見出し画像

韓国のスタートアップ環境は、日本のロールモデルになり得るか?

 こんにちは、East Venturesの佐藤凜(@1123_sl)です。3月にEast Venturesにジョインし、現在は韓国のスタートアップを中心にリサーチをしています。

 先日日経さんの記事で、2023年度に日本政府が海外VCに投資するために1,000億円の基金を立ち上げることが報じられました。海外VCへ資金を供給することで、海外VCの知見を吸収し、日本国内のスタートアップへの投資を加速させるそうです。この記事に対してネット上では様々な意見が飛び交いましたが、その中で「韓国政府も海外VCに投資するための基金を立ち上げている」というツイートを目にしました。

 そこで今回は韓国のスタートアップ環境はどのようになっているのか、そしてスタートアップ支援としてどのような施策を打ち出しているのかについて書きたいと思います。

資金調達の概況

 2021年度の韓国スタートアップの合計調達額はで約1兆1,790億円で、調達額は前年度と比較して約2倍までに増加したという。また調達件数は1,272件で、こちらも前年度と比較して約2倍増加した。
 2021年度の注目投資領域は、高級ブランドやファッションなどの中古品売買プラットフォームやラストマイルのデリバリープラットフォームである。また2021年度の投資を象徴するキーワードとして「非対面」、「DX」、「ミレニアルとZ世代のライフスタイル」、「第4次産業革命」が挙げられる。

韓国のユニコーン企業5選

 韓国中小ベンチャー企業庁の最新のデータによると、2021年末時点でユニコーン企業の数は18社に達したという。ユニコーンの中でも、今回5社を厳選して紹介する。

①Market Kurly: 生鮮食品のデリバリーサービスを提供
②Danggeun Market: アプリベースの中古品取引のマーケットプレイス
③Dunamu: 暗号通貨取引所を提供
④MUSINSA: オンラインファッションプラットフォーム
⑤SmartStudy: 子供向けの教育×エンタメサービス

①Market Kurly

  • 設立年:2015年

  • 本拠地:ソウル

  • 直近の調達額:約270億円

  • 直近の調達元:Anchor Equity Partners

  • 合計調達額:約900億円

  • 海外投資家:Sequoia Capital China、DST Global、Aspex Management、Hillhouse Capital Group、Digital Horizon、Millennium Management、G Squared、Translink Capital

  • ラウンド:シリーズF

  • 事業内容:女性起業家Jong Yoon Kimが創業した、韓国版AmazonFreshを提供しているスタートアップ。Sequoia Capitalからも出資を受けており、夜の11時前に発注された商品は全て翌日の朝7時までに届けるデリバリーサービスを韓国国内で展開している。2021年10月時点でユーザー数は900万人いる。

②Karrot Market

  • 設立年:2015年

  • 本拠地:ソウル

  • 直近の調達額:約207億円

  • 直近の調達元:Altos Ventures、DST Global、Goodwater Capital、Softbank Ventures Asia、Kakao Ventures

  • 合計調達額:約260億円

  • 海外投資家:Strong Ventures、DST Global、Aspex Management、Goodwater Capital

  • ラウンド:シリーズD

  • 事業内容:韓国版ジモティー。半径6km以内に位置する売り手から商品を購入するピアツーピアのマーケットプレイスだ。ほとんどの取引が対面で行われ、ユーザーの身元は電話番号と位置情報で確認される。

③Dunamu

  • 設立年:2012年

  • 本拠地:ソウル

  • 直近の調達額:約100億円

  • 直近の調達元:Altos Ventures、Hana Financial Investment、Saehan Venture Capital

  • 合計調達額:約200億円

  • 海外投資家:Qualcomm Ventures、Global Brain Corporation

  • ラウンド:セカンダリーマーケット

  • 事業内容:韓国の暗号通貨業界初のビリオネア2人が共同創業した、暗号通貨取引所「Upbit」を運営している。現在ユーザー数は840万人で、総取引量は2.5兆ドルと言われている。

④MUSINSA

  • 設立年:2001年

  • 本拠地:ソウル

  • 直近の調達額:約130億円

  • 直近の調達元:Sequoia Capital、IMM Investment

  • 合計調達額:約330億円

  • 海外投資家:Sequoia Capital

  • ラウンド:ベンチャーラウンド

  • 事業内容:海外進出を希望するブランドにブランディング支援をはじめとする幅広いサポートを提供する大規模オンラインファッションストア。昨年から日本にも進出している。

⑤SmartStudy

  • 設立年:2010年

  • 本拠地:ソウル

  • 直近の調達額:約40億円

  • 直近の調達元:Korea Development Bank、Pureun Partners

  • 合計調達額:約200億円

  • 海外投資家:DT Capital Partners

  • ラウンド:不明

  • 事業内容:昨今Tiktokでバズったベイビーシャークという曲を作った会社で、子供向けに教育コンテンツを提供している。日本にも2018年に進出し、幼児向けの英語教育用DVDなどを販売している。

