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【超短編小説】夜の帳

この小説では夜の散歩をテーマに何気ない感情や出来事を描いていきます。派手な作品にはならないと思いますが、ゆったりお付き合いいただければ幸いです。

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夜の9時。ぼくはふと思い立って家を出た。
何か目的があったわけではないが、時々夜の散歩に出たくなる。

外に出ると人はいない。
夏のムワッとした空気だけが僕の周りに存在していた。
ぼくが住む街は都会とも田舎とも言えない中途半端なところだが、夜が静かなところはぼくが唯一この街を好きなところだった。

静かな道を歩いていく。こんなふうに何も考えずただ歩くのはなんだか僕には合っている気がした。

今の時代、家でのんびりするときもスマホを見たり、テレビを見たりしている。ずっと何かを与えられている。それは僕自身が選んで行動してる訳で、誰かに強制されているわけではないんだけど、少し疲れてしまうときもある。

そんなとき、家から出て外に行くと何だか別世界に来たような気持ちになる。昼とは大きく姿を変え、黒々とした夜の街は、何故か自分を受け入れてくれるような雰囲気があって好きだった。

家の前の道を歩いていき、少し大きな道路に面する通りへ出てきた。車はそれほど多くはないが、街が寂しくならないくらいには走っていた。
夜に灯る車のヘッドライトが何となくきれいで、僕は立ち止まりその姿を見ていた。
車が通り過ぎていく音が続く。今どきのエンジンの音は静かで、道路とタイヤが接する音だけが聞こえる。

少し歩くと、コンビニがあった。暗いこの街に爛々と輝くお店の明かりがきれいでもあり、少し怖かった。何だか誘蛾灯のようだ。虫が夜の光に集められるように、僕も意識せず吸い寄せられるように店に入った。

店内は明るい光とBGMで満たされていた。自分の中のテンションと合わず、少し心に引っかかったが、気にしないようにしていたらすぐに慣れた。
雑誌コーナーで適当に漫画を読み、お菓子とジュースを買おうとした。
店員さんはおじさんとおじいさんの間くらいの年齢の方で、何故かわからないけど、自分の将来を当てはめてみてしまった。
この歳になってコンビニバイトは嫌だな。でもやむにやまれぬ事情でそこへたどり着いているのだから、いい悪いではないのだろう。生きていくということはいろんな感情を飲み込んでいくことなのかな。
会計が終わり、レシートを受け取ったところで強制的に思考は中断された。
何だか言葉にできない恐怖だけが残ったが、気にしないようにして外へ出た。

また生暖かい空気を感じながら家までの道を歩いた。
ふと自分は何者なんだろうと考えた。こうやって過ごす一日一日が何のために存在するのか?と時々考えるが、いつも結論は同じで、僕みたいな個人にたいそれた目的なんてないのだ。別にそれでいい。
自分が楽しくて、少しでも周囲の役に立てればそれでいいのではないか。
ハードルを上げすぎずに人生を進んでいきたいな、と思った。

もうすぐ家に着く。
見慣れた道はいつも変わらない気がするけど、自分が見る世界は僕次第できっと違うように見えるのだ。
明日からまた頑張ろう、と自分にエールを贈り、夜の道を一人歩いた。

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