持田さん連載イラスト__1_

「移り香」 ~ 顔うずめる時 ~ (6)

「自分の枕の匂いっていいよね。ときどき突っぷしてクンクンしたくなる。」

私は「へーえ」と応え。そして、恥じた。

よそよそしいくらい洗い立てのリネンやTシャツに、ホッとする気持ちは変わらない。
でもその時の言葉には余白も何も無くて、千の天使が聴き耳を立てた気がした。

ソンナトキモ、アルカモネ
ソンナトキモ、アルカモネ

私はただ狭く小さく、そして斜めだった。


久しぶりに長い風邪をひいている。
ふと思い出して枕に突っ伏してみるが、深呼吸する気持ちにはならない。
湿った枕カバーを洗濯機に放り込み、微熱を押してベランダまで枕を干しに出向く。 


うとうとしながら、なぜだか黄色いフリルと小花の模様が浮かんだ。

子供の頃よく勝手に寝ていた母のベッド。そこにあった大きな枕。
私はうつぶせで寝るのがクセで、洗い立てとは言えないその匂いが好きだった。
くやしかったり、さびしかったり、子供なりの理不尽に憤ったり、あれが私のソンナトキだったのかも知れない。


「枕の匂い。ときどき突っぷしてクンクンしたくなるよね。」

こういう話は余裕がある時にするものだ。
でも時間はお構い無しに過ぎて行く。小さな後悔なんて天使しか知らない

その人は私より少しだけ「自分好き」だっただけかもしれない。

【連載】余白の匂い
香りを「聞く」と言い慣わす”香道”の世界に迷い込んで十余年。
日々漂う匂いの体験と思いの切れ端を綴る「はなで聞くはなし」
前回の記事: 「慈雨」 〜 Calling you 〜 (5)

【著者】Ochi-kochi

抜けの良い空間と、静かにそこにある匂いを愉しむ生活者。

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