待ち合わせは釜田駅で。ビール、焼肉、東横イン。【初訪韓2】
まずは言語表示を日本語に切り替えて、キャシングを選択・・・、クレジットカードを挿入し・・・、暗証番号を入力、必要な額を押して・・・。
『このカードはご利用いただけません』
15時30分、釜山駅。私はATMを前にして呆然とした。天井が高く、開放的で明るい駅のコンコースの脇、現地の人が忙しなく行き交う様子を横目に見つつ、完全に困り果てていた。
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ウォンが手に入らない。
初めての韓国旅行。福岡発の高速船で釜山港に上陸したのが先ほどの事。釜山ではこれから旅を共にするオタク3人が先に待っている。彼らもまた様々な交通手段を用いてそれぞれ上陸していたが、私が着く頃にはすでに合流を完了していた。残るは私だけだった。
合流地点についてやりとりをした結果、釜田(Bujeon)駅で落ち合う流れになった。明日乗車する列車の乗車券を手配するためである。釜田は釜山から地下鉄で数駅移動したところにある。
釜田駅まで地下鉄の切符を買うため、まずウォンを手に入れようと思った。クレジットカードの海外キャッシングを利用するため、近くに会ったATMを操作した。しかしうまく行かない。冒頭に至る。
かれこれ4~5回くらい挑戦したが結果は同じだった。実はカードが海外キャッシングに対応していないのではないかと、カード会社のホームページを調べてみたが、対応してる旨がしっかりと記載されていた。
どうしたものか。頭を抱えて唸っていると、ふとATMのトップ画面に「Foreign Card」というボタンがあるのに気付いた。押してみると、なんと次の画面でも言語が選択できるではないか。
躊躇なく「日本語」を押すと、今までやってきたような画面が続いた。案内に沿ってキャッシング→カードの挿入→暗証番号入力→金額選択と進むと、なんのことはない、ウォンが出てきた。困難はあっけなく解決した。
どうやら初見には厳しいスタイルのATMと対峙していたらしい。先に上陸していたオタクのうち1人も、釜山駅ATMとの格闘の末に負けてしまったと旅行記に綴っている。最初に言語を変えるのは地元民がするものであり、国外旅行者が外貨キャッシングをする場合は、言語に関わらず「Foreign Card」を押すべきだったようだ。
やっとの思いで100000ウォンを下ろす。初めて自分の手で持つ外貨に気持ちが高まる。これから本当に異国の地を旅するのだと改めて実感。
それはそれとして、ATMとの対戦に20分くらいかかってしまった。先着組は待ちぼうけである。これ以上待たせるわけにはいかないと、釜田駅を目指し地下鉄駅へと急いだ。
合流
自動券売機で切符を購入する。ステンレス製の無骨な券売機には紙幣・硬貨の挿入口と、小さなモニターが付いていた。
券売機は日本語にも対応しており、言語を変えると「駅名を選択してください」と音声が流れる。小さなモニターに映し出された路線図から駅を探し、枚数を選んで入金すると切符が発券される。
受取口から小さな黄色い乗車券が出てきた。半券のような見た目だ。キャラクターのイラストとロゴが小さくあしらわれただけのもので、発着駅や区間など文字の表記が一切なく、なんだか切符らしくない。
地下鉄の乗り方は日本のそれと変わらない。乗車する駅で切符を改札口に通して、降車する駅で回収される流れである。
ただ改札口の形が独特で、三つ又に伸びた棒を押して回転させる仕様だったのが印象的だった。「ターンスタイルゲート」と呼ばれる形のようだ。動植物園や博物館の入口ゲートにあるものに近い。
ホームに下りる。黄色い点状ブロックやホームドア、出口の方向などを示す案内板など、都市鉄道的な光景がみられた。この手の鉄道はどこの国も似たような設計になるらしい。
駅構内には、何やら明るい口調で話す韓国語のアナウンスが響いている。定期的に流れる広告放送だろうか。韓国語に疎い私にはさっぱりだった。
ほどなくして船の汽笛のような音が流れると、列車が接近する旨の自動アナウンスが続いた。港町釜山のご当地メロディーといったところか。
