[全曲解説] Young Thug 『So Much Fun』編
皆さんこんにちは。先日、遂にYoung Thugのニューアルバム『So Much Fun』が発表されましたね。このアルバム、J. Coleが監修を務めていたり、実は彼Young Thugにとってのデビューアルバムであったりと、以前から非常に注目を浴びていました。僕自身も、Young Thugの大ファンの一人としてこの時を待ちわびていたので、無事アルバムがリリースされて大変嬉しく思っています。そこで今回は、アルバム『So Much Fun』に収録されている全19曲を簡単に解説していこうと思います。なおリリックの和訳につきましては、個人的な見解での意訳となっておりますので、そこのところご理解いただき読んでいただければ幸いです。それでは早速いってみましょう。
(※この記事はアルバムリリース三日後の8月19日に書きました。追加の情報入りましたら随時更新していく予定です。)
1. Just How It Is
今日のトラップシーンにおいて最もホットなプロデューサーの一人であるWheezyと、XXX TENTACIONやJuice Wrldへの楽曲提供で知られるNick Miraプロデュースによるイントロ曲。
Thugはこの曲で、タイトルにもあるように、自らのスターとしてのライフスタイルをありのままにラップしています。
Had to wear the dress ‘cause I had a stick
俺はAK-47を隠し持つ為にドレスを着なければならないんだ
これは2016年にリリースされた彼のアルバム「JEFFERY」のアートワークについての言及です。
着物のようなロングドレスを身にまとうYoung Thug(『JEFFERY』2016)
このことについては先月のNo Jumperによるインタビューでも触れられていましたので、気になる方は是非。
またこの曲では、彼の友人であった故Nipsey Hussleへの追悼の意も捧げられています。彼がInstagramでプレビューしていたNipseyへの追悼曲も早くリリースしてほしいですね。
2. Sup Mate (feat. Future)
FutureのレーベルFreebandzに所属するATL Jacobと、808 MafiaのDY Krazyプロデュースによる一曲。
タイトルの“Sup Mate”とは、友人への挨拶に使われるイギリスの方言です(ちなみにFutureはイントロをイギリス英語の発音で歌っており、イギリス文化への敬意を表しています)。古くからの仲（ビーフなどもありましたが）で知られるFutureとThug。”SUPER SLIMEY 2″のリリースも近いということで、スタジオジャンキーとして知られる彼らのことですから、毎日朝から晩まで曲を作りまくっているのでしょう。この曲では、交互に繰り出される二人の多彩なフロウとアドリブを存分に楽しむことができます。
[Future]
What’s up, mate? Got cake, mate (Yeah, Yeah)
何してんだ、金を稼ぐぞ
Got Cheese, mate, got bread, mate (Woo)
金を稼いで金を稼ぐんだ
※ここでのcake, cheese, breadは、全て金を表すスラング。ここでもFutureは、ケーキやチーズ、パンというワードを用い、イギリスの風習である”ティータイム”を表現しています。
[Young Thug]
It’s up, mate, I buck, mate (Yeah, yeah)
話は終わりだ、俺は断るぜ
I bleed, mate, he bled, mate (Woo, yeah, yeah)
出血してるんだ、俺もあいつも
FutureとThugの掛け合いは聴いていて楽しいですよね。
3. Ecstasy (feat. Machine Gun Kelly)
DY Krazyと、Chief KeefのGBE(Glory Boyz Entertainment)に所属する12 Hunnaプロデュースによる一曲。
タイトルからも分かるように、ドラッグについての曲です。Thugは、molly (MDMA)やweed、codeine、percocetsなどのドラッグについて言及しています。
※アルバムリリースから約一週間後、Machine Gun Kellyのバースが追加されました。
[Young Thug]
Molly, Roxies
MDMAにオキシコドン
Oxycontin (Yeah)
オキシコンチン
Jubilee, Ostrich (Uh-uh)
そして祝祭とダチョウ
Ten a key, we need thousands (Okay)
１キロあたり１万ドル(格安)で売ってくれ、数千キロ(のコカインが)必要なんだ
いくらYoung Thugがカッコよくて憧れても、薬物乱用はダメ。ゼッタイ。
4. Hot (feat. Gunna)
Wheezyプロデュースによる一曲。トランペットを基調としたトラップビートは、ミニマルながらも壮大さを感じさせ、さすがWheezyって感じです。
この曲でThugは、自身のレーベルYSL(Young Stoner Life) Recordsに所属するラッパーGunnaとともに、高級車や高級時計、ラグジュアリーブランドなどの名前を交えながら、彼らが勝ち取ったライフスタイルについてラップしています。
[Young Thug]
Yeah, Cartier eyes
カルティエの眼鏡
Cartier coat, Cartiers the watch
カルティエのコート、カルティエの時計
Cartier love, Cartier the thot
愛するカルティエ、まるでビッチ
Cartier spread, buffalo on the side
股を開くカルティエ、隣にはバッファロー
Princess cut diamonds, they Cartier, yeah
プリンセスカットのダイアモンド、もちろんカルティエ
Cartier bag for the Cartier thot
カルティエビッチのためのカルティエのバッグ
Sky Wrangler coupe with two hundred the dash
200のメーターがついたラングラーに乗る
