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「数学は身体というノイズと共にある」 森田真生『数学する身体』

抽象の代名詞とも思われがちな数学のイメージを180度反転させ、身体や心こそが数学の基盤にあるというメッセージを確信を持って描き切った一冊。最初の「なぜ3以降の数字はどんな形式でも急に変化するのか」という問いに認知心理学をもって答えるところから、「人間が数学を抽象的に純粋化してきた歴史としての数学史」の記述をくぐり抜け、チューリングと岡潔を扱って人間の心にどうやって数学が迫っていくのかを具体的に思考し、最後は「情緒」や「風景」に豊かな一瞥を与えて巻を閉じる。数学の本なのに自然の香りがしてくるのが、この本の不思議なところである。


名文づくしなのも素晴らしい。冒頭、

「身体が数学をする。この何気ない一事の中に、私はとてつもない可能性に満ちた矛盾をみる」

森田真生『数学する身体』

というなんともカッコイイ開幕の宣言から始まり、

「数学者は「数学的自然」を行く旅人である」

森田真生『数学する身体』

という情感あふれる数学者のイメージの提出、さらには

「虚無と呼ぶにはあまりにも豊穣な世界。無意味と割り切るには、あまりにも強烈な生の欲動。その圧倒的に不思議な世界が、残酷なまでに淡々と、私たちを包み込んで、動き続ける」

森田真生『数学する身体』

もう惚れました。

もう一点重要なことを付け加えると、なんと森田さんのお師匠はスマートニュースの鈴木健さんらしい。彼とクリスマス・イブに二人でバーで飲んで、その時に鈴木さんがカントールの対角線論法を森田さんに教えたことが、森田さんが数学を志すきっかけになったという(なんて素敵なクリスマス・イブなんだ...!)。恐るべし鈴木健、と改めて思いました。

学問することの素晴らしさ、豊かさを忘れてしまいそうになった時にまた読み返したい一冊。

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