向かいに住んでいるおじいちゃんを勝手に心配していた話。

このアパートに住みかれこれ3年が経った。そんな私たち夫婦の楽しみは、向かいに住んでいるおじいちゃんだ。

春夏秋は、毎朝5時に起きるおじいちゃん。なぜわかるのかって?なぜかは知らないが、窓を全開にしてお仏壇の鐘をならしているからだ。チーンチーンと何度も何度も鳴る音。

「うるせー!!!!!」

とほかの人が叫んでいるのを聞いたことがある。そしてそれで朝起きる。その繰り返しだ。おじいちゃん、いつも元気で素晴らしいなと私たち夫婦は朝5時に一度起きて二度寝をかますのがルーティンだった。

そして冬になると、おじいちゃんの趣味が爆発する。おじいちゃんの趣味は、雪かきだ。そう、雪かき。

通常、雪かきは雪が降っている最中はあまりしない。雪かきしている間にも雪が降り積もるのだから当たり前だ。しかし、おじいちゃんはそんなことで雪かきをやめたりはしない。

ちらちら雪が降っている間も雪かき。
ふぶいている間も雪かき。
少し雨っぽい日でも雪かき。
とにかくいつでも雪かきをするのがおじいちゃんの趣味だ。

なぜいつも雪かきをしているのか不思議でならない。そして、おじいちゃんは雪かきをした雪を道路の端に集めて道を作るのが趣味だ。さながら庭に雪を集めて滑り台をつくるこどものように。なぜかそれを、道路に集める。

私たち夫婦はそれを「おじいちゃんロード」と呼んでいる。

そのロードは、本当に邪魔くさい。車の運転ができなくなるほどの邪魔くさい、もうとにかく邪魔くさい!しかし、おじいちゃんがどんな日でも頑張って雪かきをして出来上がったロードだ。そんな悪い言葉を浴びせることはできない。

そんなある日、ついに除雪車が入った。深夜だった。暗い夜道、ゴゴゴゴゴと音を鳴らして走る除雪車が、雪をきれいに持って行った。

そう、おじいちゃんロードも綺麗に持って行ってしまったのだ。

朝起きると、すっかり道路は広くなっていた。おじいちゃんは何もなくなった道路に立ち尽くしていた。あぁ、頑張って出来上がったおじいちゃんロード。

私たち夫婦は、少しだけ寂しかった。しかし、やはりあの邪魔くさい雪の山が消えるのはありがたい。車はすいすいと動く。安心だ。

そして、おじいちゃんロードが消えてから数日後、私は気づいたのだ。

おじいちゃん……雪かきしてなくない?!?!?!?

おじいちゃんがまったく雪かきをしなくなったのだ。焦った。もしかして、あの雪山が消えたからか?おじいちゃんが丹精込めてつくりあげたあの雪山、通称おじいちゃんロードを除雪車が持って行ったからか!?そうなのか!?おじいちゃんはもう雪かきをしたくないのだろうか!?

おじいちゃんが雪かきをしなくなった代わりに、おばあちゃんが雪かきをしていた。あぁ、おじいちゃん本当に雪かきしたくなくなってしまったんだ。それか、もしかして病気にでもなったのだろうか?毎日毎日みていたおじいちゃんの姿が見えなくなり、とても焦った。悲しかった。

おじいちゃん、元気かな……。

しかし、そんな心配は杞憂だった!

おじいちゃんが雪かきをしなくなり、二週間が経過した今日。ついにおじいちゃんが朝雪かきをしていた。晴天の空の下、もこもこに積もった雪をせっせかと雪かきしているおじいちゃん。

スコップを3種類も分けて雪かきをしているおじいちゃん。なぜか分からないが、玄関は細いスコップ、歩道の雪かきは太いスコップ。そして仕上げgママさんダンプ。その使い分けは一体なんなのだろう。

楽しそうに雪かきをしているおじちゃんを、4階の窓から見下ろしながら安心している私たち夫婦だった。


しかし、もう二度とのおじいちゃんロードは作らないでほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?