片翼のツバメ
【概要】講義にて制作した作品で、「囚われる」というテーマから執筆しました。
切り離すことができない双子の運命のいく先を見守っていただけたら幸いです。
【人 物】
宮澤 愛(18)(22)恵の双子の妹
宮澤 恵(18)愛の双子の姉
塩音 祐太郎(20〜24)塾の講師・恵の彼氏
飯田 華(18)(22)恵と愛の友達
志田 瑞希(18)(22)恵と愛の友達
【本編】
○公園・外(夕方)
右翼を怪我したツバメが倒れこんでいる。
しゃがみこんでツバメを眺めている愛(幼少期)。
恵(幼少期)が愛に駆け寄る。
恵「愛、何してるの」
愛「このツバメさんもう飛べないの ?」
恵が愛の隣にしゃがみ込む。
恵「ツバメさんはね、翼が二つなきゃ飛べないんだよ。片方だけじゃダメなの」
愛「そうなんだ」
二人がツバメを見つめる。
○教室・内(昼)
愛、恵、華、瑞希の四人で机をくっつけ、弁当を食べている。
瑞希「で、このところ調子はどうですかな、恵さん」
恵「え、何が」
瑞希「何がじゃないよ、例の彼氏さんとは順調かって話」
恵「別に普通だよ」
恵がおにぎりにかぶりつく。
恵「お、今日はツナマヨだ」
瑞希がため息をつく。
華「恵ちゃんは色気より食い気だもんね」
恵がお茶を飲む。
恵「ちょっとそこ! 失礼な言葉が聞こえたんだけど。愛からもなんか言ってやってよ」
愛の腕を突く恵。
愛「全くその通り」
恵「ちょっと愛、お姉ちゃんを庇いなさいよ」
恵が愛の弁当箱に詰まっている卵焼きを取り、口に運ぶ。
愛「あ、ちょっと勝手に食べないでよ。てか自分のまだあるじゃん」
愛が恵の弁当箱に箸を伸ばす。
恵が愛の腕を掴む。
華「ほんと二人は仲良しだね」
瑞希「さすが双子」
恵「ま、性格は正反対だけどね」
恵が愛の腕を離す。
掴まれた腕をさする愛。
瑞希「そんでそんで、その彼氏さんの写真とかないの?」
瑞希が身を乗り出す。
愛「その話まだ続けるの」
瑞希「だって気になるじゃん。華も気になるでしょ」
瑞希が華に顔を向ける。
華「うん。まあ私は顔見たことあるけどね。写真だけど」
華が愛に視線を向ける。
恵「あーいー」
恵が愛へ顔を向ける。
愛が横を向く。
瑞希「華だけずるい、私にも見せて!」
瑞希が足をばたつかせる。
恵「絶対やだ。てかなんで愛が写真持ってんの。私送ったっけ?」
愛「……」
恵「愛?」
視線を下に落とす愛。
愛「同じ塾なんだし、集合写真撮った時のだよ」
華「え、集合写真じゃ」
愛「私飲み物買ってくる」
勢いよく立ち上がり、教室から出て行く愛。
恵「ちょっと愛!」
恵、瑞希、華が愛を視線で追う。
○同・廊下(同)
愛が走るスピードを緩め、立ち止まる。
愛「財布忘れたし、てか飲み物持ってたのに買いに行くとか不自然すぎじゃん」
ポケットから携帯を取り出す。
携帯を目の前に掲げ、ついているストラップを見つめる。
× × × × × ×
○(回想)塾の教室・内(夜)
愛と塩音が向かい合うように座っている。
落ち着かない様子で問題を解く愛。
塩音「あ、愛ちゃん」
動きを止め、塩音の方を向く愛。
塩音「そういえばこれ、旅行のお土産で買ったんだけどよかったらどうぞ」
塩音がご当地ストラップを手渡す。
愛「あ、ありがとうございます」
ストラップを受け取る愛。
× × × × × ×
○学校・廊下(昼)
愛、ため息をついて歩き出す。
○塾の教室・内(夕)
愛が席に着き、テキストを鞄から取り出す。
恵が教室に入ってくる。
恵「あ、愛いた」
恵が愛に駆け寄る。
恵「なんで先行っちゃったの」
愛「別に。双子だからなんでも一緒にしなくてもいいじゃん」
愛はテキストに目を向けたまま、目線を合わせない。
恵「なんでよ。もーつれないなあ」
教室のドアが開き、塩音が入ってくる。
恵「あ、先生!」
