元気をもらったあの食事

イモ虫は、蜜の味

#元気をもらったあの食事 #オーストラリア #アボリジニ #虫

オーストラリアでガイドをしていた時だった。
原住民のアボリジニの方々の生活を体験しよう!というツアーがあり、
アボリジニの聖地ウルフ(エアーズロック)近辺を探索していた。
当時まだ登ることができたウルフに登り、サンセットを眺め、ブーメランを投げたりと楽しんでいたのだが、いよいよアボリジニの食事を体験しよう!ということになった。
そこは何もない土地、生きていくためにあらゆる自然の恵みを食事に変え、
生き抜いてきた人々。
貴重なたんぱく源として、イモ虫なども重宝されていた。
「さぁ、調理をします。」
と、ガスボンベに火をつけ、フライパンを温め出した。
そう、イモ虫を食べてみましょう!ということなのだ。
【生だと、抵抗があるだろうから焼きます。】という配慮のようだが、こっちとしては、もう生だろうが、蒸していようが、燃えていようが同じことである。イモ虫は、どう転がってもイモ虫でしかない。
しかも、一人でも多く食べられるようにと、数少ないイモ虫なのだろう、
3等分してくれたのだ。そのままの姿もたいがいだが、3等分されたその
物体も中々のインパクトである。しかも、丸々と太っているので、3等分
しても大きいのだ。1つ3cmはある。
ガイドをしてくれているアボリジニの方は、今はもう食べることもないと思われる、そのフライパンで転がっている3つの物体を美味しそうに眺め出した。そして、イモ虫の白い肌に少し焼き色がついた頃に、おもてなしをしてくれるかのように、
「さぁ、どうぞどうぞ。」
と、誰かが喜んで食べてくれるのを早く見たいと言わんばかりに、我々に
勧め出した。

辺りに漂う緊張感。誰が犠牲になるのか、誰一人言葉を発する者はいない。けれど、皆明らかに神経を集中して、誰かが手を挙げてくれるのを待っている。そんな空気が漂っていた。
1分が過ぎたころ、誰も食べないことを疑問に感じている風な、アボリジニのガイドさんは、
「美味しいよ。どうぞどうぞ!」と、さらに促してきた。
今度は、少し寂し気な表情をしている。

アボリジニの生活体験ツアーに参加しているくせに、貴重なたんぱく源である御馳走であったろうイモ虫を食べないというのは、とても失礼な行為である。しかも、私はツアーを盛り上げるツアーガイドではないか。
ここは私が一肌脱ぐしかない。
意を決して、「私が食べますね!」とありったけの愛想を込めて微笑みながら、心と裏腹に元気いっぱいな声で
「いただきま~す!」
と、一番美味しそうな真ん中の物体に手を出し、そのまま一気に口に入れてみた。
「あぁ~神様、嚙みたくない!でも、飲み込むには大きすぎる。少なくとも3~4回は嚙まなければいけない。」そんなことを瞬時に計算しながら、
歯と歯をゆっくりと合わせてみた。
【ジュルゥ~。】と、何とも言えない食感が口の中に広がる。
これをイモ虫だと思うから、気持ち悪いのだ。似たような食感を体験したことはある。そうだ、肉の脂身のところだと思えばイイ。牛でも豚でも鳥でも、こんな感じの部位はあるではないか。
ツアーのお客様は、皆それぞれに「どんな味?」「どんな感じ?」と聞いてくる。この味を一言で表すとしたら、この言葉が一番ぴったりくる。
「クリーミー。」
甘すぎず、臭みもなく、このトロっとした感じは、そうとしか言いようが
ない。

私は、このイモ虫の一件以来、ガイドとしての自覚が出来上がった。
私に仕事人として生きる覚悟を与えてくれたイモ虫さん。
その後、いろんなツアーで、何かの脳みそやらワニ、カンガルー、ヘビ、
何でも食べることができたのは、初めの一歩イモ虫さんのお陰です。
ありがとう。


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