Cartier jeans, ain’t no way I can sag
カルティエのジーンズ、ああ最高だぜ
はい、とにかくカルティエ愛が強いThugのバースでした。
5. Light It Up
Playboi CartiやYoung Nudyとのコラボで知られる、アトランタ出身のラッパー兼プロデューサー、Pi’erre Bourneプロデュースによる一曲。最近のトラップをチェックしていてPi’erreを知らないという方はいないと思いますが、浮遊感のあるシンセ使いと重いベースラインを特徴とした、Wheezyに並ぶホットなプロデューサーの一人です。この曲は、YSL Recordsの一員であるLil Dukeの誕生日に、ThugがInstagramでプレビューしていたのですが、初めて聴いた瞬間からPi’erreプロデュースだと分かるほど、彼の特徴がよく出たビートです。
車で爆音で流しているから低音が割れているのかと思っていたのですが、そもそも実際の音源が割れていました。低音というよりもはや振動。さすがPi’erre(?)。
タイトルの”Light It Up”は、輝くジュエリーを身にまとうことや、敵に発砲することを意味しています。
Damn, I can’t do nothin’ with Jeezy
Jeezyとは協力できない
ラッパーとしてのYoung Thugの生みの親であるGucci Maneと長年ビーフ関係にあるJeezyとは協力できないと断言することによって、ThugはGucciへの忠誠を誓っています。
I was one of the ones with Obama ‘nem
俺はオバマのお気に入りの一人なんだ
Thugは、オバマ前大統領の「My favorite songs of 2017」に、彼が客演として参加したCamila Cabelloの「Havana」が選ばれていたことについても言及しています。
6. Surf (feat. Gunna)
こちらもPi’erre Bourneプロデュース。この曲もInstagram liveでプレビューされていましたね。スニペットを聴きまくっていたのは僕だけじゃないはずです。
ThugとGunnaは、ラップゲームにおける彼らの立ち位置や、彼らが起こした波に乗ろうとする他のラッパーについてラップしています。
[Gunna]
They tryna ride the wave, nine times out of ten, these ni**as gon’ drown (Drown)
俺らの波に乗ろうとしてくるやつのほとんどが溺れていく
以前のThugのInstagram liveでの発言が、この曲を要約するのにちょうどいいので引用したいと思います。
I’m the drip god. I created this shit.
俺はドリップゴッドだ 俺が創ったんだ
I made the way for young ni**as to open up and be they self. I did this.
若いラッパーたちが成り上がるための道を俺が切り開いた
I got crucified. I’m the wave god.I’m the master. I’m the founder.
俺は十字架に架けられた そうウェイブ（波）ゴッドであり、マスターであり、創始者である
要するに、Young Thugは現代ヒップホップの神だということです。少し話が大きくなっていますが、最近は彼のスタイルに影響を受けたラッパーが非常に多いので、間違いではないと思います。
7. Bad Bad Bad (feat. Lil Baby)
Wheezyと、Machine Gun KellyやG-Eazyなどへの楽曲提供で知られるNilsによるプロデュース。
ThugとLil Babyが、”Bad”なガールに(自分たちにも)どれだけ贅沢させてあげられるかをテーマにラップしています。キャッチーなフックが癖になる一曲です。
個人的に好きなLil Babyのラインがこちらです。
[Lil Baby]
Different color Diors on my feet, I couldn’t decide which
どっちにするか決められなかったから、左右で違う色のDiorを履く
Diorのシューズを複数持っていることを、それらを片方ずつ履くことによってフレックスするLil Baby。頑張ってどちらか一色を選び、もう一色は別の日にフレックスしましょう。
また、フックの部分で気になったことが一つあって、Thugが“Kawasaki”、“Atari”、“Hibachi”という三つの日本語由来のワードを使って韻を踏んでいるのです。これはとても偶然とは思えないので、我々日本のファンからすると、彼の日本への関心が垣間見れて嬉しいですね。来日待ってます。
8. Lil Baby
またまたPi’erre Bourneプロデュースです。Pi’erreとThugのコンビネーション、個人的にはトラップの最高峰です。「Pi’erre Thuggin」の制作お待ちしております。少し話が逸れましたが、この曲のタイトル、非常にややこしいです。前曲でLil Babyを客演に迎えてからの、”Lil Baby(曲名)”はややこしいですよ、Thugさん。ちなみに彼が他のアーティストの名前を曲名につけるのは、全収録曲人名(ゴリラ名も含む)のアルバム「JEFFERY」リリース以来初となります。
Thugはこの曲で、彼がForbes誌のリストに載ったことをフレックスしたり、彼のSlime(友人)たちに向けてシャウトアウトしたりしています。
Fuck it, buy a pink Mercedes (Skrrt)
なんてこった、ピンクのベンツを買っちまった
I made Forbes every year, lil’ baby (Top the Forbes)
俺は毎年フォーブス誌に載ってるぜ、ベイビー
実際Thugは、”Forbes 2018 30 Under 30 list”に選ばれています。
https://www.forbes.com/profile/young-thug/?list=30under30-music#30cc774e1592
My slime brothers Pluto, Savage, and YB (Baby)
