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アビガンを上げて、落としたのは誰か

明日12月21日、承認審査の結果が発表されるというアビガン。期待の国産薬ともてはやされ、安全性の不確かな薬と貶められることになったのはなぜか。あるテレビ番組へ出演した際、画面の外で私に向かい「アビガンさえあれば」と言葉を詰まらせた、ある芸能人の方の思い出と共にふり返ります。

わが国で新型コロナ流行が本格的な始めた3月から4月当初、アビガンを推していたのは日本の医学界である。それをメディアが取り上げ、国民も「そうであれば」と期待を募らせ、日本政府も全面的に支援を行うとの姿勢を見せたのだ。医学界が当初の主張を翻してやっと批判の声を上げたのは、政府があまりにも承認を急ぐ姿勢を見せたからに過ぎず、5月に入ってからのことだった。

筆者は2020年3月から5月頃まで日本のテレビに頻繁に出演し、新型コロナ問題に対するコメントや解説を行なっていたが、その頃のテレビ局とのメールを確認すると、アビガンに関するコメントを初めて求められたのは3月中旬だったようだ。医療現場からは試験的に用いたところ効果があったようだとの声が上がり、芸能人が使用して回復したといった話も出るようになる中、アビガンへの期待は高まる一方だった。

3月23日、アビガンの過去を知る筆者が「アビガンを持ち上げるようなコメントは難しい」と伝えると、テレビ局の方から「放送では取り扱わないことにした」という返信があった記録がある。

そういったやり取りは、この1回ばかりではなかった。

それから1カ月ほどの間は、どのテレビ局からも、くり返しアビガンとアビガンのライバル薬、レムデシビルに関するコメントを求められたが、「暗い話ばかりなので、あまり希望をなくすようなことを言わないでほしい」といったリクエストが多く、筆者としてはできるだけ控えめに、投与したら2週間後には回復したというエピソードや、投与したら重症化しなかったというエピソードは、必ずしも薬の効果を示すものではなく、たとえば、自然治癒によるものかもしれないので、「比較試験を行なわない限りは薬の効果は評価できない」ということを辛抱強く伝え続けた。

ある番組に出演した際には、その頃、新型コロナで亡くなったあるタレントの方と親しかった別の芸能人の方と、小さなスタジオで同席になった。新型コロナの予防策として、同じテレビ局の中でも複数の場所に分かれて収録することが一般的になり始めた頃のことだ。テレビに画面外での会話で亡くなったタレントの方の話がおよぶと、「アビガンさえあれば…」と言葉を詰まらせた。

そこで、

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