ホークラックスの在処

私はTwitterをやっているが、リアルタイムでの呟きはあまりしないようにしている。
出産や退職などの大きな出来事は、数日、あるいは数ヶ月間下書きに寝かせ、内容によってはフェイクを混ぜて投下する。
身バレ防止策としてやっているが、不十分だと思っている。
性別と家族構成、住んでいる都道府県名が分かるツイートはしているし
その他普段のツイートの趣味や持ち物、文章のクセ等を照らし合わせれば
実際の私のことをある程度知る人は、私が私だと十分に気付けるからだ。

とは言え私はこの先も、リアルタイムな呟きは控えるし、適度なフェイクも入れて呟く。
身バレ防止の為に始めた不揃いな表現で文章を書くことに面白さを感じているからだ。
例えば兄弟のことを呟く時、何人兄弟なのかをぼやけさせる為の『妹』『一番年の近い妹』『兄弟の内の一人』『肉親』『末の兄弟』『兄弟』『親族』等。

とにかく、『匿名だから』『フェイク入れてるから』『鍵垢だから』バレることはない、という認識は間違っている。
絶対に身バレしない為には、現実で誰かと共有した言葉や出来事、思想さえ、SNS上で一切書かない必要がある。
しかし、そんなことは可能だろうか。

ハリー・ポッターシリーズを読んだことがある人は、ホークラックスをご存知だと思う。
物語の進行に重要なアイテムだ。
作中では、敵の親玉がつくった複数のホークラックスを探す過程が描かれた。
形も保管場所も異なるいくつものホークラックスを探す為、ハリー陣営が取った方法は緻密な情報収集だ。
暮らした場所、昔の勤め先…様々な場所を巡り、情報を拾い集め繋ぎ合わせて推量する。
特定に繋がるとはとても思えない極々些細な情報から、ホークラックスの在処は判明してゆく。

私は以前、Twitter上で元同僚を見つけてしまったことがある。
「ひょっとしてあの人じゃ…?」と思ったきっかけは居住地や生年月日ではない。
趣味に関するディープな呟きだった。
次に、趣味とは別の日常的な呟き。
「今日遅番のはずが勤務変更で早番になった」「昨日スマホ買い換えた」
のような、本当にささやかな出来事の呟き。
けれどそれは、現実のその人に起こった出来事と一致した。
この2つのツイートが頭の中でを組み合わさった後、居住地や生年月日に関するプロフィール文を見、「間違いない」と確信を得たのである。

そして私自身も過去2回、インターネット上で特定されたことがある。
1度目はmixiで。公開設定は『友人まで』にしていたし、詳細なプロフィールは書いていないから、知られたくない人に知られることはないとたかをくくっていた。
が、開始間もなく「これはあんりじゃないか?」と、気付かれたくない人に気付かれてしまった。
怪しまれたきっかけは、共通のマイミク、プロフィール文の雰囲気、参加していたコミュニティが私の好きなものばかりだったこと。
その時は共通のマイミクが誤魔化してくれたのだが、何日も経たない内に妹のmixiプロフィールから私のアカウントだと断定されてしまった。
妹は出身校や生年月日を事細かに年表形式で書いていただけにとどまらず『マイミクのあんりは姉』と分かる記述をしていたのだ。
「お姉ちゃんの元カレからメッセージきた!お前あんりの妹やろ?って!ごめん!怖い、どうしよう!」
妹からの連絡に私は絶句した。
誰よりも、ストーカー気質なこの元カレにバレたくないが故に公開を制限していたのだ。
全てが無駄になったと知ったあの時の私の落胆と怒りと恐怖はとても書き表せない。
私が肉親や現実の友人にTwitterアカウントを教えていないのは、この経験があるからだ。

2回目は、失恋の経験談を2ちゃんねるに投下した時。
家族構成も仕事もエピソードそのものも、山ほどのフェイクを混ぜ込んでいた。
それなのに親しい友人から「これ書いたのあんりでしょ?」と、まとめブログのURLが送られてきたのだ。
これは驚きを通り越してある意味恐怖だった。
何故私だと分かったのか?理由を聞くと、文章構成が主な理由だった。
改行の仕方や句読点の使い方、好んで使う表現。
それに、どんなにフェイクを入れても、出来事の決定的な部分や、信念は誤魔化せない。
それで分かったのだ、と。

人命を奪ってつくられるホークラックスと、インターネット上の書き込み。
同等に並べるのは滑稽と感じるかも知れない。
だけど私には重なって見えた。
厳重に隠していても些細なきっかけから見つけられてしまうからではなく
どちらにも魂が宿っているから。

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