見出し画像

人間の匂いがする本。

肩を、どんどんと、叩かれる。

ページをめくった中にいるのは、いい奴でも、悪い奴でもない。
むしろ「ここまでの人間らしい人は、存在するのだろうか?」
と思ってしまうほどの

「人間」ら。


読者であるわたしたちは、
ページの中を、ものすごいエネルギーで動き回る
彼らの「生き様」をまざまざと見せつけられる中で、

「ねぇ、本当に?本当に?本当に??」
「君が知っている世界ってさ、本当にそうなの?」

と、何重にも問いかけられるのである。

「死にがいを求めて生きているの」
この小説を読んで、一番印象に残るのは、「雄介」ではないだろうか。

少なくとも私は、彼に対して強い強い嫌悪感を抱いてしまった。

なんというか、
常に未熟な若さを感じてしまって、恥ずかしいのである。

持っているエネルギー自体は、素晴らしいものであるはずなのに、
それを回すエンジン装置が、うまくはまっていない様子にひりひりさせられる。

「ねぇ、やめて。。みていられないよ・・」
そういった、気持ちになってしまうのだ。

けれども、、

「でもさ、、そう思ってるかもだけれど、
それってお前もだよね、、?」

恥を感じながらページを進めていくうちに、朝井さんに、突然突き放された。

そして読み終えて本を閉じて、
改めてタイトルをみた時。

恐ろしいほどの、感動を覚えさせていただいた。
「生きがいじゃなくてさ、私たち死にがいを求めて生きてるんじゃない・・?」
と。

朝井リョウさんのファンの方は、
社会に対する違和感の「半歩先」を描いてくれる朝井さんにいつもシビれ、

「そう!それが言いたかったんだ」

という
体の細胞器官から震えてしまうような、感覚を覚えるのではないだろうか・・?

朝井リョウさんの、社会への主張が溢れる本は、
「小説」という表現の中でも、濃密に緻密。
何かがぎゅううううと詰まっていて、ときに淀んでもいて、ずうっと人間の臭いがする。
人間が根源的にもつ生命力を、美しいとも醜いとも表現する訳ではなく、
ただただ皮肉めいて教えてくれるこの世界観。
朝井さんにしか描けない鮮烈さなのである。


この表現が共感されるものなのか?はわからないが、
体に悪いと知りながら、1人辛ラーメンを食べてしまう時のように。
ある程度の時間には、起きなければいけないと理解しながらも、夜更かしをしてしまう夜のように。

自分の中の「人間」が「何かが足りないんだ」
と、鮮烈に求めているとき、
私は、これからも朝井リョウさんの小説がも人間の匂いを求めて、その文字を味わせていただくのだと思う。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?