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会社の移転に伴い住宅手当の基準を様々な角度から検討した話

はじめに

こんにちは、JX通信社で人事を担当していますカワイです。
先日、JX通信社は本社ビルを移転しました。その際、住宅手当の支給基準を変更する必要に迫られたので、検討の経緯や結果を残しておこうと思います。制度検討の考え方やプロセスがわかるようにしたので、参考にしていただければ嬉しいです。時間が無いよという方は以下の要点だけご確認ください。

- JX通信社では、会社から3km圏内に住むと毎月3万円支給されます
- 会社の制度をチューニングするときは制度の背景にあるメッセージを意識しよう
- JX通信社の住宅手当のメッセージは「通勤にかかる無駄を省いてパフォーマンスを向上につなげてほしい」

引っ越し前の支給基準


2020年1月まで、私たちのオフィスは飯田橋にありました。場所はこちらです。


誰がどう通おうが、問答無用で最寄り駅は飯田橋駅でした。そのため、住宅手当は以下の基準で支払われていました。

飯田橋から3駅までを最寄り駅とすると月3万円の住宅手当を支給

大江戸線でも東西線でもJRでも、飯田橋から3駅以内が最寄り駅であれば支給対象になっていたんですね。

引っ越したら支給基準に問題が発生

しかし、オフィスを移転するにあたって問題が。新しいオフィスはこちらの一ツ橋ビルです。


なんと、神保町・九段下・竹橋のトライアングルに囲まれたところ。従来の制度を踏襲すると3駅分定義する必要が出てきてしまいます。さらなる問題は、「竹橋→(東西線で1駅)→大手町→(徒歩)→東京→(新幹線で2駅)→新横浜」というハック手段の存在。同じ理論で大宮駅も対象となってしまいます。

千代田区のすぐとなりの文京区に位置する千石駅(神保町から三田線で4駅)は手当の対象にならないのに、大宮駅を対象とすることは問題ないのか…?悩みはつきません。


そもそも住宅手当の目的って?


そんなときは、制度の思想に立ち返ることが大事です。

そもそも住宅手当とは何でしょうか。一般的には、「企業が従業員に住宅費用を補助する福利厚生」と説明されていることが多いようですが、JX通信社の住宅手当は支給基準を「会社から3駅圏内」と限定しています。JX通信社ならではの意図・背景はどんなところにあるのでしょうか。

社内を探していたら、こんな説明資料を見つけました。

「朝から満員電車に乗るのはやめよう」
「会社近隣に居住する場合は3万円までの手当がつきます。満員電車通勤を防ぎ、気持ちよく仕事を始められます。半分近くの社員が利用する制度です」

住宅手当を支払うので会社の近くに住み、通勤にかかる無駄を省いてパフォーマンスを向上させてほしい、という会社からのメッセージが明確に打ち出されています。

このメッセージは、会社によって様々に設計することができます。住宅手当ひとつをとっても、例えば30歳までの社員にだけ支払うのであれば「若い内はお給料少ないから住宅手当で家賃の足しにしてほしい」というメッセージが込められているかもしれません。持ち家のローンを組んだ場合に支払われるのであれば「ローン大変だね。これからも頑張ってほしいから〜」でしょうか。転勤した最初の数年間のみ支払われるケースであれば「転勤が多くて大変だけど、住宅手当を支払うので我慢してください」と想像することができます。

それぞれの会社で「従業員にどうあってほしいのか」を手当の種類や金額で伝えることができるのが、制度の面白さですね。

方向性が決まった…!


メッセージさえしっかりしていれば、それに沿って具体化することを検討していきます。今回は「パフォーマンス向上」という目的に沿って、「通勤の無駄」や「近さ」という点を意識して制度を設計していけば良さそうです。

これまでの「◯◯駅から3駅」という基準だと、「会社近隣」という部分が怪しくなってくることは前述の通り。新幹線は認めないなどの制限を盛り込めばいけるかもしれませんが、シンプルでは無くなってしまうので考えないことにします。

さて「通勤の無駄」という観点だと、「通勤時間」に焦点を当てることが考えられそうです。「近さ」だと、単純に「会社からの距離」でしょうか。それぞれ検証してみましょう。


通勤時間による検証


まず、通勤時間を基準にする方向で考えてみましょう。例えばですが、毎朝片道2時間電車で立ちっぱなしだったら、会社についてもちょっと朝からやる気が出ない気がします。ではドアtoドアで1時間だとどうでしょう。これまでの私のサラリーマン人生でもそれくらいの距離だったこともありましたが、二日酔いの日はかなりキツいです。そう考えていくと、ドアtoドアで20-30分くらいだと良さそうな気がしてきます。

と、ここまで完全に主観で書きましたが、あるスイスの研究者は「幸せだと感じる通勤時間は20分」とおっしゃっています。また、通勤時間が短いほど通勤ストレスは減少し、通勤ストレスが少ないほど満足度が高い、という調査結果もあるようです。

