見出し画像

「コットンパール」 Ep.4

 もうすぐ夏休み前のテスト期間が始まる。
 私は、高校2年生になってから文系クラスに入った。成績は上位の方だ。大学には推薦で行けたら良いなと思っているので、テスト勉強もそれなりにしっかりやっている。私は、テスト前とテスト期間中は時々、図書室に行き勉強をしている。今日は、放課後少し勉強してから帰ろうと思い、図書室で1人勉強をしていた。

 廊下から何か賑やかな声が近づいてきた。図書室の扉が開き、賑やかな一団が入ってきた。相馬翔矢たちのグループだ。図書室だと言うのに、男女6人くらいで騒いでいる。本を読んだり、勉強しに来た様子ではまるでない。
図書室には私の他に生徒が2、3人いる程度。みんな相馬翔矢たちに気付いたが、騒がしいグループである事が認識されているからか、注意しようとする人は誰もいない。

 私も気にせず勉強を続けようと教科書を読み始めようとした時、相馬翔矢が話しかけてきた。
「隣のクラスの城山さんだよね?名前は、あんって書いて杏(きょう)って読むんだよね。」
返事ができない。人気者の相馬翔矢に話しかけられたからではなく、この状況でいきなり声をかけられたら誰でもビックリすると思う。
少し間を置いて私は返事をした。
「そうですけど…。」
「タメだよね?なんで敬語なの?」
なぜかすごく笑顔で話しかけてくる。
「だって、話したことないですし…」
「タメなんだからタメ語で話してよー」
すごい軽いノリで話しかけてくる。
「あ、はい…」
「おい、翔矢。何してんだよ?俺たちもう行くよ?」
相馬翔矢と一緒に図書室に来たうちの1人の男子が声をかけた。
「先行っててー。」
いやいや、きみも行ってくれ。と、私は思ったが、相馬翔矢との話はまだ続くらしい。
「城山さんって西中出身でしょ?」
「そうだけど。」
中学の名前を出されて、少し嫌な予感がした。
「俺の仲良い友達にも西中のやついてさ。そいつが言ってた。」
「そう。」
「城山さん、中学の時、藤崎京真ってやつと付き合ってたんでしょ?」
藤崎京真(ふじさき きょうま)。聞きたくない名前が、相馬翔矢の口から聞こえてきてビクッとした。同時に、彼への不信感が募る。
「……、誰かに聞いたの…?」
質問には答えず、なんでそんな事を知っているのか聞かなくては…、と思い、質問で返した。
「この間、他校のやつらと何人かで遊んだんだけど、そこに、さっき言った俺の友達と藤崎京真が居たんだよ。まぁ、藤崎とは、その時初めて会ったからよく知らないけど。そん時に、俺の友達が城山さんも同中って言ってて、そいつが2人は付き合ってたって言ってたから」相馬翔矢は相変わらずの笑顔で言うので、何考えているのか全く読めない。

 それにしても、わざわざ私の中学から入学する生徒が少ない高校を選んで、この高校に入学したというのに。世間は狭い…。
相馬翔矢は、私の中学時代の事をどこまで知っているんだろか。その相馬翔矢の西中の友達ってやつは、どこまで話したのだろうか。もっと詳細を聞こうと質問しそうになったが、そんな事を今更聞いても仕方がない、と思い返した。

「ふーん、そうなんだぁ」
私は、早く話を切り上げようと素っ気なく返事をする。
「ねぇねぇ、城山さんの連絡先教えてよ。」

相馬翔矢は唐突に言った。
「え?」
えぇー、なんでよ?相馬くんと連絡取る事なんて今後ないと思うけど…。
「いいじゃん。」
強引だなぁ。まぁ、連絡先くらいならいっか。それより、何よりもこの状況から早く解放されたい。図書室にいる他の人から、明らかに絡まれてて可哀想、みたいな目で見られている。
「まぁ、いいけど…。」
「ありがと!」
相馬翔矢はLINEを交換したら、「じゃあ、俺行くね。」と図書室を後にした。

いったいなんなのー。お願いだから私に絡まないでほしい。今後、相馬翔矢は要注意だな。私は、大人しく高校生活を送りたいんだから。
もう、テスト勉強どころではなくなったので、荷物をまとめて帰宅することにした。
 その日の夜に、彼から当たり障りのない、[これからよろしくね]というLINEが届いた。
相馬翔也…。関わりたくない。
私も、[よろしくお願いします。]と返信するだけで、LINEのやり取りは終わった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?