俺の友人たち、Futureや21 Savage、YoungBoy Never Broke Again、Lil Baby
Quavo (XO), Takeoff (Scooter), Offset (Roddy), Uzi (RJ)
Quavo、The Weeknd、Takeoff、Young Scooter、Offset、Roddy Ricch、Lil Uzi VertにRJmrLA
Lil Durk (Moses), Meek Mill (Nipsey), Drizzy (Travis)
Lil Durk、Joe Moses、Meek Mill、Nipsey Hussle、Drake、travis Scott
More names (Juice WRLD), plenty (PnB, Young SEX)
他にもいっぱい(Juice WRLDも) キリがない(PnB Rockも)
Thugは20人の親しいラッパーに向けてシャウトアウトしています。(8月21日にアドリブ部分の10人が追加されました。)
ところでこの曲のフック部分、聞き覚えがあるメロディラインだと思いませんか。もうお気づきですよね。Futureの「First Off (feat. Travis Scott)」のBメロのフロウを引用しています(“Forbes”というワードも、Futureのライン“Yeah, I’m back on the Forbes, shit crazy”からの引用です)。ここでも旧友Futureへのリスペクトの念が伺えます。
9. What’s the Move (feat. Lil Uzi Vert)
アトランタのヒットメイカーBL$$Dと、無名プロデューサーAyo Chef(おそらくアトランタ出身)によるプロデュース。この二人の組み合わせ、どこかで見たことがある気がしたので調べたところ、Young Thugの「Cruise Ship」をプロデュースしたコンビでした。このAyo Chefというプロデューサー、シンガーとしても活動しているみたいなのですが、自身の目立った楽曲はなく、なぜかYoung Thugの２曲(「What’s the Move」と「Cruise Ship」)のプロデュースと、Thugの「Oh Yeah」のレコーディングに携わっているという謎多き人物です。本題とは関係ないのですが、このプロデューサーについて情報お持ちの方いらっしゃいましたら教えていただきたいです。
小鳥のさえずりから始まるビートの上で、ThugとUziがメロディアスなフロウを披露します。
[Young Thug]
You just gotta tell me what you want (Tell me what you want)
欲しいものを言ってみろ
Louis Vuitton, diamonds‚ keep calm (Okay)
ルイヴィトンか、ダイアモンドか、落ち着け
——————————————————–
You make it twerk for me
君がケツを振る
You get a purse from me
財布を買ってやる
Eighty thousand dollars for her Birkin
80,000ドル(850万円相当)のバーキンも買ってやる
You get a verse for free
タダで１バース書いてやる
I make her worship me
君に俺を崇拝させるんだ
Thugは彼の女に対して、”欲しいものはなんでも買ってあげられる”というアピールを通じてフレックスをします。一方でUziは、シンプルに彼の持っているジュエリーやデザイナーズブランドの名前を出してフレックスしています。
[Lil Uzi Vert]
VVS diamonds right behind my lip
VVS(Very Very Slightly)のダイアモンドを歯に埋めている
Don’t walk with less than fifty on my wrist
50,000ドル(530万円相当)以下の時計をつけて出歩かない
Diamonds so cold on my neck, it got me sick
ネックレスのダイアモンドがコールドすぎて(やばすぎて)風邪を引いちまう
Raf Simons, mix it up with the Rick
ラフシモンズとリックオウエンスの服を混ぜて着る
歯にダイアモンドを埋めるLil Uzi Vert(25)
このUziのバース、2016年(デビュー当初)の彼を彷彿とさせるフロウを披露しています。リリースが待たれている彼の新作「Eternal Atake」では、もっとOld Uziが聴けることを期待しています。
10. I Bought Her (feat. Lil Duke)
MigosのオフィシャルDJ(プロデューサー)として名をはせる、DJ Durelによるプロデュース。実はこのビートを使ったThugの別曲が以前からあって、「Rich Daddy」という名前で2016年にリークされています。個人的に今の時点では「Rich Daddy」の方が聴き慣れているので、ついそちらのメロディーを口ずさんでしまいます。
この曲でThugとDukeは、彼らが女性に買ってあげたものや、女性との性的な関係についてラップしています。
[Young Thug]
She say she don’t suck dick, I called that bitch a cab
彼女はフェラはしないと言ったんだ、だから彼女にタクシーを呼んでやった
Young Thug様に従えない女性は帰らされて当然ですね。あとこの曲、Thugのバースのアドリブが最高なので、アドリブ部分に集中して聴いてみてください。
[Lil Duke]
Iced out Hermès belt like a wrestler
ダイアモンドも散りばめたエルメスのベルトは、まるでレスラー
Fuck her good, but I never kept her
彼女は最高だった でもキープはしない(他にもいくらでも代わりがいる)
ハイピッチで歌うDukeのバースも最高です。
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