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編集者って知ってます?Vol 1,株式会社ツドイ:今井雄紀

書店に行けば所狭しと並んでいる無数の本たち。

フィクションからノンフィクション、単行本から文庫まで様々なジャンルやフォーマットが存在する。

本が成立する上で、欠かすことのできない人は?と問われたらあなたはなんと答えるだろう。

まず最初に挙がるのは間違いなく作家だと思う。本を書くことを、専業・兼業は置いておいて職業としている人。

本というものを前にしたときに、

作家は間違いなく主役であり欠かすことのできない存在だ。

しかし、

作家と同じレベルで不可欠であり、

にもかかわらずスポットが当たることが少ない人々。

編集者。

これまで本を読んでいて、この編集者という存在を意識したことはあるだろうか?
彼らが何を考え、

どんな風に仕事をしているのかということを知らない読み手もたくさんいるであろうと思う。

私は昔から

この編集者という存在に注目していた。

それは作家と違い、

彼らの生の声が表に出てくることが極端に少ないからだと思う。

実際の業務フローはどうなっているのか?

企画はいつ考えているのか?

出版の未来を彼らはどう思っているのか?

そんな諸々の疑問を明らかにするために、

彼らに話を聞き

その仕事の一端を少しでも明らかにするための記事を書き始めたいと思う。

記念すべき第一回目は株式会社ツドイの今井雄紀さん。

ツドイは、「編集とイベント」を中核事業とする企画集団であり

2017年に今井さんが代表取締役として設立した会社である。

元々は星海社で書籍の編集をしていた今井さんが

なぜ編集とイベントの会社を立ち上げたのか?

彼が考える編集者の役割とは?

これから時代の編集者の形を進む彼に、話を聞いた。

書籍編集者の世界で自分は一番になれないと感じた


− 株式会社ツドイは「編集とイベント」を中核事業とする企画集団ということですが、具体的にどんな業務をされているんですか?

今井:大きくは二つあって、一つはメディアで情報発信をする際の編集業務。あとはイベントの企画、プロデュースからそのイベントの事後レポートの編集。

ざっくりいうとこの二つが現在の業務内容ですね。なので、今は受注での業務が大半を占めています。

− 元々、星海社で編集者のお仕事をされていた今井さんが、どうしてツドイを立ち上げることを決めたんですか?

今井:きっかけはとてもシンプルで、契約が切れるタイミングだったんですよ。

前にいた会社は少し特殊で、所属している編集者はすべて業務委託契約。なので正式に会社に属している編集者が存在しないという形なんですね。

契約が切れるタイミングで、ありがたいことに会社からは更新をしたいと言ってもらったんですが、ちょっとどうしようかなと考えまして。

というのも、その時僕は色々な理由から書籍編集者の世界で自分は一番になれないなと感じていたんです。

その時に、このままこの業界でやっていくことが果たして正しいのか?という思いがあって。

後は昔から思っていることなんですが、人は向いていることをやるべきだと僕は思ってるんですね。

小学生の時から12年間、野球をやっていたんですが、全然上手くならなかったんですよ。本当に、笑っちゃうくらい。そのときに、人には向き不向きがあるんだなということを実感しました。

じゃあ自分には何が向いているんだろうと考えたときに、何故か僕は人から経営者に向いているね、と言われることが多かったんです。

それも一回や二回とかではなかったので、これは客観的に見て本当にそうなんだろうと。

なのでどこかのタイミングで経営者にはなってみたいという思いがあって。契約が切れるこのタイミングはちょうど良いなということで、会社をやることに決めました。

編集者の役割は今でも模索中。明日には違うことを言っているかも


− なるほど。そのときに、編集だけでなくイベントを中核事業とすることに決めたのはどんな理由なんですか?

今井:今の時代、イベントって無数にあるじゃないですか。その無数にあるイベントの中には、がっかりする内容の物も沢山ある気がして。本の内容をなぞるだけみたいな。後は基本的に来た人しか楽しめない形式が多いイベントが大半だと思うんですけど、テキストとして残すべきものもある、という確信があって。

そこに編集者としての自分がやれる領域が、沢山あるなと感じたのが大きかったですね。人と人の組み合わせであったり、時代性との組み合わせに、勝ち目があるなと思ったんです。

− 今井さんのお話を聞いていると、「紙の本を編集する人」というこれまでの編集者の概念が、変わっていくんだろうなということを強く感じます。ご自身では編集者というものをどのように定義しているんですか?