ホームに向かって左側から電車が入線する。オレンジ色の帯をまとった釜山都市鉄道1号線の列車である。7駅先の釜田駅に着くころには、時刻は既に16時25分を回っていた。ほんと待たせてごめん。
地下鉄1号線の釜田駅と、合流場所であるKORAIL釜田駅は少し距離があり、地下通路は直結していない。地上に上がるとと大きな交差点の脇に出た。バスや乗用車がひっきりなしに行き交っている。緩やかな坂道を少し登った先にKORAILの駅舎が見えた。
駅に続く歩道沿いには露店が連なっていて、どこかで見たことあるような無いような野菜や魚たちが所狭しと並べられていた。漠然と「アジアっぽい風景だな」と眺めていたが、この感想が正しいのかどうかはわからない。
すると突然、原付が平気な顔して歩道に乗り込んできてびっくりした。今思えば別になんてことない日常風景なのだが、初めて来た国、初めて訪れた街では何もかもが衝撃的に見えてしまう。ただ一人、誰にも絡まれず、何のトラブルにも巻き込まれないことを必死で祈りながら、駅までの約300mをせかせかと歩いたのを記憶している。
16時36分、先着組のオタク3人と合流を果たした。異国の地で会う見知った人の姿に心の底から安堵した。まぁ向こうからすれば「散々待たせよって」という気持ちの方が強かったかもしれない。ほんとごめん。
釜田駅で明日乗る列車の乗車券を調達した。釜田から東海(Donghae)駅までの座席指定席券だ。駅員に英語が通じたため、手続きは事なきを得た。訪韓外国人向けフリーパス「KORAIL PASS」(予め日本で印刷し持参)とパスポートを提示し、座席指定券を発行してもらう。座席は既に結構埋まっていて、あいにく席は離れるらしい。
明日の足を得た後は、今夜の宿にチェックインするべく、再び地下鉄に乗って西面(Seomyeon)駅へと移動。地下鉄の1日乗車券を買った。釜田と西面は隣駅だし、今夜乗る距離では元が取れないことがわかっていたが、近々ICカード化されることにより、今持っている切符は廃止されてしまうらしい。記念的な意味としての購入も兼ねていた。
投宿
17時14分、西面駅。ホームや改札口が地下数層に渡って入り乱れ、動線が凄まじいことになっていた。ひとつの階段が手すりで3エリアに隔てられ、場所によって改札内外すら異なっている。見えるのに行けない空間がそこかしこに見当たる様子はRPGのダンジョンみたいだ。同行のオタクはこれを札幌の大通駅に例えていた。
地上に上がると、都会の喧騒そのものが広がっていた。乗用車やタクシー、路線バスといったものが車道いっぱいに満ちていて、いつもどこからかクラクションの音が聞こえてくる。路線バスもひっきりなしに往来していた。
夕方のちょうどいい時間帯なのか、人がよく出歩いている。歩行者が多く、狭い歩道を歩くのが大変だった。
そんな雑踏の中、遠くに山が見えるほうへと歩いていくこと数分、目的の宿が見えてきた。
「東横INN釜山西面」である。
びっくりするほど見慣れた佇まいに感動の念を禁じ得ない。異国の勝手を知らない者としては、これほど安心感のある初夜の宿は無いだろう。
外観の撮影も程々にして、一同はフロントに赴いた。といっても、チェックインそのものは予約代表者のオタクが殆どやってくれたので、私はパスポートの提示をしたくらい。フロントは日本語が通じる様子であった。
チェックインを済ませ部屋に向かう。オタクを2つのグループに分けて、それぞれの部屋のドアを開ける。ツインルームのお隣さん同士である。せっかくの4人旅なのに部屋が別々だなんて……、というのは全くの杞憂だ。なぜならこの部屋は「コネクティングルーム」なのだから。
東横インに数ある部屋タイプのひとつに、「コネクティングルーム」というものがある。見ての通り、隣り合う客室の間にドアが設けられ、部屋同士を自由に行き来することが出来る設計の部屋だ。
コネクティングルームは数ある東横インの中でも7店舗にしか設置例がなく、ここ釜山西面もその一つにあたる (2023年3月時点)。海外に来てまで日本チックなホテルに泊まるなんてと侮るなかれ。こんな仕様の部屋、日本でもなかなかお目にかかることは出来まい。
部屋の構造をひとしきり堪能した後は、背負ってきた荷物をどさりと自室のベッドに置いた。肩の荷を下ろすという言葉がそっくり当てはまるように、今まで抱えてきた旅の疲れも僅かなりに消えた気がした。
