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幻聴とパニックの始まり

かかりつけの精神科を受診した夜、突然にして始まった。
今までとは比べ物にならないほどの不調。
これは不調と言って言いものなのかは分からない。
不調というよりも、今まで下り坂から石が転がり落ちてたのに、急に崖に出くわしてしまったために真っ逆さまに落ちていっているような感じだ。

ー6/21の夜ー

以前、精神科を受診した日が6/21。
夕方になると幼少期の記憶がフラッシュバックする。
それに伴って希死念慮がこんにちは。
さあ、首をつれ。死になさい。あなたにはお似合いよ?
と、言わんばかりに顔を出す。
帰っていただきたい。
しかし、そんな私の気持ちを無視し続けて居座っているのが希死念慮である。
涙が出てくるのを必死に堪えながら、可愛い息子の隣で息を潜める。
いっそのこと息を潜めて欲しいのは希死念慮の方である。
情緒不安定なため、夜に来た元カレに泣きつく大人がない人間はこの私だ。
何とか重い体を動かし、お風呂に入ってから布団を敷く元カレの邪魔をする。
久しぶりの再会にテンションが上がる息子。

再度目が覚めたのは夜中の3:50頃だった。
トイレへ抜ける気配で目が覚めた。
行っちゃうんだ…と思いつつ、布団に身体を預けていると、テレビでよく聞く波の音がザザザザーと聞こえてくる。
満ちては引いて、引いては満ちて。
夏だな…。
次第にピッピっと等間隔に吹かれるホイッスルの音も聞こえてきた。
波の音とホイッスルの音が重なり、一定のリズムを刻みながら押し寄せる。
目が開かなくなる中、懸命に抗った。
助けて…。
ちょうどそこへ帰ってきた彼の足にしがみつき、びっくりした様子の彼をよそに涙が止まらなかった。
怖い…。
暗闇へ1人吸い込まれてしまうかのような恐怖。
必死に1人じゃないことを彼の肌を手繰り寄せて確認する。
大丈夫と思いたい。
私はまだ大丈夫だと。
幻聴はどこかへ行ってしまい、残されたのは恐怖と彼の温もりだけ。
暗闇への恐怖も拭い去れないまま、「怖い」とだけ言い残して1人、台所へ逃げた。
心配そうに着いてきては、電気のついた台所で抱きしめてくれる。
腕を掻きむしり血が出る。
自分ではやめれないのを見かねて、そっと手首を掴まれた。
「戻ろう?」と声をかけられても怖い。
嫌だ。
「電気つけるから戻ろう?」
何度も説得され、ようやく息子の寝ている部屋へと戻る。
出血している腕に絆創膏を貼ってから、抱きしめられた。
安心したのか少しだけ、腕の中で眠ることができた。

ー6/22ー

この日は雨だった。
家から出なくても雨が降っているというだけで憂鬱だ。
また聞こえるはずのない音が聞こえるのではないかと心臓がバクバクする。
せっかくの休日なのに気が休まらない。
トラウマだ。
食後に気持ち悪さを感じる。
こんな時に誰かそばにいてくれたらな、と思う。
息子には心配も迷惑もかけるわけにはいかない。

ー6/23ー

今日も1日外に出ていない。
しんどくて朝から晩まで寝込んでいる。
「ママお腹すいた」と息子の可愛い声で目が覚め、重い体も気持ちを奮い立たせながらお昼ご飯を用意する。
そう言えば、今日は朝からお薬飲んでないな。
通学制の大学に通ってた頃に賃貸暮らしをしていた期間約3年、息子の2人暮らしし始めて約1年、親になって約5年。
自分で身の回りのことを1人でできるようになって来たと思う。
薬ありきの生活であることには目を瞑っていただきたい。
齢26になってもフラバは起こすし、親に言われた言葉を引きずってる。
私はできない子なんだって、自分で自分に繰り返して言い聞かせてる。
まだ親のせいにしながら生きているんだ。
こんな私、ずっと寝てたらいいのにね。

ー6/25ー

息子を登園させてから婦人科へ薬をもらいに車を走らせる。
おかしい。
ハンドルは確かに握っているのに自分の手じゃないみたいな感覚を覚える。
頭から血の気が引いて行くような…。
受付をして椅子に座った頃には落ち着いていたが、また車に乗ると自分の手じゃない感覚に襲われる。
さて、安全運転で帰りましょう。

火曜日の17:00〜19:00は数学の勉強の時間としている。
17:35。「にゃーん」と猫の鳴き声を真似たような声がはっきりと聞こえた。
18:05。ひゅーっと花火が上がるような音が聞こえる。
暑いとはいえ、まだ花火を上げるには時期的に早すぎやしませんかね?
室内にいるにも関わらず、こんなにはっきり聞こえるのはおかしいよねと思う自分がいた。
目の前の窓は締め切られている。

ー6/27ー

今週に入ってから息子の様子がおかしい。
降園後、「ばあばが言うこと聞いてくれへん」とか、「ばあばがフォーク刺してくる」とママのところまで言いに来ては泣いている。
もちろん後者は嘘である。
どこも怪我などしていない。
園で頑張っているのは知っているが、疲れているのか?
実母が帰った後は機嫌良く、一緒にゲームをしたりご飯を食べたりしているのである。