今井:編集者って、とても曖昧な言葉だと思うです。それこそデザイナーとかと同じくらい。建築デザイナーも、プロダクトデザイナーも、ファッションデザイナーも違うのと同じように編集者にも、たくさん種類があります。

だから扱うものによって全然違いますし、ぼくの考え方も、まだまだ未熟なのでころころ変わるのですが、現状の整理としては、良いコンテンツの基準を作って、それを超えないものを切り捨てて、そうしてできあがったもののを広める。このためならなんでもすることが編集者の仕事かなと思います。でも、明日は違うことを言ってるかも。

自分の感覚と世の中の評価のずれを確かめる


− 今井さんは昔から編集者になりたいと思われていましたか?

今井:いや、それが全く。編集者の仕事内容も全然分からなかったですね。
特にノンフィクションの編集者がどんなことをしているかは、仕事を始めるまで知らない状態でした。ドラマや映画に出てくる編集者は大抵小説とかマンガとか、フィクションを扱っていることが多いので。

本自体も、同世代の他の人よりはまあ読んでいた方かと思うんですが、周りの編集者と比べると全然ですね。

実は昔はテレビの仕事がしたかったんですよ。『ケイゾク』というドラマが大好きで、音楽であるとかカメラワークに衝撃を受けました。

で、エンドロールを見ているとこれはどうやら堤幸彦という人が演出をしているらしい。というか演出という仕事がそもそもあるのかと。

なので将来はモノづくりに関わる仕事をしよう。テレビの仕事をしようと思っていました。

− 現在とは違う方向性で考えられていたんですね

今井:テレビの仕事を断念したのは大学生になってから。メディアの勉強がしたくて大学でもそういう講義をとっていたんですが、元テレビマンの方の授業があって。

その時に、テレビの仕事がいかに寝れないか。ということを聞かされて。あれ、自分ってそんな不健康な生活を我慢できるほど、テレビが好きなんだっけ?という疑問が起こって結局その方向は断念しましたね。

− では編集者にはどういったきっかけでなられたんですか?

今井:新卒で入った会社の4年目のときに、たまたま編集者の人を紹介してもらうことがあって、その人に誘ってもらったことがきっかけですね。

− 元々編集の仕事を考えていなかったことで、なにか苦労はあったりしましたか?

今井:苦労というか、呆れらることが結構ありましたね。みんなが読んでいるような本を僕だけ読んでいないとか。

一年目はそれでもまだ良かったんですけど、徐々に年次を重ねるにつれて結構しんどいなと。なので著者から薦められた作品を徹夜してでも読んで、次回の打ち合わせで感想を伝えたりしてました。編集者は誰でもやってることですが、ぼくはそもそもの読書量が足りなくて、そういう意味では苦労しました。今もしてます。

− 情報のインプットは大切ですよね。今でも意識してインプットしていることってありますか?

今井:流行しているものは当然チェックするようにしています。これは自分の中にストックするためと、時代の空気を感じるために欠かせないなと。前職時代に言われた、行列があったらそこに何があるかを確かめにいけ。ということも、それにつながっていると思っているので今も守っていますね。

あとは自分の感覚と世の中の評価のずれを確かめるようにしています。

具体的には例えば映画の予告編を見て自分が面白いと思ったものは、周りの評判が出てくる前に見に行くようにしたり。

自転車で都内を走っていて見つけた良さそうなお店に入って、あとから食べログで評価を見たり。

一人の人間の企画から、世の中にうねりを生み出していきたい

− 今後、こんな仕事をやりたいといった目論見はありますか?

今井:自社イベントをやりたいです。

おかげさまで、今は色々な方から沢山お仕事を頂けている状況です。

でも、これからは自分たちが面白いと思ったアイデアを試していくようなことをやっていきたい。元々、モノづくりの仕事がしたいという思いがあったと先ほどお話しましたが、一人の人間の企画やアイデアからうねりだったり、新しい言葉だったり、そういったものを生み出していくことに憧れがあります。

それも、その存在が表に出ていないと尚良い。こんなに面白いものを、密かに企画した人間が存在している。それってなんか素敵だなと。

− 編集者という仕事の概念がどんどん拡張していきますね。今井さんが考えるこれらかの編集者とは、どんな存在ですか?

今井:そういった質問を時々されることもあるんですが、実は僕、あまりそこに興味がないんですよね。求められることに応えていくだけというか。

その時代に求められる形に、自分は合わせていくだけだという思いです。その上で、自分のアイデアを世の中に問うていく。そんな仕事を、これからもしていきたいと思っています。

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