踵を返し、塩音の元へ向かう恵。
恵「先生、今日遅くない?」
塩音「いつも通りだよ」
恵と塩音が話す姿を遠目で眺める愛。
愛(N)「同じタイミングで塾に入ったのに、いつの間にか恵は先生と恋人同士になっていた」
愛が視線を戻し、携帯についているストラップを見つめる。
愛「なんでこんなとこまで同じなんだろ。ほんと嫌になる」
○同・(夜)
恵「じゃ、また来週お願いしまーす」
愛「ありがとうございました」
愛が塩音に軽く頭を下げる。
愛と恵がドアへ向かう。
愛が携帯を取り出す。
塩音「あ、愛ちゃん付けてくれてるんだね。嬉しいよ」
立ち止まる愛と恵。
愛「か、可愛かったので。せっかくだし」
愛がストラップに少し触れる。
恵が愛の携帯を見る。
恵「あれ? 私と同じのだ!」
愛「え、恵も持ってるの」
恵「前、先生が旅行のお土産でくれたものでしょ? 私は部屋に飾ってあるけどね」
恵が愛にストラップの写真を見せる。
恵「ほら、愛と一緒」
塩音「恵もつけてくれて良いんだよ?」
恵「だって無くしちゃったらやだもん」
塩音「そんな、お土産ぐらいで大袈裟だよ」
塩音の言葉に、ショックを受ける愛。
愛「……私寄るとこあるから先帰る」
愛が教室から飛び出す。
恵「ええ? ちょっと待ってよー! じゃあね先生」
恵が愛を追いかけ教室を出る。
○塾の帰り道・外(同)
愛が走っている。
恵が愛を追いかける。。
恵「今日の愛なんかおかしくない? なんで怒ってんの」
信号が赤になり、横断歩道で立ち止まる愛。
愛「怒ってない」
恵「怒ってるじゃん」
恵が愛の横に並ぶ。
愛「じゃあ怒ってる」
恵「なんじゃそりゃ」
愛は俯いたまま、足元を見つめる。
恵は赤信号を見つめる。
愛が小さくため息をつく。
愛「じゃ言うけど、顔は同じなのにいつも優先されるのは恵じゃん」
恵「え、何それ、どういうこと?」
愛「私の好きなものも全部奪ってく」
信号が青に変わり、愛が先に歩き出す。
恵「奪ってって、そんなつもりないけど」
愛が奥歯を噛む。
愛「自覚ないならなおさら。先生だって」
愛の歩くスピードが速まる。
恵「愛! ちょっとまっ」
恵が愛を駆け足で追う。
車が二人が渡る横断歩道に、スピードを上げて向かってくる。
愛「私、恵と双子になんてなりたくなかった!」
横断歩道を渡りきり、愛が振り向く。
突っ込んできたトラックが、横断歩道を渡っていた恵に衝突する。
恵の体が飛ばされ、道路に転がる。
愛「……え」
恵の頭が潰れ、大量の血が流れている。
転がった恵の姿を眺める愛。
愛の視界が霞み、倒れる。
暗転//
愛(N)「何が起きているのか分からなかった。気づいたら私は病院のベッドの上で。ふと掲げた掌からは、微かな血の匂いと冷えた体温を感じた」
○アパート・部屋・内(夜)
ドアが開いて、塩音が部屋に入ってくる。
塩音「恵ただいま」
愛「おかえり先生」
愛が塩音に駆け寄り、ジャケットと荷物を受け取る。
塩音「だから先生じゃなくて名前で呼んでって言っただろう」
愛「癖が抜けないんだから仕方ないでしょー」
愛がジャケットをハンガーにかける。
塩音「高校の時一回だけ呼んでくれたじゃないか」
塩音がネクタイを緩める。
愛が手を止める。
塩音「恵?」
愛「そうだったっけ」
塩音「全く恵はドライなんだから」
塩音が後ろから愛を抱きしめる。
見つめあい、キスをする。
○(回想)公園・外(夕方)
右翼を怪我したツバメを、愛がしゃがみこんで見つめている。
愛「このツバメさんもう飛べないの?」
愛に黒い影が近づき、隣にしゃがむ。
恵「ツバメさんはね、翼が二つなきゃ飛べないんだよ。片方だけじゃダメなの」
愛がツバメに手を伸ばす。
○(回想)塾の帰り道・外(夜)
道路に恵の死体が転がっている。
愛「……え」
転がっている恵が愛の方を向く。
