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【でんぱ組.inc】THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE

5月16日、でんぱ組.incが「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」を行った。同月行われる予定だったツアータイトルの末尾に「ONLINE」の文字が付け加えられていることから分かるように、行うことが叶わなかったツアーに代わってオンライン上で有料配信されたものだ。

しかしながらこのライブは「ライブができなかったことによる代替企画」に留まるものではなかった。今回のオンラインライブを従来のそれと同じ意味で「ライブ」と言うのは正しくないし、まして「ライブ映像」とするのも正しくない。大胆な画面の構成と画面上でのエフェクトが施された二時間のオンラインライブは、生ものの映像作品として成り立っていた。

今回はメンバーが一人ずつ隣り合ったスタジオから歌唱。そのためでんぱ組.incの大きな武器のひとつであるダンスパフォーマンスはなく、一人につきカメラは定点の一つのみであったため、大きく動くことすらままならなかった。しかしこのオンラインライブにおいてはそのことすら良い方向に働いていたように思う。

ファンと直接顔を合わすことができなくとも久々の歌唱に嬉しそうな表情をするメンバーは、高ぶる気持ちを共有するかのように時々画面に向かって手を伸ばした。MC中に鹿目や古川の口からも出たように、「気持ちを届ける」ということがメンバーの頭にあったのだろう。そのことを感じさせる動作である。
通常の音楽ライブであれば、こうして目の前にメンバーの手が差し出されることはない。その手に触れることは画面上では不可能であるが、メンバー自身から溢れる思いのようなものを、我々視聴者全員がその目を見て一対一のものとして受け取ることができたのだ。

かといって、オンラインライブに動きがなかったわけではもちろんない。
本来のライブとは異なり、オンラインライブには外れることのできない狭い枠が設置されているわけだが、それを効果的に利用したのが画面のエフェクトである。
メンバーの映る画面の背景に曲のモチーフである水や炎の演出が映る『 ボン・デ・フェスタ』、『いのちのよろこび』など、ライブの定番となりつつある楽曲のあとに披露された『もしもし、インターネット』は特に映像であることによる強さを発揮した。
唯一MVを思わせる映像演出がされた『もしもし、インターネット』であるが、その理由は言うまでもなくこのライブがインターネット配信だったからであろう。MVを模したことによってインターネットの無機質さが強調されたこの曲中で、画面越しに歌われる"私のいのちはずっとここにあるから"の歌詞はMVで示唆される通りの意味を持ち、オンラインライブでの『もしもし、インターネット』の歌唱自体がMVの再現になるというインターネット配信ならではの楽曲の輝き方をした。

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歌詞のエフェクトも印象的であった。奇しくも現在の情勢の励みになるような楽曲『星降る引きこもりの夜』では、そのことが意識されてかシンプルなフォントで字幕のように歌詞が表示され続けていた。しかしこの曲のような読ませるための歌詞の表示はここでは寧ろ珍しくすらある。
歌詞が画面上下に一文字ずつ表示される、画面いっぱいに歌詞が表示される、巨大な文字が読めない速さで流れていくなど、めまぐるしいの演出がされた『プレシャスサマー!』。ここで歌詞は読むため、内容を理解するために存在しているのではなく、動きの表現としてのはたらきを持っていた。これは『愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ』の歌詞にもある、"なに歌ってっかわかんないでしょ それが それが でんぱ組なの"という歌詞と繋がっている。歌詞は楽曲の解像度、動画の見応えのどちらの役割も担っていたのである。

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そしてもう一つ、画面の演出で衝撃だった点がある。メンバーの顔面を映すことをときに一番の優先としなかった点だ。
アイドルのオンラインライブで、一人につき一つのカメラがある条件下では、その顔を映すのが第一とされるのが一般的だろう。しかし、『形而上学的、魔法』では水面のように画面が歪んだり、亀裂が入ったりする。『子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡』や『でんでんぱっしょん』ではメンバーの姿などお構いなしに光線や煙のような演出がされた。これは、映像作品としてのおもしろさの追求であると同時に、でんぱ組.incのアイドルとして常軌を逸するスタンスを自然と表現してのけたということでもあるのだろう。

この企画が行われたのは、ツアーが中止になってしまったが故であり、こうして行われたこと自体を無邪気に肯定することはしにくい。しかし有料コンテンツとして、このような映像としての良さをもったオンラインライブができあがったことは、これからの音楽業界においてヒントになるべきなのだろう。

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