少し休憩がてらテレビをつけると、時の岸田首相がニュース映像に映し出されていた。もちろんナレーションも字幕も韓国語である。何が語られているのかは分からない。けれど映像だけはよく見かけるお馴染みの首相官邸の場面であり、なんだか日本のニュースを2P視点で見るような面白さがあった。
夜食
日が傾いてきた。ベッドに横たわって動けなくなる前に夜食を食べに行こう。韓国の食事情に詳しいオタクが見繕ってくれた焼肉店は水営(Suyeong)にある。我々は必要最低限の荷物だけを片手に、薄暮の街へと繰り出した。
消防署の前を横切り、交差点を渡る。遠くに見える山の麓には高層マンションが林立している。博多からの高速船から見えた時もそうだったが、韓国の高層マンションというのは、どこにいっても似たようなものが建っているなと思う。
もちろんカラーリングや形状に違いがあるのは確かだが、こう、何て言うんだろうな、コピペを繰り返したというか、シムシティっぽいというか、そのように思わされる要因は一体何なのだろう。こういっては失礼かもしれないが、すごく「テクスチャ」っぽさを感じてしまう。
大通り沿いの田浦(Jeonpo)駅から、緑色の地下鉄2号線に乗る。地下空間が二層分吹き抜けになった開放感のあるコンコースが良い。
コンコースの壁にはギアを模した装飾品の中に「田浦」の文字が躍っている。工業製品に由緒がある町なのだろうか。
知らない土地の地下鉄というのは、どうしても距離感が掴み切れない。
田浦と水営は直線にして3kmほどの距離に過ぎないが、この間には「荒嶺山(ファンニョンサン)」と呼ばれる標高427mの山が聳えていて、地下鉄はこれを南側に迂回する車通りに沿って走る。
このため実際の移動距離は倍くらいになるのだが、そういった位置関係を覚えたのは帰国後にこの旅行記を書きだしてからの話であり、旅行当時はただ「地下を走ってんな~」くらいにしか考えていなかった。
20分ほど揺られて18時55分、水営駅に到着。表に出ると、街はすっかり夜の灯りに照らされていた。
裏通りには煌々とした看板が並び、風俗街を思わせる艶めかしさが印象的だ。どことなく写真撮影が憚られる気配がする。だがここは風の街ではなく、一般的な繁華街である。韓国の飲食店街というのははこんな感じらしい。
東横インの予約代表者であり、かつて北海道のすすきので夜を過ごしたことのあるオタクは、浮足立つように大手を振って歩いている。繁華街経験値が違うなと思った。数件ほど外から店を物色し、「晋州ヤンコプチャン」に入店した。
入店すると、4人横並びでカウンター席へと案内された。カウンターの向かい側には座敷、店の奥にはテーブル席もある。既に現地の人たちが杯を交わして盛り上がっていた。
釜山の名物といえばホルモン焼きらしく、目の前に敷かれた鉄板には続々と肉が盛られていく。記憶が定かではないが、恐らく肉の盛り合わせ的なメニューを注文したのだと思う。
肉と同時に、お通しのようなものも机上に続々と展開された。漬物、菜っ葉、味噌っぽいもの、おろしにんにくの添えられたタレ、獅子唐のような野菜を細かく刻んだもの・・・、ありとあらゆる付け合わせで肉が堪能できるようになっている。
ビールを注文し、まずは乾杯。焼肉と酒は正義である。
大きな肉塊に火が通ると、店員さんがハサミをもってそれをジョキジョキと手際よく小分けにしていく。こうなれば食べごろらしい。最高に旨かった。
奥のテーブル席も相変わらずの盛り上がりぶりだった。途中で人が増えたりしていたが、何の集まりだったのだろう。どんな話をしているのかはさっぱりだったが、楽しそうに食卓を囲む光景は、傍目に見ていても心温まるものがある。
肉をひとしきり堪能した後は、追加で炒飯も作ってもらったりして、もうすっかり気持ちよくなってしまった。あっという間にお会計である。
釜山の夜風に吹かれながら一駅分歩き、隣の広安(Gwangan)駅から地下鉄に乗って西面の東横インに帰った。投宿後は皆あっという間に寝落ちした。
つづく
・合流後の流れは下記旅行記にも詳しく掲載されている
・前回
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