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あの頃のMMOで出会った友人について

 最近「LOST ARK(ロストアーク)」というMMOを始めた。いわゆる"ネトゲ"をやり始めたのは久しぶりのことで、まだ見ぬダンジョンやコンテンツを前に毎日わくわくしながらプレイしている。が、今回はロストアークのプレイ記事とかではなく、ふと昔の思い出について書きたくなったので、心のもやもやを晴らすためにも書いてみようと思う。

 MMOをプレイしていると、いつも起こる現象がある。
 ダンジョンのボスを倒したとき、レアな装備を手に入れたとき、フィールドに沸いた巨大なボスを各地から終結したユーザーと一緒に討伐したとき。そんな楽しい感情が沸き上がる瞬間の折々で、昔もこんなことあったなあと思い出しては、ちょっとだけ寂しい気分になることがある。

 それにはたぶん、昔一緒に遊んだネトゲ上のともだちが関係している。
 最初の出会いは「某ペラペラキャラのFPS」で、同じクランの仲間として遊んでいた。ある日、クラン内で内部分裂が起き──なぜかは覚えていない──メンバーがばらばらに散る中、彼とだけはその後も一緒に遊んでいた。

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体の側面(ペラペラ)で、弾丸を避けるプレイングもできる。基本フルバ。


 当時のHN(ハンドルネーム)に由来して、彼の名前をK君とする。
 K君は大学生で、自分はその当時、不登校気味の中学生だった。K君には実際の年齢を隠して遊んでいた。先述のゲームのクランが社会人ばかりで、学校もろくにいかずゲームばかりしている中学生です、と言うのが恥ずかしくて19歳の社会人と偽っていた。VCの導入が当たり前の時代でも無かったので、バレることはなかった。K君は自分のことを同い年の青年であると、この時点ではまだ信じていたのだろう、「お前とは気が合う」と言ってくれていたし、実際毎日のチャットでのバカなコントも絶好調で、ゲームの中で彼に会えることを楽しみにしていた。

 一年のほとんどをK君と遊んでいたことを覚えている。もちろんそれはネット上の話で、実際に顔を合わせて遊ぶなんてことは、別れのときまで一度も無かった。

 仲を深める内に「Skype」で話してみようという運びになる。「おまえ結構声高いんだな」と言われ、冷や汗をかいたことを覚えている。
 今度はお互いの顔ぐらいそろそろ知ってもいいんじゃないか?と提案され、さすがに当時15歳そこらの幼い顔では実年齢が確実にバレると思い、いろいろとイチャもんをつけて、どうしても恥ずかしいからという理由で「口元を手で隠した顔の写メ」を送り付けた。「おまえ、ミクシィにいる奴みたいな撮り方するな(大体こんなニュアンス)」とツッコまれる。

(K君はオタク知識もあったしノリがバカで、毎日下ネタを言い散らかすくせに、意外にもイケイケのくるくる茶髪パーマだったので驚いた)

 そんな危うい瞬間がありつつも、より打ち解けたことで、関係は良好だった。ネトゲは相変わらず一緒にプレイしていたし、「ねとらじ」という素人のラジオ配信などにも挑戦してみた(結果はお察しなので書き控える)。ネットでできることは大体共にしたと思う。その都度、中学生の浅はかな思慮によって、ぽろぽろとボロを出すような場面が幾つもあった。
 社会人であることを取り繕うのに、苦労していたのをよく覚えている。

 そして、今になってそうであると感じるが、恐らくK君は"こいつは19歳の同い年の青年ではなく、もっと若い学生か何かだろう"というのは、どこかで既に気づいていたと思う。そのことには触れず、相も変わらず仲良くやっいていたのは、K君の人柄によるところが大きかった。

 さっぱりとしたK君の性格に、日に日に罪悪感が積み重なっていくのを感じた。その頃はもう「ネットで知り合った友達」の域を超えて、本当に気心の知れた存在になっていただけに、嘘をつきながら接するのが本当に辛くなっていた。K君が日常の愚痴や、些細な悩み相談を持ちかけてくれるようになったときなどは、ぜんぶ打ち明けて謝りたいという気持ちが芽生えた。
 結局、その瞬間が訪れることはなかった。

 MMOで体験する楽しい瞬間を初めて共有できた人間は、紛れもなくK君だ。ダンジョンのボスを倒したとき、レアな装備を手に入れたとき、深夜までだらだらと会話をして、眠くなり、また明日と交わしたとき。
 今でもMMOや他のゲームをプレイする際、ふとした瞬間に思い出して寂しい気持ちになるのは、あの日々が、今でも自分の中で特別な記憶として残っているからに違いない。

 結果として、自分はK君の前から徐々に姿を消していくことにした。
 進路のこともあり、いい加減不登校児も辞めて、MMO漬けの生活を解消しなければならなかった。
 ただそれは後付けの理由のようなもので、本当のところはK君に今までの嘘がバレて、最悪の状態に陥ることが怖かったからだ。
 中学生の自分は、せめて良好な関係のまま居なくなろうと計画した。最近仕事が忙しくて大変だとか、PCの調子が悪いとか、そんな拙い嘘をついて徐々にネットの世界からフェードアウトしていった。色々とうやむやにして結局ひどい有様だったと思う。25歳になってからの今の方が、当時よりもずっと後悔している。打ち明ければたぶん、「なんだそんなことか」とK君なら軽く笑い飛ばして許してくれたと思う。最期の方は、どんな風に接していたのかすら分からない。
 すごく苦い思い出なので、忘れるようにした。

 今更、K君のことをなんとか探し出し、当時の自分のことをすべて話して、謝りたいとかそういう気持ちはほとんど無い。後悔はあるけど、あれから10年は経っているし、この場につらつらと書き記して、それで終わり。K君にこの記事を見つけてほしいという気持ちはほんの少しだけある……かなり恥ずかしいけど、笑。

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 MMOは今でも好きだ。K君との思い出があるお陰で、ゲームが楽しくてしょうがない瞬間がある。街中で妙なエモートをしてふざけている人を見たとき、なぜか放っておけない気持ちになるのは、恐らく、当時のような体験を再び期待しているせいだ。その記憶が忘れられないから、たまにMMOをやりたくなってしまうのかもしれない。

 自分は新しいMMOをプレイするとき、K君のようなプレイヤーと出会えたらと、いつも思っている。MMOで初めて出会った友人は、それぐらい最高の友人だった。

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