見出し画像

邦画は映画館に行かなくてもいいよね?(『あのコはだぁれ?』を観ました)

 映画が好きです、と言い始めたらと映画が好きな人とお話しする機会が増えました。

 どんな映画が好きですか?、などと答えるのに少し緊張してしまう質問を皮切りにはじめましての方と映画の話をするわけです。

 私は『グレイテスト・ショーマン』、『the First slam dunk』、『さがす』の3本から相手に合いそうなものを答えることにしています。(表記不正確をお許しください)
 悩みすぎてしまいますので。もう暫くはこの3選でいこうと決めました。

 そして相手にも聞き返します。

 どんな映画を観ますか??
 どんな映画が好きですか??

 ここで実写邦画を挙げてくる人は体感めちゃくちゃ少ない。
 洋画、アニメ映画が好きな人の方が映画オタには多いらしい。


 邦画を、〝映画館に観に行く〟という人はもっと少ない。


 これは凄く勿体ないことで、同時に凄く共感することができる意見ではないかと思う。

 邦画はサブスクで観れば充分。
 せっかく1,800円、決して安くないお金を払って観るんだから迫力ある映画が観たい。画面が派手な作品を観たい。
 アニメとか描き込みが凄くて、映像演出が多彩で、これまでテレビ版なんなら原作から追っている作品だったりして。

 そういう映画だったら〝映画館に行く価値あるかな〟そんな風に思われてしまう。

 実際、映画.com発表の2024年8月現在の観客動員ランキングは1位『インサイド・ヘッド2』2位『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』3位『僕のヒーローアカデミア THE MOVIEユアネクスト』と錚々たる面構えである。

 4位にキングダムが入ってはいるのだが、これは漫画原作の力もあるし……。原作ファンで引っ張ってくることが難しい他の邦画とは同列には語れないというか。『キングダム』がすごいというか。


 そんなわけで実写邦画は近年盛り上がりには欠けている。

 わかる。行かない気持ちもよくわかる。私だってちょっと前まで邦画は配信を待てばいいかぁと思っていた。洋画かアニメでしか映画館には行かなかった。

 邦画は洋画とは違う。海の向こうで既に何らかの評価を得て、海を越えるその間に藻屑にならずに私たちの元まで辿り着いた珠玉の映画たちとは訳が違う。

 珠玉の映画たちの中のクソ映画はたとえクソ映画だったとしても珠玉のクソ映画なのだ。

 昔、サメ映画はどうしてこんなどうしようもない作品も海を渡ってきちゃうんだ、という議論において「サメだからねぇ」というお茶目回答は置いておいて、「海の向こうには日本に辿り着かない本当のクソサメ映画がその何倍もあるから」という答えが導かれていたことがある。

 でも、日本で作っている日本の映画にだって勿論クソ映画はある。しかも海を渡る必要がないから良作に紛れて存在する。

 クソ映画というのは人様の作品に対して失礼かもしれない。それでも敢えて言う。私の2時間返してくれ〜〜。私に合わなかっただけかもしれない。だけど、これが好きって言う奴が、良いって言う奴がこの世界のどこかにいるんか?正気か?と思ってしまうような。サブスクだったら途中で絶対観るのやめてるような。

 そういうものは必ずあるのだ。

 素晴らしい作品もちゃんとある。でも、たしかに映画を観ようと思ったらクソ映画はあるし、映画館じゃなくても別によかったかなぁという作品もある。

 でも、その数多ある作品の中で映画館で観た時こそめちゃくちゃに輝く映像作品があるのだ。

 私は『あのコはだぁれ?』を観た時に思った。

 あんた、劇場で観てもらって1番輝く映画だよ。1番怖がって、楽しんでもらえる映画だよと思った。

 正直、私は何も期待をしないでこの映画を観に行った。

 めちゃくちゃ恐いという前評判。最恐ホラー。まじ? 渋谷凪咲ちゃん主演大丈夫? そもそも日本のホラーに脚本力は期待してない。伏線回収? そういうのできないもんね?

 だけどなんか、ホラー映画って劇場で観たことないかも。観てみたら違うかも。そう思って初めて映画館で観てみた。ちょうど1本無料だったし。

 では感想。演出がべらぼうに良い。音、最高。
 ジャンプスケアや安易なグロに頼らない〝日本のホラー〟のじっくりとした恐がらせ方。ついでに主題歌もいい。

 始まって30秒で「映画館で観てよかったーーー!!!」ってなった。
 初手のあの音、恐いですよね。

 あのコの顔の造形も名前も最初にわかっちゃうので予想していた話の運びとは全く違いましたが、ホラーの撮り方は「清水崇監督、遂にやってやったんですね!!」という気持ち。絶賛されるのもわかる。映画館という空間で見ると怖い。

 家で初見だったらどうだっただろうと考える。

 キャラの薄さや物語の展開の粗に引っ張られていたんじゃないかと思う。
 脚本それ自体にはもう一捻りほしくなっちゃうっていうか、私だったらここを膨らまして作りたくなっちゃうけどなって思うところはある。

 魅せ方のテンポがよくて飽きさせない分、心理描写やキャラの肉付けでもう一段階人間の怖さを見せられたんじゃない?物語でビビらせられたんじゃない?

 良くも悪くも普通の〝物語〟の見方。小説と同じ。ストーリーが面白い映画かのジャッジに引き摺られた気がする。

 ちなみに弟は「前半、Netflixだったらブラウザバックしてた可能性ある」と評していた。

 その内実として「ミンナのウタを観ていない分サナの描き方が受け入れにくかった」というのはある。観ていたら「あの時の……!!」ってなったのかもしれない。見ていなかったので、作品の肝なんだろうと思っていたところを最初に全部説明された気分にはなってしまった。

 ちなみに後追いで『ミンナのウタ』を観たらガッツリ内容が被っていて本作で「そうだったの!?」と引き寄せられた内容がほぼ既出だったと知る。え、2回同じこと見てファン的には楽しめたの……?

 ただこの作品のメインはそこじゃない。

 魅せ方だと思う。

 観客だけが観測する異変の映し方や全体的な人物配置、そっくりな背格好。ループの構図や話し方。声や椅子を揺らすほどの臨場感のある音の演出。iPadのスピーカーとは訳が違う。

 そういう演出を積み重ねるからこそあえての無音が迫力を持つ。

 主演の渋谷凪咲さんに極力喋らせない、叫ばせない静かなる恐怖の表現。凄くよかったと思う。

 それは気軽に喋ることも許されず、途中退室の選択肢もなく、スマホも弄れない、ただその映画を五感全部で感じることを強制された空間で100%輝いていた。

 だから思う。邦画も映画館で観てほしい。

 そりゃテレビサイズで十分な作品もあるかもしれない。

 でも、テレビドラマでも拡大版スペシャルでもなく〝映画〟として劇場で公開する為に生まれた作品たちだから。

 その中には劇場でこそ真価を発揮する作品もあるから。

 沢山の映画が観客に観られるようになって、最悪な映画も名作も生まれ、語られる数が増えて、そうして初めて日本の映画業界が素晴らしいエンタメを届けてくれるようになるんだと思う。

 だから、これから私は邦画も映画館で観ようと思う。

 手始めにそろそろネタバレを避けるのがキツくなってきた『ラストマイル』を観に行きたいです。明日行こうかな。

 ミコトや中堂さん、東海林も勿論、志摩と伊吹。
 他にもたくさん、そして何よりエレナたちに。

 早く劇場で会いたいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?