見出し画像

「コットンパール」 Ep.2

「杏、次体育だから着替えよ〜」
友達の高田沙耶(たかだ さや)が言う。
「うん。」
あれから3日くらい過ぎただろうか。あの出来事があってから初の体育の授業だ。着替えて、沙耶と校庭に向かう。

 あ、晴人っていう人だ。否が応でも、この間の事を思い出してしまった。
私に2人の会話が聞こえてた事、気付いてるのかな…。いや、でもとにかく私は何も知らない振りをしよう。

 今日の体育の授業は、男子がサッカー、女子はテニスをする事になっている。テニスコートからは、サッカーをしている男子の様子がよく見えた。
晴人っていう人、サッカー上手いんだぁ。相馬翔矢と同じチームだ。
相馬翔矢は相変わらず、目立っていて、多くの女子は彼ばかりを見ている。
ぼーと、男子がサッカーをしているのを見ていたら、突然、晴人っていう人と目が合った。

ドキっとした。

それは一瞬で、でも確実に目が合ったと思った。

「何見てるの?」
テニスの試合を終えた沙耶が話しかけてきた。
「男子、今日はサッカーなんだね。」
「相馬くん目立ってるね〜。」
「いつもの事じゃん。あの、相馬くんと同じチームのあの人は?名前知ってる?」
晴人っていう人の事を指しながら沙耶に聞いてみる。
「どれ?今ボール蹴ってるやつ?」
「そうそう。あの人もサッカー上手。サッカー部?」
「あれは、矢崎晴人(やさき はると)だよ。私同中。晴人は中学からサッカー部で、今もサッカー部に入ってるんじゃないかなー?」

沙耶、“晴人”って呼び捨てで呼ぶんだぁ…。仲良かったのかな…?

「晴人がどうしたの?」
少しニヤっとした顔でこちらを覗き込んでくる。
「別に。ただ、サッカー上手いなって思っただけ」
「ふ〜ん。杏が男子の事聞くなんて珍しいから何かあるのかなって思ったのに。」
今度はつまらなさそうな顔をする沙耶。
「何もないよ。」

 あの人、矢崎晴人っていう名前なんだなぁ。部活はサッカー部。
私は高校では部活には入っていないし、授業が終わったらすぐに帰るから、部活をやっている人たちの事はほとんど知らない。
チャイムがなり体育の授業が終わった。私は沙耶と教室に戻って行った。

***

 気付いた事がある。
矢崎晴人は、みんなからすごく慕われているという事。矢崎晴人のことを、周りの人たちは“晴人”と呼び捨てで呼ぶ。男子も女子も。
決して目立つグループにいるわけではないけど、みんなから好かれてる。だから、目立つグループの相馬翔矢とも仲が良いのかもしれない。それに、同中なだけの沙耶が呼び捨てで呼んでいたのも納得できる。

 サッカー少年で、みんなから好かれる。イケメンではないかもしれないけど、普通にかっこいい方に入ると思う。身長も高めだし、笑った顔がいいと思った。
きっと普通にモテる人だ。
そう考えると、私の事気になってるって言うのは、私の聞き間違いか何かだったのかもしれない。
私は、大して明るくもないし、目立つわけでもない。むしろ逆で、沙耶からは、杏はクールなところが魅力的だけど、きっとクラスの男子からは、話しかけづらいオーラが出てると思われてるよ、と言われた事がある。
それは間違いでもなんでもなく、男子と関わるのは実際に面倒だと思っている。
ましてや恋愛なんて。

恋愛して良い事がない事を、私は知ってる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?