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そんな私が、バッハに目覚めて重力を失う・・・バッハ演奏 聴き比べ +link

クラシック・コンサートは苦手です

高校生の頃に、地元の市民オーケストラの定期公演会に行き、20代最初に、東京で海外オーケストラのコンサート( NYフィルで指揮はバーンスタイン、ピアノはアルゲリッチのはずが、バーンスタインだけ来日中止 )を初めて体験しました。ですが、その後、今日まで、知人のピアノリサイタル以外にクラシック・コンサートに行ったことはありません。

理由は、ただひとつ;
会場で2時間以上、周囲を気にしながら、咳一つ漏れないように、肩が触れないようにじっと静かに席に座っている状態では、リラックスして演奏に集中できなくなってしまうからです。

( ・・あと、あまり大きな声では言えませんが、西洋社会の正式な社交場のようなクラシック音楽演奏会のドレスコードとも言うべき、男性演奏者たちの黒衣正装の堅苦しさと、女性ソリストたちの肩と腕を露出させた華やかなドレス姿の、奏でられる音楽とは全く関係ないであろう「因習」になじめないのも、クラシック・コンサートに行きたくない理由なのです・・)

クラシック音楽は、独り自分の部屋で聞きます
なぜなら、好きな楽章や曲だけ選んで何回も聞けるし、曲や作曲家と自由に向き合うことで、自分だけの時間に没入できるからです。

そんな私が、バッハに目覚めたのは・・

リヒテル演奏の「平均律グラヴィア曲集第1巻」最初の第1番ハ長調を耳にした時でした。
もともと10代の頃は、西洋クラシック音楽の中でも、ベートベンドヴォルザークなどの交響曲、ショパンラフマニノフなどのピアノ協奏曲を好んで
聴いていたのですが、20代以降の会社勤務時代になると、メロディが親しみやすい小曲( たとえば、ショパンやドビュッシーラヴェルフォーレなどのピアノ曲 )以外には聴かなくなっており、バッハを聴こうと思うことなど全くありませんでした。

天上からの音楽に重力を失う

20代後半、忙しい日々の中、ある日曜日の午後のことです、・・・・なぜ買っていたのか忘れてしまいましたが、旧ソビエトの著名なピアニストS・リヒテルの4枚組CDの最初の曲「第1番ハ長調」が流れ始めると、部屋の空気が変わったのです、・・いや、その曲の、「天上から降り注いでくるような、澄んで清らかな、慈愛に満ちた音楽」に、この俗世の汚濁を生きる私の魂がふわっと重力を失ったように軽くなったのです!!

人でも物でも芸術でも、その人にとって必要な出遭いのタイミングというものがあると思います。私自身、20代後半、悩んでは成長する過程の中、どこか不足感の重石を感じていた時に、バッハの「平均律」が自分に必要なものとして耳に響いてきたのだと思うのです。

ところで、マーラーの「アダージェット」演奏時間は?

この有名な交響曲第5番は、昔から持っていた指揮者バルビローリ盤と、3年前に買った指揮者カラヤン盤を比較すると、カラヤンの方の演奏時間が4分ほど長く12分超あります。カラヤン指揮による「アダージェット」は、弦の響きを十分すぎるくらいまで伸ばし切って劇的な強弱をつけた演奏なので
想いがダイレクトに伝わり、バルビローリ盤よりさらに感動的です。

このように、同じ曲でも指揮者の解釈によってかなり違う仕上がりになるので、ピアノなどの鍵盤楽器演奏家の曲解釈によって曲調が変わるのは当然でしょう。

そこで、本題です、
バッハの有名な器楽曲を、何人かのピアニスト・鍵盤楽器演奏家で聴き比べてみます;

「平均律グラヴィア曲集」の聴き比べ

まず、西洋古典音楽の旧約聖書にたとえられる「平均律グラヴィア曲集」です。これは、全2巻48曲から成る鍵盤楽器のための曲集であり、バッハが生きていた当時はまだ、現代のようなピアノは開発されておらず、もっと金属的な響きの強いチェンバロ(ドイツ語)という鍵盤楽器で演奏されていました。ちなみに英語ではハプシコード、フランス語ではクラブサンと称されています。

スヴャトスラフ・リヒテル
Sviatoslav Richter ソ連
先に記した通り、このピアニストによる「平均律グラヴィア第1巻」の第1番ハ長調を初めて聴いた時に感じた、あの「魂の高揚と救済そして慈愛」は、
私のバッハ原点となったのでした。西洋キリスト教の聖典に依った宗教音楽曲とは違う、もっと普遍的で宇宙のような愛を感じたのでした。

youtube : 演奏時間はわずか2分ちょっとです( 42万回再生、広告はskip )

https://www.youtube.com/watch?v=3EnosoXeTWI

( ちなみに、この第1番ハ長調の前奏曲部分は、グノー作曲の有名な「アヴェマリア」にそのまま使われており、一般にはそれで知られています。)

他の曲も聞き続けてゆくと、崇高で厳しく、また慰めや哀しみさえも感じる音の集合体は、まさに宇宙そのもの、天界と地上の運行にふれるかのような音楽、規範と法悦の音宇宙そのものと感じるのです。そして、そう感じさせてくれるのが、ひとえにリヒテルというピアニストの神業なのです!