この日の前日は、あまりのしんどさに20:00を少し回ったくらいには、息子をほったらかして先に寝てしまっていた。
どう足掻いても起きることができなかったのだ。
なので、朝起きてから息子とお風呂に入った。
「朝に入るお風呂も良いね」なんて、昨日の失態を誤魔化しながら。
別にこの日も私の情緒はよろしくない。
寝る前にレキサルティOD1/2錠が追加された。

ー6/28ー

元カレが有給を取ると言うので、買い出しのために車を出してもらった。
息子を登園させた後からすでにお腹が空いている。
いつも通りである。
ご飯はラーメンと唐揚げを美味しくいただき、フードコートの席で長々と雑談をした。
その後、買い物を済ませて別の店へと車を走らせてもらう。
お目当ての店に着いたところで、下痢と目眩、大量の汗に溺れた。
込み上げる吐き気に耐えきれず嘔吐。
小雨にも揉まれてぐちゃぐちゃになった。

家に帰って彼と別れを告げてから、大人は私1人となる。
不安、トラウマ、ストレスの逃げ道がない。
全ての窓を締め、玄関の鍵をかけて障子を閉める。
また以前の来客が来るのではないかと恐怖に身体が支配される。
毎日のように来ては1時間、2時間と話す来客は最近は来ていないのに、だ。

ー6/29ー

食後に吐き気を催すようになった。
ご飯も食後のデザートも美味しく食べれない。
美味しかったで終わらない。
でも空腹が続くと、それはそれで気持ち悪くなる。
今日は図書館で取り寄せてもらった本の返却期限が着々と迫ってくるので、本を読もうと思いページを開いた。
卒論の参考文献として使えるのではないかと思ったが、今の私としてはとても重いテーマだったようだ。
読むだけで心が削られていくようだ。

今日もダメだな、と思いつつ、結局お風呂に入れずなるのである。

ー6/30ー

今日もまだお風呂に入ってない。
昨日は外に出てないからいっか、と自分に言い聞かせる。
朝から降っている雨はやみそうにない。
むしろ私が病みそうである。
いや、既に病んでいるのである。
今日は雨だから以前の来客も来ないよ、と自分に何だも言い聞かせる。
窓も障子も開けることができないまま1日が終わってしまう。

1日じゃ一緒にいるフラッシュバックも希死念慮も、小学生の頃からずっと一緒だ。
こんなに長いこと一緒にいる友達はいないのに、こういう雑多ないらないものはずっと一緒にいるんだよな。

ー7/2ー

火曜日。
今日も数学のレポートを進める。
分からないなりに問題を解いていると、「無能」と言われた。
無能無能無能無能無能無能無能無能無能無能
泣きたい。
逃げたい。
意識だけが現実から逃げて行く。
「分からなかったですか?」
画面の向こうからの声で我に返った。
「あ、大丈夫です。」
ごめんね、幼少期の私。
上手にヨシヨシしてあげれなくてごめんね。
どうしたらいいのか分からないの。

ー7/3ー

今日の天気は良い。
とっても良い。
嫌になるほどいい天気だ。
あぁ、今日は晴れてるからまた以前の来客が来るんじゃないか…。
全ての窓を締め、障子を閉めきる。
私が消えてしまいたい。
台所へ逃げた。
もっと遠くへ、誰も知らないところへ逃げてしまいたい。
吐き気がする。
行きたくもないトイレへと何往復もして言い訳を作る。

「無能」
息子と2人だけの空間で私にそう言いかける。
息子はそんなことは言わない。
私が私に言ってるんだろう。
他には誰もいないんだから。
ずっと否定され続けている。

ー7/4ー

怖い。
6:30。息子の隣で朝ごはんの準備をする。
来るかもしれない。
いや、こんな早くに来るわけないだろ。
もう外は明るいし天気もいいじゃん。
来ないで!私は呼んでないし、来て欲しくない。1人にして。

いつも見ている壁の一角が、初めて見る家の壁に見えた。
こんなのあったっけ?
…あー、あったな。
そりゃ、そうだよ。毎日そこにあって、毎日それを見てるんだからさ。

今日も朝からメンタルがおかしい。とってもおかしい。
何がおかしいのかは分からないけど、涙が止まらない。
気持ちが上がらない。

18:00頃、仕事を終えた彼が来てくれた。
今日は私1人ではまずいと思って来てもらった。
涙が止まらない。
「ゲーム見て」と言っている息子を無視した。無視せざるを得なかった。
そうするしかできなかったの。
言い訳しかできなくてごめんね。
「ママは息子くんの話聞いてくれへん」
引き金が引かれた。
「無能だ」「何もできないのか」「あなたの
頭の中で責め立てられる。
息子を残して台所へ逃げた。
嫌だ。ごめんなさい。
涙が止まらない。追いかけてきた彼が心配してくれていたように思う。
少しずつ「無能」だと責められる声が大きくなる。
耳を塞ぐ。
そんなこと言わないで。
「違う、違う。そうじゃない」
聞きたくない。
両耳を押さえても聞こえてくる。
聞きたくない。
私は無能じゃない。そう思いたい。

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