韓国のVC3選

 次にそのようなスタートアップに投資するVCを3社厳選して紹介する。

①Korea Investment Partners

 Korean Investment Partnersは、ソウルに拠点を置く韓国最大のベンチャーキャピタルである。基本的にシードからレイターまでに投資をしており、代表的な投資先としては学生ローンサービスを発祥としたソーシャルレンディングサービス企業Sofiがある。2020年時点の投資総額は38億ドルで、51本のファンドを運用している。
・ホームページ:http://partners.koreainvestment.com/?lang=en

②InterVest

 IntervestはBiotechやIT、東南アジアに注力して投資している韓国のベンチャーキャピタルである。運用総額は5億8,000万ドルで、6つのファンドを運用している。また、韓国のVCの中でもブロックチェーン領域に投資ししているVCの1つで、代表的な投資先としてはBlockoなどがある。
・ホームページ:http://www.intervest.co.kr/html/main.html

③Altos Ventures

 Altos Venturesは、1996年に設立した米国に拠点を置く韓国の中でも老舗のベンチャーキャピタルである。ソウルにも拠点を置いており、北米だけでなく韓国のスタートアップにも投資している。主にクラウドベースのビジネスソフトウェア企業にフォーカスして投資をしており、代表的な投資先としてCoupangなどがある。
・ホームページ:https://altos.vc/

中小ベンチャー企業部とは

 ではそのようなスタートアップやVCをサポートする体制を韓国政府はどのように整えているのか。実際に国主導でインキュベーションプログラムを運営していたり、スタートアップ支援を目的として株式を要求しない基金なども整備している。
 具体的に韓国政府は「中小ベンチャー企業部」という機関を設置し、スタートアップの支援などを行っている。ここではこの中小ベンチャー企業部について紹介する。

目的

 3つのミッションを掲げてスタートアップ支援を行っている

  • ビジネスの成長を促進:企業の成長が国民経済の成長に直結していると考えているため、スタートアップから中小企業、中小企業からグローバル企業までを対象にした様々は政策を実施している。

  • スタートアップの育成:技術や知識ベースのアイディアをビジネスにするための支援を行っている。さらに、資金調達のサポートも行っている。

  • 零細企業への支援:経済の重要な基盤である零細企業の競争力を強化するため、様々な政策を行っている。

スタートアップ向けの政策

 技術系スタートアップの成功可能性を高めるために、様々な政策を実施している。以下が政策の一例。

  • Tech Incubator Program for Start-up:VCから調達を受けている、プログラムに採択されたスタートアップに資金を提供

  • Start-up Leader Universities:大学が支援する優れたスタートアップ企業を支援

  • Smart Venture Start-up Schools:ソフトウェアやコンテンツ開発など、有望な知識集約型産業のスタートアップ企業を支援

 またスタートアップを支援する強固な基盤を作るために、減税や規制緩和を行い、新規事業のために有利な環境を西部している。また起業家のアイディアのプロトタイプづくりの場として、開発するためのスペースなども提供している。

スタートアップ向けのプログラム

 中小ベンチャー企業部では、起業準備中からレイターステージと幅広い段階のスタートアップを対象に、事業をサポートするためのプログラムを提供している。その内の代表的なプログラムを今回紹介する。

 TIPS(Tech Incubation Program for Startups)は、エンジェル投資とインキュベーションを行うアクセラレーターをTIPS事業者に選定する。そしてTIPS事業者が投資した有望なスタートアップに対して、研究開発などのために資金を提供するというプログラムである。
 またTIPSは3つの段階に分かれており、それぞれ採択企業数や支援額が異なる。以下に具体的な支援内容などを紹介する。

  • プレTIPS

    • 対象:チームが2名以上から構成され、事業開始の日から3年以内のスタートアップ

    • 支援額:約3億円

    • 採択チーム数:約30チーム

  • TIPS

    • 対象:チームが2名以上で構成され、事業開始の日から7年を超えないスタートアップ

    • 支援額:約178億円

    • 採択チーム数:約300チーム

  • ポストTIPS

    • 対象:最終評価で「成功」と判定された企業のうち、その後の民間投資を約1億円以上誘致した企業。

    • 支援額:約15億円

    • 採択チーム数:約40チーム

 またサポート内容としては、試作品製作費や海外法人設立費などのための資金援助プログラムもあり、多様な面から資金提供を通してスタートアップ支援を行っている。


 以上韓国のスタートアップ環境について今回noteにまとめてみました。韓国は政府が主体となり、スタートアップ支援のために規制緩和のみならず、資金提供の基金も設立していることが分かりました。
 韓国のスタートアップ環境は日本のロールモデルになる可能性があるので、引き続きリサーチしていきたいと思います。

Twitter:@1123_sl



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?