( なお、このCD盤の録音状態がどこか教会での演奏のような響きに聞こえることも、リヒテル盤の魅力アップに大きく貢献しています)

グレン・グールド   
Glenn Gould カナダ
天才・鬼才の誉れ高いこのピアニストによる「第1番ハ長調」を聴くと、あまりの軽快なテンポに、別の曲かと思ってしまいます。他の曲でもいえるのですが、グールドは総体的にリズミカルで明快かつ早い弾き方ですので、思い入れや余韻は感じませんが面白い刺激はあります。一方のリヒテルは、強弱はしっかり、テンポは緩急自在に、思いはゆっくり流れるように弾きますので、余韻と感動が残ります。

youtube :  https://www.youtube.com/watch?v=F8Erz_njdSw

(「 小学生が九九の掛け算をひたすら暗唱してるような曲」と、ある投稿者のコメントがあり、言い得て妙です!)

ワレリー・アファナシエフ  
Valery Afanassiev  ソ連
リヒテル、グールドとはまた違う個性のピアニストで、曲によっては緩慢なくらい遅いテンポの奏法に特徴があります。「第1番ハ長調」はまだ普通の
速度ですがメリハリが感じられないので私には退屈に感じます。ですが、たとえば第4番嬰ハ短調はかなり遅いテンポでの演奏なのが逆に印象深い曲と
してじっと耳を傾けて聴いてしまいます。

youtube :  全曲の投稿しかなく、最初の第1番だけなら2分ほどです;

https://www.youtube.com/watch?v=FoKkyQX6fQ8


グスタフ・レオンハルト 
Gustav Leonhardt  オランダ
チェンバロとオルガンの奏者、高名な音楽学者でもあります。私の友人が、チェンバロの音を聴くと頭が痛くなる、と訴えました。確かに、楽器の構造上、ピアノのような柔らかな弱音の残響音が出せないので、余韻や間が無く、思い入れたっぷりのロマンティシズムは演出できにくいようです。

Youtube :  2分57秒ほどの演奏時間です;

https://www.youtube.com/watch?v=MZ0UGngTYec


鈴木雅明  日本
チェンバロ、オルガン奏者、指揮者、大学教授等々。先の西洋人レオンハルトの演奏と違って、この鈴木氏の平均律「第1番ハ長調」を聴くと、
晴朗かつ澄明な美しさを感じます。これは何の違いでしょうか? そもそも、チェンバロの響きが違うのです。使われた楽器自体の特性の違いでしょうか、または、録音状態の影響でもあるのでしょうか? とにかく、鈴木氏のバッハは、ずっと耳を澄まして聴けるのです。曲によっては、和琴の響きかと幻聴してしまうのは、日本人奏者という思い込みがあるからでしょうか・・。

youtube では、残念ながら、鈴木氏の「平均律」演奏の投稿が発見できませんでした。その代わり、御子息の鈴木雅人さんによるバッハ「ゴールドベルグ変奏曲」演奏の動画を紹介しておきます;

https://www.youtube.com/watch?v=-E718s3L6i0

( 音楽の嗜好は人それぞれです、・・この曲を聴くと、記憶喪失の迷路に迷い込んだように錯覚するので聴いていて気持ちが悪い、とまで不快感をはっきり訴える人が、私の知人にいます。)


次の聴き比べ曲は「インヴェンションとシンフォニア」

大曲である「平均律」の大宇宙とは違って、「インベンションとシンフォニア」は、学習者用の小品がちりばめられている小宇宙のような曲集。演奏時間はどれも1~2分ほどで、親しみやすい曲調と軽やかなテンポにあふれている曲が多いです。

アンドラーシュ・シフ  
András Schiff  ハンガリー
流麗かつ繊細なタッチでとても聴きやすく飽きない演奏です。この練習曲の響きや律動の美しさを引き出してくれています。

Youtube :  彼の「インベンション第1番」の何と柔らかく軽やかな美しさ!

https://www.youtube.com/watch?v=PumHWfIbpO8


ところが
別の曲第13番」を、グレン・グルードの演奏と聞き比べると、グルードのあまりの速さに驚きます!

まず、シフによる「第13番」、 演奏時間は1分13秒;

youtube: https://www.youtube.com/watch?v=NJ8b-l1MfhA

次に、グールドの「第13番」、演奏時間はわずか44秒;( 72万回再生!)

Youtube :  https://www.youtube.com/watch?v=LgMkkR1iFYw

ちなみに、9歳のオランダ人少女が、この13番をチェンバロで演奏する動画を偶然に見つけたので、紹介しておきます;( 25万回再生!)

youtube :  演奏時間1分27秒

https://www.youtube.com/watch?v=ttwo-QYqDNo

( 日本なら、曲目はショパンになるのでしょうか・・・)

高橋悠治  日本
斬新なピアニストかつ前衛的な作曲家。バッハに関しては、グールド的なアプローチの演奏に聞こえます。シフなら何度聴いても快楽があるのですが、
高橋氏のバッハにはそれはありません。要するに、バッハに求めるもの、バッハを通して聴きたいものが違うのでしょう。

( 肝心の演奏サンプルですが、youtube では発見できず、タワーレコード Tower Record の通販サイトでなら全曲試聴ができます )

最後に。

忘れてはいけないピアニストがいました!

JAZZのピアニスト、ジョン・ルイス John Lewis です。

彼が弾いた「バッハ平均律」のアルバム・シリーズは、原曲の構造や性格を大事にしつつ、ジャズのフィーリングと即興性をどう織り込んでゆくかを試した労作です。車で長距離ドライブしているときの気分転換には最適の音楽で、私のお気に入り必聴盤です。

平均律グラヴィア第2巻の第8番フーガをサンプル紹介します:演奏時間9分ほどで、3分過ぎたぐらいからジャズの軽妙なアドリブ展開になります;

https://www.youtube.com/watch?v=HQs4d9umjtk