恵「だから言ったでしょ、片方だけじゃダメだって」
愛が後ずさる。
黒い影にぶつかる。
恵「片方だけじゃダメなの。私の愛も注がなきゃ。ね?」
○アパート・内(朝)
愛と塩音がベッドで寝ている。
目を覚まし、勢いよく体を起こす。
愛「はあ、またこの夢」
塩音が目を覚ます。
塩音「どうしたの、また嫌な夢でも見た?」
愛「いや大丈夫」
塩音「また愛ちゃん?」
愛「……」
塩音「本当に悲しいことだけど、しょうがないよ。恵も辛いよね」
愛の手を握る塩音。
握られた手を握り返すことができない愛。
○駅前・外(昼)
愛が時計の柱に寄りかかっている。
華が愛の元へ駆け寄る。
華「愛お待たせ、待った?」
愛「ううん、今来たとこ」
二人が歩き始める。
○カフェ・内(同)
愛と華が向かい合って座っている。
愛「ごめんね。いつも呼び出しちゃって」
華「ううん、気にしないで」
華がコーヒーを飲む。
華「瑞希も心配してたよ。愛ちゃんが本当の自分を忘れちゃうんじゃないかって」
愛「私もそれが怖いの。でもあの人にとって必要なのは恵だから」
コーヒーに反射する自分を見つめる愛。
華「愛はさ、自分を好きになってもらいたくないの」
愛が窓の外を眺める。
愛「そんなの、好きになってもらいたいに決まってるよ」
華「だったら」
愛「でもだめなの、それはできない」
俯く愛。
華「愛……」
愛「あの人が好きなのは恵。でもこの身体だけは私のものだってこと、私だけが知っていれば十分よ」
愛は華を見つめる。
華「愛はそれでいいんだね」
華が愛を見つめ返す。
華「ごめん。意地悪なこと言ったね」
華が席を立ち、愛の隣に座る。
愛を抱きしめる。
華「私はちゃんと見てるから。今ここにいるのが愛だって知ってるから。瑞希もね」
愛「うん。ありがとう」
愛が華を抱きしめ返す。
○アパート・部屋・内(夕方)
ドアが開き、塩音の靴があるのを見つける。
愛「ただいまー。あれ、先生帰ってる」
愛が靴を脱ぎ、部屋に上がる。
愛「先生帰ってるの? 今日は早いんだね」
リビングの椅子に塩音が座って、手紙を読んでいる。
愛「先生何読んで」
塩音「愛ちゃんじゃないよね」
愛「え?」
塩音「恵だよね、今ここにいるのは恵なんだよね」
塩音が振り向く、
塩音「そうだよね? そうなんだよね?」
愛「そ、れは」
愛が後ずさる。
塩音「恵」
塩音が椅子から立ち上がり、愛に近づく。
愛がテーブルに置かれた封筒を見る。「愛へ」の文字。
愛「……なに言ってるの、私は恵だよ。彼女の名前間違えないでよ」
塩音「だよね。そうだよね。もうびっくりしたよ」
塩音が愛を強い力で抱きしめる。
愛「先生痛いよ」
塩音「お母さんから手紙届いてたよ。でも間違ってたんだ。おかしいよね、もうこの世に愛ちゃんはいないのに」
愛「……」
塩音が愛から身を離し、両腕を掴む。
塩音「恵ちゃんは居なくなったりしないよね」
愛が頷く。
塩音「良かった」
塩音が安堵の表情を浮かべる。
口をきつく結ぶ愛。
塩音「あのね、ずっと君に渡したいものがあったんだ」
塩音がポケットから指輪の入った箱を取り出す。
塩音「恵、僕と結婚してください」
愛が差し出された指輪を見つめる。
指輪にはMEGUMIと文字が刻まれている。
愛「……喜んで」
○婦人科の待合室・内(昼)
愛が椅子に座り、お腹をさすっている。
看護師「塩音恵さーん」
愛「あ、はーい」
愛が立ち上がり、受付へと向かう。
看護師「あともう少しですね。お名前もう決めてるんですか?」
愛「はい」
○通っていた塾の帰り道。外(昼)
愛がお腹をさすりながら歩いている。
信号機が赤になり、横断歩道で立ち止まる。
お腹にいる赤ん坊へと話かける愛。
愛「私は私じゃなくなっちゃったけど、私の分まで幸せになってね、愛ちゃん」
信号機が青に変わる。
一羽のツバメが目の前を横切る。
END