方向性としては概ね筋が良さそうですので、Google Mapsで色んな場所から会社までの時間を調べてみました。リンクを埋め込んでいるので皆さんもご自宅からJX通信社までの通勤経路を確認してみてください。色んな条件で検索していると、ひとつのことが判明しました。

ドアtoドア20分で通える地域が思ったより狭い&30分だとめっちゃ広い

検証の結果、ドアtoドア20分とすると、これまで通勤手当が支給されていた以下のような地域の方が軒並み対象外になってしまうことが判明しました。これでは制度がただ改悪されたと受け止められ、大事な面接の際、私の座席にブーブークッションを仕込まれる恐れがあります。

【20分までにすると許されない地域】
 江戸川橋駅 徒歩5分(文京区)
 若松河田駅 徒歩5分(新宿区)
 秋葉原駅 徒歩10分(台東区)

そして30分としてしまうと「駅から近ければ会社から距離あってもセーフ」という別の問題が出てきている気配を感じます。さすがに青物横丁だと「会社近隣に居住する〜」という説明には無理がある気がします。

【30分だと許されてしまう地域】
 志村坂上駅 徒歩4分(板橋区)
 桜上水駅 徒歩0分(世田谷区)
 船堀駅 徒歩5分(江戸川区)
 青物横丁駅 徒歩0分(品川区)

脳裏には25分にする案がよぎります。ただ、自宅から最寄り駅までの距離がかなり影響するので不公平感が出そうな気配が漂っています。「Google Maps上は26分だけど、毎朝早歩きしてるから25分なので住宅手当ください!」という申し出があったら気弱な私はOKしてしまいそうです。

通勤時間がパフォーマンスや従業員の幸福度に関連するという結果があるのであれば、通勤時間をフックに規定する案は科学的でかなり良さそうに見えましたが、上記の理由により断念することにしました。

距離による検証

気を取り直して「距離」に焦点を当てましょう。こちらはだいぶシンプルです。「飲みすぎて終電を逃しても歩ける距離」を想像すると、私は3kmが限界です。徒歩40分程度の距離でしょうか。おそらくタクシーを使うと思いますが、それでも3kmであれば大した痛手ではありません。

2km案、2.5km案、3km案で色々シミュレーションしてみます。

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2km圏内:皇居と丸の内オフィス群でほぼ半分…住むイメージが湧く地域といったら、本郷と湯島周辺くらい

2.5km圏内:2kmに毛が生えた程度。神楽坂から江戸川橋の東にかけては増えてよかった。馬喰町から御徒町までの区間も評価したい

3km圏内:根津、白山、牛込付近が入ってだいぶ心強さが増した。銀座には住めなさそうだけど、水天宮と茅場町は気になる地域

このように増やしていくと際限なくなってしまうのでやはり3kmが潮時でしょうか。「会社近隣」というにも3kmであれば説明はつきそうです。3km圏内であればどの地域からも、会社までは30分以内で着くようなので、「通勤時間が短いことによるパフォーマンス向上」という前提の目的を阻害することもないと考えられます。これまでと違い、路線を選ばずに住む地域を選べるというのも、メリットかもしれません。

というわけで、住宅手当の支給基準を「飯田橋から3駅の駅を最寄りとする」から「会社所在地から3km圏内に住む」に変更することにしました。

導入のその後

実際に導入してみてから3ヶ月ほど経過しました。良かったことや反省点を残して置こうと思います。

良かったこと:制度を利用してくれる方が、25%→35%に増えました。通勤時間を短縮し、一人ひとりの生産性や働きやすさが少しでもあがれば嬉しいです。「以前に比べると路線に縛られずに選択肢が広がってよかった」という声もあがっています。

反省点・次に活かしたいこと:実は制度導入直後に、「物件を契約直前だけど3km圏から50m外れている…」と社内で相談を受けました。制度は公平に運用することがとても大事なので、泣く泣く住宅手当の対象とはならないことをお伝えしました(その方はその後、3km圏内の別の物件を無事に見つけられました)。例えば三田線の千石駅はオフィスから3km圏外ですが、電車だと神保町駅まで7分でついてしまうので、通勤の無駄はあまり無いはずです。制度上の反省点としては、「距離と時間の合わせ技」があり得たような気もしていて、それが検証できていない点でしょうか。次に考える際は、そこも考慮して「だれが見ても合理的」な制度にできるいいなと思っています。

まとめ


これまでJX通信社が会社の移転に伴って住宅手当の支給基準を見直した話をさせていただきました。

制度をチューニングする際には、その背景にあるメッセージを理解し、想像力を働かせながらシミュレーションを繰り返し、目的からぶれないように設計することが大切だと改めて感じるきっかけにもなりました。今後制度をイチから作ることがあれば「何をメッセージとして伝えたいのか」から考える必要がありそうですね。

JX通信社では、これからも色んな制度が作られていくはずですが、会社から一方的に「この制度を作ります」とするよりも、一人ひとりの「こんな制度あったらいいな」というアイデアを膨らませて作っていけたらと考えています。そんな弊社にご興味をお持ちいただけましたら、ご連絡をお待ちしております。


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