでもしながら主を観察することにした。

さて、どこから舐めようかな。そうだな、まずは右前足からにしよう。さっき遊んだネコじゃらしの毛玉が指の間に挟まってるし、ついでに伸びてる爪でも噛んで引っ張ってやろう。その次は、腰だな。主、昨日のブラッシングで腰だけやり残してたからな。舌で綺麗にしよう。その次は・・・結局全身グルーミングしてしまった。その間の主といえば、声もあげずに黙々と本を読んでいる。時折、コーヒーをすする音が聞こえるくらいだ。

『にゃぁぁぁ〜(な〜んかつまんないにゃ〜)』

と一声あげ、伸びをした。いわゆる女豹のポーズで上半身を目一杯伸ばした。両前足の指までぱっくり広げる渾身の伸びだ。いつもだったら、ここから上半身を腕立て伏せのような体勢にスライドさせて下半身を伸ばすのだが、なんだかめんどくさくなってしまった。もう、下半身はいいや。そのまま寝転んでしまえ。女豹からのコロン。受け身は取ってない。少し大きめの音が室内に響いた。

「梵太郎!!なんだ今の技は。いつ覚えた?」

急に興奮する主に戸惑う我が輩。

「それはね、梵太郎。その技はね、必殺技という類のものだよ。僕の心を鷲掴みにするものだよ。鷲の手でよりもガッツリ掴まれてしまったのだよ。かわいいなぁ。かわすぎるなぁ。ねぇ、もう一回やってくれない?お願いだよ〜」

『・・・にゃゃぁぁぁ(嫌じゃ〜)』

なんなの、この急に食いついてくる感じ。きもい。怖い。恐ろしい。“もう一回やってくれ“ですって?だる。嫌に決まってるでしょ。だってめんどくさいから横になったんですもの。また起き上がって伸びをして途中でコロンするなんて嫌です。

主のお願いを、追加のグルーミングをかわす我が輩。我が輩の周りをクルクルしながら何度もお願いする主。と、不意に、

「でもあれだな、梵太郎。そのポーズを後ろから見ると、菜々緒ポーズそっくりだな」

・・・主よ、我が輩で欲情するではないわ。。。

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